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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
4月から始まったリーグ戦もレギュラーシーズンはいよいよ最終節。プレーオフ進出を決定させているバニーズ京都SCと新潟医療福祉大学女子サッカー部の一戦は、すっかりビジョンも近代化された西京極です。
千本哲也監督就任1年目となった昨シーズンは、チャレンジリーグWESTでプレーオフ進出枠とは4ポイント差の4位。目標には到達できなかったものの、なかなか結果の出でいなかったここ数年を考えれば、確実に"芽"が育っていることは内外に示したバニーズ京都SC。即戦力も多数加えて臨んだ今シーズンは開幕戦こそ敗れたものの、2節からは怒涛の5連勝を飾るなど8戦無敗を記録。前述したように13節のアウェイゲームでプレーオフ進出を決めていますが、レギュラーシーズンで考えればこの一戦はホーム最終戦でもあり、「彼女たちは目の前に試合があれば一生懸命やりますし、目の前に敵がいれば勝ちたいと思いますし、ゲームに対してのモチベーションが低いという状況に出会ったことがない」と指揮官もきっぱり。プレーオフへと最高の形で向かうための90分間に挑みます。
創設は2012年。すぐさま新潟県リーグと北信越リーグを相次いで制し、チャレンジリーグ参入チーム決定戦も堂々と勝ち抜け、2015年シーズンからこのリーグに参入している新潟医療福祉大学女子サッカー部。EASTでの参加となった昨シーズンは、6勝3分け6敗と五分の成績を残しながらも、リーグ3位でのフィニッシュとなってプレーオフ進出権は獲得できず。今シーズンからはアルビレックス新潟レディースやアルビレックス新潟シンガポールの指揮官も歴任している奥山達之監督が就任しており、「サッカーも変えなくてはいけなかったですし、個人技術の所も上げていきたいというのがあったので、そういう意味ではここからトップレベルの選手を輩出していきたい」とはその奥山監督。現在はリーグ最下位に沈んでいますが、何とか最終戦で意地を見せたい所です。スタンドにはスクールの子供たちも含めて、バニーズを応援するために集まった少なくない観客が。楽しみな一戦はバニーズのキックオフでスタートしました。
ファーストチャンスは新潟。2分にボランチの小須田璃菜が左へスルーパスを通すと、オーバーラップしていたサイドバックの小野遥香はクロス。エリア内でこぼれたボールを山谷幸が放ったシュートはクロスバーを越えましたが、「それぞれのちょっとした気の緩みがあったんじゃないかなと思います」とバニーズのキャプテンを務める山本裕美も話したように、序盤は新潟が勢い良く立ち上がります。
4分に澤田由佳がクイックで始めたFKは味方と合わず、8分にも澤田を起点に池田あすみがエリア内へボールを付けるも、右へ開いた西川樹の折り返しはDFに引っ掛かるなど、なかなかフィニッシュを取れないバニーズは、「お互いのペースの探り合いというか、『お互いを知る』というような所」(奥山監督)の中でテンポを上げ切れず。逆に18分は新潟。木下蕗のパスから松本苑佳が中央へ流し込み、突っ込んだ山谷はわずかに届かず、バニーズのGK後長美咲がキャッチしましたが、続くのは膠着した睨み合い。
20分はバニーズのダイナミックなアタック。右サイドバックに入る池田のパスを受けた左サイドバックの酒井望は、得意の左足で右へサイドチェンジ。佐藤莉奈のクロスは新潟のGK高橋智子がキャッチしたものの、ピッチの幅を使った好トライを披露すると、24分には決定機。ルーズボールを澤田が収め、佐藤は左へ丁寧なスルーパス。フリーで待っていた渋谷由美子のシュートは、しかし高橋が抜群の飛び出しでビッグセーブ。スコアは動きません。
新潟も27分には山谷幸の縦パスを山谷瑠香が落とし、小須田が枠の右へ外れるミドルを放ったものの、以降は「相手の守備のブロックをウチがどう崩すかで、相手が我慢してボールを取ってカウンターという構造」(千本監督)が続く時間帯に。32分はバニーズ。酒井の右CKに清原万里江が合わせたヘディングはクロスバーの上へ。40分もバニーズ。左サイドで酒井が縦パスを付けると、ここにいたのは何とCBの清原。ヒールで落としたボールから、渋谷の左クロスはGKにキャッチされましたが、千本監督は「相手に捕まえられへんので良いんですけど、リスクが大きいという面もあるので、あまり積極的に『そういう風にやろうぜ』とはしていないです」とやや苦笑いを浮かべる中で、清原は「本当はああやって前に上がって行くのが得意なプレーです」とニコリ。面白いアタックを見せると、絶好の先制機はその直後。
41分に山本が右サイドへ振り分けたボールを、西川は絶妙のヒールフリックで流すと、今度は清原とコンビを組むCBの石井咲希がサイドを駆け上がってピンポイントクロス。ファーにフリーで潜っていた渋谷のヘディングはわずかに枠の左へ外れ、思わず渋谷は頭を抱えましたが、両CBの積極性が呼び込む惜しいチャンス。42分は新潟。バイタルで前を向いた小須田は凄まじいループパスをラインの裏へ送り、ノートラップで叩いた三浦唯のボレーはゴール左へ逸れるも、小須田のセンスにどよめくスタンド。
45分も新潟。右サイドでボールを拾った松本は左足でクロスを上げ切り、ファーへ飛び込んだ山谷幸はわずかに届かなかったものの、「『良い状態の時には顔を出すスピードを上げよう』というようなこともやっていた」と奥山監督も手応えを口に。45+2分はバニーズ。レフティの松田望が戻したボールに、酒井が鋭いクロスで呼応するも、飛び込んだ佐藤と西川は触り切れず。「ウチのそこそこの良さと、相手の凄く良い所が出た」と奥山監督も表現した前半は、スコアレスでハーフタイムに入りました。
後半はスタートからバニーズに2枚替え。「チームの構造は変えずに選手の特徴を少し変えることで、チャンスを創って点を取ろうという感じ」という千本監督は、渋谷と池田に替えて、吉越ひかりと花崎玲奈をピッチヘ送り込み、花崎はそのまま池田のいた右サイドバックへ。吉越は3トップの中央に入り、その位置にいた西川が左へスライドして、残された45分間へ向かいます。
51分にはルーズボールを収めた佐藤が枠の左へ外れるミドルを放ち、まずはバニーズが後半のファーストシュートを記録しますが、後半最初の決定機は新潟。52分に松本が右へ流したボールを、長沢は丁寧にクロス。ファーに走り込んだ山谷幸のシュートは枠を襲うも、ここは後長がファインセーブで仁王立ち。こぼれを山谷幸が残し、松本が打ち切ったシュートも後長がしっかりキャッチしますが、新潟があわやというシーンを創出します。
「後ろからもロングボールがちょっと多くなっていました」と清原も認める流れの中で、「ちょっと縦へのパスが増えてきたので、『それはもったいないな』と思って、『もうちょっと下から創ろうかな』と思った」という松田望が引いて受けることが多く、ボールは低い位置で収まるものの、そこからのテンポアップに苦労している感のあるバニーズは、61分に佐藤のパスを松田がヒールで繋ぎ、澤田のミドルは高橋がキャッチ。62分は新潟。三浦が右へラストパスを通すと、松本が思い切り良く狙ったミドルはクロスバーにハードヒット。「運動量もこの中では一番多い方だと思いますし、どこにでも顔を出せるタイプなので、最後の精度の所の改善が望めれば、これから凄く良い選手になると思います」と奥山監督も認める151センチのボランチが打ち出す存在感。
さて、「変な表現ですけど殴り続ける状態で、『いつ相手のガードが下がるか』と。でも、『なかなか下がらへんなあ』となったら、ちょっと取られ方が悪くなったり、こっちが大振りになったりという感じやった」と千本監督も言及する展開下で、67分には松田を起点に吉越がスルーパスを狙い、西川が走るも飛び出した高橋がキャッチ。69分にも長沢のパスを松田は左足アウトで流し、佐藤のシュートは高橋にキャッチされるも、スムーズなアタックを。71分にも自ら投げた左スローインから、澤田のリターンに松田がクロスを上げ切り、ニアに突っ込んだ佐藤はオフェンスファウルを取られましたが、10番を背負うレフティがチャンスに顔を出す機会も頻繁に。
74分は新潟に1人目の交替。攻撃に良く絡んでいた山谷幸を下げて、1年生の増田玲那をピッチヘ。79分はバニーズ。澤田が左へスルーパスを通し、酒井のクロスに吉越が飛び込むもオフェンスファウル。84分もバニーズ。松田、佐藤としっかりパスを回し、花崎のミドルは枠を捉えるも、高橋が懸命にキャッチ。86分は新潟に2人目の交替。山谷瑠香とやはり1年生の米里ひなたをスイッチして、「暑いので体力的な面で苦しかった所もありますけど、守備に関してはこれだけ変わるので、それは手応えとしてありました」と後半の守備を評価した奥山監督も、攻撃のカードを切って最後の勝負に。一方のバニーズも87分に3枚目の交替。「最後の最後はもうひと頑張りしてもらうかということで」(千本監督)、こちらも西川と吉澤亜依を入れ替える勝負の一手を。果たして勝敗の行方はいかに。
輝いたのは「サッカーは楽しくやらないとですからね」と笑うナンバー10。その時間は90+1分。「バニーズの中心はやっぱり7番と10番だと思っているので、この2人がどれだけ自由にできるかで決まってくると思います」と山本も話す、その7番の澤田が左サイドで残すと、サイドを回った松田はエリア内へ侵入。「GKが少し動いたのは見えたので、『最悪でもどっちかに転べば良いかな』という感じで蹴りました」というクロス気味のシュートは、そのままGKの手を弾いてゴールネットへ転がり込みます。「本人は『シュートや』って言っていますので、僕もそっとしておきます(笑)」と指揮官も笑い、その張本人も「それねえ、シュートって言っておきます(笑) 昨日スーパープレー集の動画をたまたま見ていて、ブラジルの右サイドバックがああいうのを決めていたので、イメージだけはあったということも伝えておきます(笑)」と楽しそうに笑いましたが、「変に柔らかいボールを入れるより、相手のミスで入っても良いですし、合わせてくれても良いみたいな感じのボールを入れたのは、やっぱり彼女も経験も技術もありますし、その瞬間の判断は正しかったと思います。頼りになるなと思いますね」と続けた千本監督の言葉は、おそらくチームを取り巻くすべての人の総意。最後は林咲希も4枚目のカードとして送り込み、クローズにも成功したバニーズに凱歌。リーグ最終戦を劇的な勝利で飾り、スタンドに詰めかけたサポーターを熱狂に包み込む結果となりました。
十分な健闘を見せながら、最後の最後で失点を許す格好で敗れ、これでリーグ最下位が確定した新潟。「こんな試合ばっかりですよ(笑) 引き分けも多いですし、最初に点を取ったりはしているんですけど、最後の所で追い付かれたりするんですよね」と奥山監督も悔しさを滲ませていましたが、確かにこの日のゲームだけで判断する限りは、最下位という結果には首を傾げたくなるようなパフォーマンスを見せていたと思います。「ウチはアルビレックスのレディースとの関係もありますので、そこに食い付いていけるような選手を育てていきたいと思いますけど、もちろん結果を求める中で、今日みたいに1人1人の課題を出すような状況も作っていきたいですし、毎試合毎試合課題を出しつつという感じですね」と奥山監督も手応えと課題を常に感じながら、チームを先へと進めて行っている様子。今後の彼女たちにも注目してみたいと思います。
「最後の最後で点は取れましたけど、プレーオフに向けては修正点が多いなと思っています」(山本)「色々とできたこともありますし、できなかった反省点もいっぱいあります。これからプレーオフまではちょっと時間もあるので、修正できたらなと思います」(松田)「失点ゼロで点が取れたというのはモチベーション的にも良かったですけど、まだまだいっぱい改善する所はありますね」(清原)と、試合後の選手たちからは反省ばかりが聞こえてきたバニーズ。それでも局面局面では好プレーも少なくなく、約1か月後に迫っているプレーオフに向けて、成果と反省が相半ばという90分間だったように感じました。個人的に「なるほどなあ」と思ったのは、応援してくれるサポーターの数と、その彼らに対する選手やスタッフの距離感の近さ。「もちろんチームが勝つこと、カテゴリーをチャレンジリーグからなでしこリーグに上げることというのは、クラブとして絶対に必要なことやし、大切なことだと思うんですけど、他方でやっぱりこういう京都という街には色々なものがあると。別にサッカー以外にも楽しいことは他にいっぱいあって、行政もサッカーで街を盛り上げる前に、放っておいても日本全国から、あるいは世界中から人が来てくれるので、そういう街で応援して頂けるようなチームであったり、選手にならないといけないので、そういう所をもっともっと頑張らないといけないんです」と話した千本監督は、「『見ていて面白かったから、また見に行きたいな』と思ってもらえるようなゲーム内容であることも大前提として大事だと思うので、そういうサッカーのスタイルを確立することや、そういうゲームを毎試合やることも大事ですし、地域に発信していくことも大事ですし、色々なことをやって、もっともっとお客さんに『バニーズ楽しいで』『バニーズ面白いで』ということがもっともっと広がるようにしていきたいと思いますし、現状でも本当にありがたいですけど、そこに満足することなくやっていきたいと思います」と確かな決意を。様々なものを古都の地で追い求めていく覚悟を決めた紫兎の壮大な挑戦は、いよいよこれからが本当の勝負所です。 土屋
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