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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
ミッドウィークのアフターヌーンマッチ。1勝1分け2敗の7位と黒星先行の東京朝鮮が2勝1分け1敗の4位と白星先行の大成をホームに迎える一戦はおなじみ東京朝鮮中高級学校グラウンドです。
インターハイ予選は暁星の前に1次トーナメント敗退。選手権予選では優勝候補の呼び声も高かった成立学園を撃破したものの、伏兵の保善に足元を救われる格好で西が丘を目前にして敗退。リーグ戦でも入れ替え戦で駿台学園にPK戦の末に屈し、T2降格を余儀なくされるなど悔しい昨シーズンを過ごした東京朝鮮。今シーズンは「今回はずっとチャレンジャー精神で頑張っていこうと思っています」と語る10番を背負うキャプテンのリ・キョンチョル(2年・東京朝鮮中)を中心に、初めての全国大会出場を最大の目標に掲げつつ、巻き返しの1年にするためのリーグを戦います。
T2在籍は早くも3シーズン目。過去2シーズンも3位、5位と着実にトップディビジョンを視界へ捉えつつある大成。昨シーズンはトーナメントコンペティションでもインターハイ予選で多摩大目黒、選手権予選で実践学園と都内トップクラスの強豪と接戦を演じるなど、その実力は各校も認める所。ここまでのリーグ戦では都立三鷹中等、堀越と昨年の選手権ファイナリストをいずれも大差で下しており、「T1も何試合か見ているんですけど、戦えるなという風に思っています」と豊島裕介監督も一定の手応えを口に。アウェイとはいえ勝ち点を譲るつもりは毛頭ありません。少し風は冷たいものの16時の十条はポカポカ陽気。大成のキックオフで楽しみな90分間は幕を開けました。
先に勢い良く飛び出したのはホームチーム。2分、左サイドでDF2人の間をぶち抜いたカン・ドゥホ(2年・東京朝鮮中)はそのままドリブルからフィニッシュまで。ここは大成のGK櫻井康佑(2年・帝京FC)がファインセーブで凌ぎ、右からリ・キョンチョルが蹴ったCKも濱川海人(2年・TACサルヴァトーレ)がクリアしたものの、いきなりチャンスを連続で創り出すと、8分にもリ・キョンチョルの左CKからキム・スンミョン(2年・東京朝鮮第五中)が残し、リャン・ヒョンジュ(1年・大宮アルディージャJY)のボレーは枠の右へ外れましたが、まずは東京朝鮮がゲームリズムを掴みます。
するとスコアを動かしたのもやはり東京朝鮮。11分、CBのウン・ソンフィ(2年・埼玉朝鮮中)が左へフィードを送ると、受けたカン・ドゥホは中央へ。リャン・ヒョンジュのシュートはDFに当たってこぼれましたが、ここにいち早く反応したキム・スンミョンのシュートはゴール左スミへ転がり込みます。「追い風だったので本来だったら5分蹴って回そうという作戦だったんですけど、このまま蹴った方が良い流れが続くかなと」(リ・キョンチョル)ピッチで判断した中でのフィードが見事結果に。東京朝鮮が1点のリードを奪いました。
12分にも東京朝鮮の決定機。左への展開からカン・ドゥホが右へサイドを変えると、縦に持ち出したチェ・ギョンオ(2年・東京朝鮮第一中)のシュートは右のポストにハードヒット。左サイドに張り出したカン・ドゥホがチームにもたらす推進力は大きな武器に。大成も14分には野島樹哉(1年・Forza'02)が蹴ったFKのこぼれを黒田雄大(1年・東京ベイFC U-15)がボレーで叩くも、ボールは大きくクロスバーの上へ。15分にも黒田が右へ展開したボールを、清水拓はカットインしながら枠へ収めるも東京朝鮮のGKチェ・ヒョンジュ(2年・埼玉朝鮮中)ががっちりキャッチ。「思ったより強かった風が怖くて、ボールを受けられなかった部分もあった」と豊島監督。なかなかチャンスの形を打ち出し切れません。
「点数も入ったし良い流れ」(リ・キョンチョル)のホームチームの中で、安定感があったのは昨年からゲームに出ていたペク・スンホ(2年・西東京朝鮮第一中)とリ・キョンチョルのドイスボランチ。特にリ・キョンチョルはFWでの能力も非常に高い選手ながら、「状況判断も良いし、ゲームも読める。あの子がいるかいないかで全然違います」と信頼を寄せる高監督は中盤との併用を。本人もFWへの意欲を覗かせながら、「チーム的に自分が真ん中にいた方が良い流れを創れると思います」と自らの役割をしっかり認識して、ミドルゾーンで攻守に存在感を発揮してみせます。
ただ、流れが変わり始めたのは大成が創ったセットプレーでの決定機から。29分、右からのCKを西尾裕也(2年・横河武蔵野FC JY)はマイナス気味にグラウンダーで蹴り込み、ニアへ走った吉田航(1年・S.T.SC)のスルーを経て、清水はミドルをゴール左スミギリギリへコントロール。同点かと思われた瞬間にチェ・ヒョンジュの超ファインセーブに掻き出され、清水も頭を抱えましたがデザインされたCKで迎えた"あわや"。直後に連続して獲得した右CKの2本目も西尾のボールは野島樹哉へわずかに合わずも際どいシーン。「落ち着くようになってゲームは創れるようになった」(豊島監督)大成に出てきた攻撃のテンポ。
40分の歓喜はビハインドのアウェイチーム。右サイドでボールを持った清水はシンプルなフィードを裏へ。相手の高いラインを巧みにブレイクし、完全に抜け出す一人旅を謳歌した西尾はGKとの1対1も冷静に制し、ボールをゴールネットへ送り届けます。「前半の終わりくらいから相手ペースになった」と認めたのはリ・キョンチョル。流れを引き寄せた時間帯にきっちりゴールを奪った大成がスコアを振り出しに引き戻して、最初の45分間は終了しました。
後半はスタートから両チームに交替が。東京朝鮮は最前線のキム・スンミョンを下げて、ボランチにキム・シンジュン(2年・東京朝鮮中)を送り込み、リ・キョンチョルが2トップの一角へ。大成は「中に入っていく選手が入った時に良い役割をしてくれるんじゃないかなと」(豊島監督)左WBを大河内星夜(2年・東京ベイFC U-15)から山田大哉(2年・帝京FC)にスイッチして、残された45分間に向かいます。
開始から1分も経たない46分は大成。林悠太(2年・FC府中)が落としたボールを、中に入って狙った濱川のシュートは枠の右へ外れるも好トライ。48分も大成。左から山田がドリブルで運びながら放ったミドルは、チェ・ヒョンジュがファインセーブ。60分にも西尾と林が細かいパス回しに絡み、山田が打ったシュートはDFにブロックされましたが、「案の定、山田を入れたことでこっちに流れがグッと来た」と指揮官も認めたように、山田の積極性がチームにもたらしたさらなるパワー。
「後半に入っても自分たちのプレーができず、ずっと相手ペースだった」(リ・キョンチョル)状況の中で、高監督の決断は61分。シン・ヒョンボムを右SHへ送り込み、チェ・ギョンオはリャン・ヒョンジュと並ぶ2トップへ移行。その2トップ下にリ・キョンチョルが入って、ペク・スンホをワンアンカー気味に配したダイヤモンドに近い中盤の形で、「サイドでワンクッションさせて基点を創らせてしまって、すべて流れが悪くなった」(高監督)ことへの対策を。ただ、63分にはチョン・ギョンオが奪った右FKを、ゴールまで約25mの位置からリ・キョンチョルが直接狙いましたが、ボールは枠の右へ。大きな流れは変わりません。
65分は大成。濱川が右へ流し、清水のアーリークロスをニアで巧みに収めた林のシュートは、果敢に飛び出したチェ・ヒョンジュが体に当てるファインセーブで仁王立ち。67分も大成。黒田のリターンから山田が狙ったミドルはチェ・ヒョンジュがキャッチしましたが、「今年はこの3枚で3バックを経験した上で色々考えていきたい」と指揮官も話す野島樹哉、吉田、野島裕哉(1年・Forza'02)で構成された1年生3バックもピンチを未然に消し去り続ける大成に漂い出した逆転弾への雰囲気。
1年生ストライカーは優秀なスナイパー。68分、中盤で前を向いたペク・スンホがゴール前に浮き球を送り、走ったリャン・ヒョンジュは粘って粘ってボールを残しながら、GKとDFが間合いを詰めたにもかかわらず、そのまま強引にペナルティエリア内へ侵入。一旦はボールをロストしかけたものの一瞬の隙を突いて左足をチョコンと押し出すと、球体はコロコロとゴール左スミへ転がり込みます。「アイツが良くやってくれるので、アイツに回せばいいかなという感じでやっていた」とはキャプテン。押し込まれていた東京朝鮮が再び1点のリードを奪いました。
さて、「良い形は創れていたんですけど、やっぱりフィニッシュの精度の甘い所からまたカウンターで1失点を食らってしまった」と豊島監督も話した大成は再び1点を追い掛ける展開に。72分に左から桜井裕幹(2年・相原FC)が蹴ったFKもDFがクリア。逆に74分には東京朝鮮もリャン・ヒョンジュが枠内ミドルで打ち出す3点目への意欲。74分には大成にチャンス。左サイドを抜け出した林がそのまま放ったシュートは、チェ・ヒョンジュがここもファインセーブで弾き出し、ウン・ソンフィが大きくクリア。75分に山田が打ち切ったミドルもチェ・ヒョンジュが確実にキャッチ。「蹴るために前で待っているみたいな感じだったのて、それを1つ引いてきてボールを受けたりすることで、相手を引きずり出してということができた」(豊島監督)ことでチャンスの数は増加したものの、"あとわずか"を崩し切ることができません。
76分には東京朝鮮に選手交替が。CBで奮闘したキム・ファンジ(2年・東京朝鮮第一中)に替えて、キム・テウをやはりそのままCBの位置へ投入。77分は大成。桜井の左FKに濱川が頭で飛び込むも、最後はチェ・ヒョンジュがしっかりキャッチ。78分も大成。高い位置で相手ボールを奪った西尾のシュートもチェ・ヒョンジュがキャッチ。80分も大成。桜井の左アーリーをトラップした清水のボレーミドルはDFに当たって枠の左へ。81分は東京朝鮮。キム・ソンホ(1年・東京朝鮮第五中)の鋭いクサビから、うまくギャップで受けたリャン・ヒョンジュは左へ流し、カットインしたカン・ドゥホにはマーカーとGKが殺到してシュートは打たせず。残りは5分とアディショナルタイム。レッドタイガーの2勝目はもう目前。
86分に林のミドルもチェ・ヒョンジュにキャッチされたのを見て、大成ベンチは最後の一手を決断。黒田に替えてピッチへ解き放ったのは「とにかくマジメ」と指揮官も評した185センチの長身FW田原愼乃介(2年・FCトッカーノ)。「彼を入れることで『前に勝負を懸けるよ』というメッセージも1つ入れたかった」という豊島監督。87分には桜井、西尾とボールを回し、清水の右クロスはチェ・ヒョンジュが懸命にパンチング。同じく87分、桜井が左のハイサイドへ通し、開いた西尾のクロスはゴール前に混戦を生み出すも、何とかDFがクリア。東京朝鮮は88分にチェ・ギョンオとリ・フィドン(2年・埼玉朝鮮中)を入れ替え、ゲームクローズに取り掛かります。
唐突なドラマは90分。主役は途中出場の16番。東京朝鮮のゴール前で必死にクリアしようとしたDFへ寄せたのは林。このボールが上空高く舞い上がると、誰よりも早く落下点に入った田原はゴール方向へ頭をねじってヘディング。ボールはGKの頭上を越えて静かに、それでいて力強くゴールネットへ到達します。大成応援団前へと駆け出した田原に折り重なるイレブン。「ああいう所で体を張って彼が点を取ったということは、チームにとってみても凄く良かったと思います」と豊島監督。執念を見せた大成が土壇場で追い付き、両者に勝ち点1ずつが振り分けられる結果となりました。
「逆転できたのは良かったですけど、ラストで集中力が切れて1点食らっちゃったので、それで同点になったのが少し惜しかった」とリ・キョンチョルが話したように、終盤は押し込まれ続ける時間の中で失点を許し、勝ち点2を失う格好になった東京朝鮮。それでも、リ・キョンチョルやリャン・ヒョンジュ、カン・ドゥホなどアタッカー陣に面白いタレントを多く擁し、チームがうまく機能した時のワクワク感は高く、「なかなか楽しいチームだなと思います」という高監督の言葉にも頷けます。今シーズンの目指す所を問われ、「大型選手がいないので全員で走って、とりあえず良いディフェンスから点数を狙えるチームを創って、必ず去年よりは良い成績を残したいと思っています」と高監督。東京朝鮮のチームとしての伸び率には大きな可能性があると思います。
「負け試合だったと思うんですけど何とか勝ち点1は取れたので。ただ、全然満足はしていないというか、もうちょっと点は取れたと思うし、もう少し圧倒できなくてはいけないゲームだったのかなという風には思います」と試合を振り返った豊島監督。後半の山田の投入で明らかにギアが上がったものの、チャンスを生かし切れないタイミングでの失点など、いくつかの修正ポイントも明らかに。そんな中で「彼らも今日終わった時に負けたような顔をしていたので、納得が行かなかったという所が次にまた進めるかなと思います」と指揮官も言及したように、その修正すべき部分は選手たちが一番理解している様子でした。手応えは間違いなくチーム全体が掴みつつある中で「それを過信ではなくて『だからもっと努力しようよ』という形でアプローチしています。去年よりも上に行くチャンスはあるのかなと思っているので、そこは長い目で見て彼らたちと一緒に考えていきたいなと思います」と豊島監督。大成が今シーズンも都内で面白い存在になっていきそうな雰囲気は、この日の90分間から十分に感じました。 土屋
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