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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
東京高校サッカー界の聖地とも言うべき、西が丘への進出権を懸けたクォーターファイナル。東京朝鮮と都立日野台の対峙は都立東久留米総合グラウンドです。
西が丘に勝ち進むこと過去に4度。ただ、第76回大会の準優勝を含めていまだ頂点に立った経験はなく、全国大会出場は宿願となっている東京朝鮮。今シーズンは関東大会予選こそ初戦で日本学園に敗退を余儀なくされたものの、インターハイ予選ではその日本学園にリベンジを果たすと、準々決勝では帝京を5-3という撃ち合いの末に下して4強進出。その準決勝では全国ベスト4まで躍進した関東第一に敗れましたが、明確に見えた今後への道筋。迎えた今大会も初戦でT1所属の駿台学園を2-1と振り切り、堂々とこのクォーターファイナルを戦います。
リーグ戦の所属カテゴリーはT3。選手権予選でも過去3大会は続けて都大会まで顔を出すなど、都立校の中でもその実力は十分に認められている都立日野台。今シーズンは新人戦の地区予選敗退で関東大会予選へは出場できませんでしたが、インターハイ予選では1次予選の初戦で最終的にベスト8まで駆け上がった早稲田実業と延長までもつれ込む熱戦を展開。最後は2-4と敗れたものの、難敵相手の善戦で確かな手応えを。今大会は1次予選を13得点2失点という圧倒的な数字で突破し、都大会初戦も駒場学園に5-1と快勝を収め、先週の大成戦も4-4という壮絶な殴り合いの末に、PK戦を制してこの舞台まで。創部初となる西が丘まではあと1勝です。この一戦は東京朝鮮のリャン・ヒョンジュ(2年・大宮アルディージャJY)がチリで行われるFIFA U-17ワールドカップに北朝鮮代表として出場することが予定されているため、準々決勝の中では1試合だけの繰り上げ開催。激戦必至の80分間は10時ジャストにキックオフを迎えました。
いきなり魅せたのは注目のストライカー。5分にCBのキム・テウ(2年・西東京朝鮮第一中)がDFラインの裏へフィードを送り、走ったリャン・ヒョンジュはうまく抜け出して1対1になると、GKをキックフェイントで冷静に左へかわして無人のゴールへボールを送り届けます。「練習でも結構ああいう裏への飛び出しは意識しているので、それが試合でも出て良かったと思います」と話した11番が早くも結果を。あっという間に東京朝鮮が1点のリードを手にしました。
「相手は2試合中9得点と攻撃力があるチームで、それを警戒しながらディフェンスからしっかり入って、1点ずつ入れて行こうとチームで決めていた」とキャプテンのキム・ファンジ(3年・東京朝鮮第一中)が話し、リャン・ヒョンジュも「相手は前の試合で大成と良い勝負をしていて頑張るチームで、自分たちも頑張らないとやられるので最初の入りを意識していた」と続けたように、ゲームの入り方に注力していた東京朝鮮にとっては最高の立ち上がり。7分にも左からカン・ドゥホ(3年・東京朝鮮中)が上げたクロスを、ニアで合わせたキム・スンミョン(3年・東京朝鮮第五中)のボレーは枠の左へ外れ、8分に左サイドを持ち出したリャン・ヒョンジュのドリブルには、日野台のGK春日崇希(3年・八王子由井中)が果敢に飛び出してキャッチしましたが、十条の虎がゲームリズムを掌握します。
ところが、12分に日野台へ訪れた絶好の同点機。左SBの田中達也(2年・ARTE八王子FC)がスローインを投げ入れ、伊藤乾之(3年・稲城第一中)がダイレクトで繋ぐと、エリア内へ潜った茂木航平(3年・FC.GONA)はDFともつれて転倒。ホイッスルを鳴らした主審はペナルティスポットを指差します。キッカーは博田広樹(3年・八王子中山中)。短い助走から右を狙ったキックは、しかし東京朝鮮のGKチェ・ヒョンジュ(3年・埼玉朝鮮中)が完全に読み切って横っ飛びでストップすると、直後に右から茂木が蹴ったCKもニアでリ・キョンチョル(3年・東京朝鮮中)が大きくクリア。「本当に頼れるGKです」とキム・ファンジも認めるチェ・ヒョンジュのビッグセーブ。同点ゴールは許しません。
すると、次の得点を記録したのも東京朝鮮。16分にキム・テウが右へ送ったパスから、リャン・ヒョンジュはサイドをえぐり切って中央へ。リ・フィドン(3年・埼玉朝鮮中)の丁寧な落としを、ペク・スンホ(3年・西東京朝鮮第一中)が右足で叩くと、ボールは左上のゴールネットへ一直線に突き刺さります。まさにピンチの後にチャンスあり。東京朝鮮が追加点を奪いました。
早くも2点を追い掛ける展開となった日野台。22分には茂木がミドルレンジからシュートを放つも、ボールは枠の左へ。25分にも伊藤の仕掛けから獲得した右CKを茂木が蹴り込むも、キム・テウが確実にクリア。これを博田が拾い、再び茂木が入れたクロスもペク・スンホがきっちりクリア。なかなかエリア付近からはフィニッシュまで持ち込めませんが、28分に飛び出したのは綺麗な形からの追撃弾。
右サイドでボールを持ったSBの佐宗佑亮(2年・FC.Branco八王子)は斜めにグラウンダーで素晴らしいボールを打ち込み、バイタルに飛び込んだ兼光敢(3年・府ロクJY)はパーフェクトなポストプレー。左に持ち出した亀石隼斗(3年・POMBA立川FC)が左足を振り抜くと、ボールはゴール右スミへ美しい軌道を描いて吸い込まれます。サイドを起点にした完璧なアタックからのゴラッソ。たちまち点差は1点に縮まりました。
30分にエリア内右寄りでボールを奪ったリ・フィドンのクロスを、リャン・ヒョンジュが枠の左へ外したシュートを見て、高隆志監督は早くも決断。31分に1枚目のカードとしてチョン・リョンホ(2年・埼玉朝鮮中)を左SHへ送り込み、カン・ドゥホを右SHへスライドさせると、3度目の歓喜はその4分後。ここもエリア内右寄りでリ・キョンチョルが粘って残し、そのまま中央へグラウンダーのラストパス。ファーでフリーになっていたリャン・ヒョンジュは難なくゴールネットを揺らします。「サイドをえぐって、1人がニアに入って、真ん中でもらうというのは練習でも結構やっている」とここも練習の成果を強調した11番は早くもドッピエッタ。3-1。再び双方の点差は2点に開きます。
畳み掛ける十条の虎。40+2分、右サイドからSBのハン・チュンヒョン(2年・東京朝鮮中)がアーリークロスを放り込み、巧みなトラップで収めたリ・キョンチョルのボレーは、春日がワンハンドでビッグセーブ。40+3分、リャン・ヒョンジュがファーへピンポイントで合わせた右CKから、キム・テウの完璧なダイレクトボレーはここも春日が何とかセーブ。「1点入れられたけどすぐに取り返したので、良い流れだと思いました」とはリャン・ヒョンジュ。東京朝鮮が2点をリードして、最初の40分間は終了しました。
後半スタートから動いたのはリードしている東京朝鮮。1アシストを記録したリ・フィドンに替えて、ルーキーのムン・インジュ(1年・埼玉朝鮮中)をピッチヘ送り込み、アタッカー陣に新たなアクセントを。45分は日野台。兼光はドリブルで獲得したゴールまで約30mの左FKを自ら直接狙うも、ボールはクロスバーの上へ。46分は東京朝鮮。リャン・ヒョンジュの左FKにキム・テウが合わせたヘディングは春日がキャッチ。49分は東京朝鮮。左SBのパク・ヒャンジェ(3年・東京朝鮮中)がアーリークロスを繰り出し、中央でマーカーを振り切ったムン・インジュのシュートも春日にキャッチされましたが、「あの子がキーポイントになるんです」と高監督も言及した1年生アタッカーに漂う独特の雰囲気。
51分は日野台に決定機。左から茂木が入れたCKを、フリーになっていた佐宗が高い打点でヘディング。ボールはわずかに枠を外れ、こぼれを茂木が枠へ収めたシュートはチェ・ヒョンジュが何とか弾き出しましたが、あわやというシーンに沸き上がる日野台応援席。52分にはルーズボールを収めた兼光がミドルレンジからシュートを打ち切り、チェ・ヒョンジュにキャッチされるも、少しずつリズムを掴み始めます。
それでも手数は東京朝鮮。54分にパク・ヒャンジェの左アーリーをリャン・ヒョンジュはスルーで外し、カン・ドゥホがカットインから狙ったシュートは春日がキャッチ。56分にハン・チュンヒョンが果敢に打った25mミドルも春日がキャッチ。守護神の春日に加え、山下徹朗(3年・FC.Branco八王子)と西目峻也(3年・コンフィアール町田JY)のCBコンビを中心に、何とか次の失点を食い止め続ける日野台は57分に1人目の交替を。ボランチで奮闘した野村優太(3年・城山中)に替わって、ピッチヘ登場したのはキャプテンの後藤壮太(3年・ヴェルディSS相模原)。腕章が兼光から後藤に譲り渡され、整った日野台の反撃態勢。
63分は東京朝鮮のカウンター。左サイドをグングン運んだリャン・ヒョンジュが中央を窺うと、ここに最後方から走り込んでいたのは「気持ちだけでは絶対に負けないように考えています」というCBのキム・ファンジ。グラウンダーのクロスには数十センチ届かず、「足がもうちょっと伸びていたら入ったんですけど」とキャプテンは悔しがりましたが、チームの指揮を確実に上げるようなプレーの2分後に飛び出したスーペルゴラッソ。
65分、右サイドからハン・チュンヒョンが逆サイドのスペースへフィードを届けると、受けたリャン・ヒョンジュはマーカーをハンドオフで弾き飛ばすと、中央へ潜りながら右足一閃。強烈なスピードを保ちながら巻かれたボールは、右スミのゴールネットを力強く揺さぶります。「縦に行ってのシュートはいつも結構入るんですけど、カットインからのシュートが結構入らなくて、夏休みからずっと蹴り込んでいた」というエースはこれで圧巻のトリプレッタ、すなわちハットトリック。「アイツは向上心をずっと持って努力するヤツなので、そういう所は後輩ですけど尊敬できます」とキム・ファンジも評したリャン・ヒョンジュのゴラッソで、東京朝鮮に大きな4点目が入りました。
止まらないヒョンジュ。68分、カン・ドゥホとのパス交換からリ・キョンチョルが絶妙のタイミングでスルーパスを繰り出し、オフサイドギリギリで抜け出したリャン・ヒョンジュのシュートは春日が懸命にファインセーブ。70分、左サイドで2人を相次いでかわしたリャン・ヒョンジュは3点目と同じような形から右スミを狙うと、ここも春日が超ファインセーブで切り抜けましたが、トドメの一撃は「お互いに信頼し切っている」と指揮官も言及したヒョンジュ&インジュで。
72分、中央で収めたカン・ドゥホが短く戻したボールを、ムン・インジュは中央へ100点満点のタイミングと強さでスルーパス。「出し手が良かったので動き出しも見てくれて、そこに出してくれたので決めるだけでした」と振り返るリャン・ヒョンジュはこれまた最高のタイミングでDFラインと入れ替わると、1対1も冷静に左スミへグサリ。「あの子を後半に出すのが大きな利点なんです。今まで期待を裏切ったことは一度もないので」と高監督も絶賛のムン・インジュから、最後はエースが驚愕の1試合4ゴール。5-1。試合の大勢は決しました。
何とか1点を返したい日野台。72分には佐宗と柳沢駿(3年・ARTE八王子FC)をスイッチすると、75分には久々のチャンス。後藤を起点に兼光が狭いスペースへスルーパス。伊藤は全力で走りましたが、最後はオフェンスファウルという判定でシュートには至らず。76分には大渕詩音(1年)を、77分には梶川倫平(3年・FC.GONA)を相次いでピッチヘ解き放ち、最終盤に向かいます。
それでも「前半は守備が不安定な所があって、それを後半は修正できたのが大きかったと思います」とキム・ファンジも語った東京朝鮮ディフェンスは強固。チェ・ギョンオ(3年・東京朝鮮第一中)、キム・ソンホ(2年・東京朝鮮第五中)とこちらも交替枠を使い切って取り掛かるゲームクローズ。79分にはリャン・ヒョンジュの左FKから、キム・テウがクロスバーを越えるヘディングを放ち、80+2分にも右CKを蹴ったリャン・ヒョンジュが、こぼれを自らわずかに枠の右へ外れる無回転ミドルに変えるなど、最後まで次の得点を狙う意欲を失わずに聞いたファイナルホイッスル。「今年のチームは本当に団結力があるので、出ていないヤツらの分も戦おうという気持ちが強いと思います」とキム・ファンジも胸を張った東京朝鮮が5ゴールを奪い切って、6年ぶりの西が丘へと駒を進める結果となりました。
「東京朝鮮、強し」という80分間だったと思います。「思っていた通りの展開になって、向こうのカウンターを警戒していたんですけど1点入れられて。PKも入れられていたら難しかったですし、点差は付いたんですけど五分五分の展開だったと思います」と話した高監督も「ただ、ウチにはリャン・ヒョンジュがいるので」と続けたように、4ゴールを叩き込んだリャン・ヒョンジュの存在はもちろん非常に大きい中でも、そのエースも「まだまだこのチームでやりたいですし、まだ3年生を引退させたくないと思っていて、その中で自分ができることは点を取ることなので、まずチームということを考えながらやっていました」とチームへの想いを強調。キム・ファンジを中心に80人の部員全体が纏っている一体感には例年以上のものを感じます。それでも、「1失点ですけど危ないシーンはたくさんありましたし、PKもありましたし、まだまだ修正点は多いと思います」(キム・ファンジ)「4得点決められたことは嬉しいんですけど、まだまだ全然課題があると思います」(リャン・ヒョンジュ)と快勝にも浮かれる様子は微塵もなし。「目標は全国なので西が丘は通過点ですし、ここでは満足できないと思うので、あとはチームの意思疎通を自分がしっかりしたいと思います。何が何でも気合いで勝つという、戦う覚悟はできています」と力強くキャプテンが宣言した西が丘で躍動する彼らの姿が、今から非常に楽しみです。 土屋
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