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J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
達磨レイソルの船出は、いきなりの「負ければ終わるという試合」(吉田達磨監督)。ACL本選出場を懸けた重要な一戦は黄色に染まった日立台です。
6年に及ぶネルシーニョ体制に別れを告げた柏が、満を持した格好で次の新指揮官に指名したのは吉田達磨。同クラブのアカデミー出身であり、Jリーグの舞台でも太陽のエンブレムを付けてプレー。京都と山形を経て、帰還したクラブではアカデミーの礎を築き、工藤壮人や酒井宏樹、武富孝介、茨田陽生など近年のトップ昇格組の大半を指導するなど、育成には定評のあった彼が、初めて指揮を執る"大人"のチームは、当然自らを育ててくれた黄色のトップチーム。「本来ならもう2週は少なくとも欲しい所」を4週で何とか仕上げ、迎えるのはアジアへと打って出るためのプレーオフ。自身のためにも、そしてクラブのためにも、間違いなく成長できるACLの舞台へとチームを導くのは大きなファーストミッションです。
そんな太陽王の前に立ちはだかるのは、今年から京都の監督を務める和田昌裕監督を頂き、昨シーズンの国内リーグでは堂々と2位に入ったチョンブリFC。今大会は予選2回戦で香港の傑志を相手に、ブラジル人ストライカーのレアンドロ・アサンプカンがハットトリックの活躍を見せてこのステージへ。そのレアンドロと2トップを組むジュリアーノ・ミネイロ、ボランチのアンデルソン・ドスサントスといったブラジル勢に加え、仙台や磐田でのプレー経験のあるチョ・ビョングクもスタメンに名を連ねるなど、外国籍選手をうまく融合させながらプレーオフまで勝ち上がってきており、2008年以来7年ぶりとなるACL本選に向けて意気上がります。新シーズンの、そして新体制でのオープニングマッチを後押ししようと、雨の降りしきるスタジアムには多数の黄色を纏った同志たちが。"KASHIWA"の文字が躍ったゴール裏。待ったなしのデスマッチは19時ジャストにキックオフを迎えました。
ファーストチャンスは柏。2分に大谷秀和と工藤壮人の連携で奪ったCKを右から武富孝介が蹴ると、一旦は跳ね返されたボールを武富が拾って中へ。大谷は巧みなロブで裏を狙い、走った武富は届かずにGKのシンタウィチャイ・ハタイラッタナクールがキャッチしますが、悪くない崩しのアイデアを。6分にもクリスティアーノのパスからレアンドロが放ったシュートは、チョ・ビョングクが体でブロック。同じく6分には左サイドでボールを奪い切った輪湖直樹がクロスまで持ち込み、武富のボレーは枠の左へ外れたものの、アジアの舞台で戦うことへの欲求を序盤から随所に滲ませます。
今シーズン最初の歓喜は素晴らしい形から。8分、工藤の戻しを受けたキム・チャンスは広い視野で左へ最高のサイドチェンジ。大谷も絶妙のトラップで縦に持ち出し、枠へ収めたシュートはシンタウィチャイがファインセーブで弾いたものの、ここに詰めていたのは武富。丁寧に押し込んだボールはゴールネットを静かに揺らします。「アイツに関しては僕が監督でやるやらないというよりは、僕の構想に凄い昔からずっと入っていた選手」とスタートミーティングで指揮官も言及した15番が、復帰の挨拶代わりとなる大きな先制弾。ホームチームが早くもスコアを動かしました。
ところが、「現時点でのこのチームの中での課題」と守護神の菅野孝憲も認めたシーンは失点に直結。10分、最終ラインでボールを持ったチョンブリのCBスティナン・プコーンがシンプルなフィードを送ると、鈴木大輔とキム・チャンスの間に潜ったレアンドロ・アサンブカンは後者を振り切って独走。GKとの1対1も冷静にボールをゴールネットへ送り届けます。一瞬で静まり返った日立台。たちまちリードは霧散してしまいました。
再び得点が必要になった柏も15分には決定機。クリスティアーノがシザーズから上げたクロスは工藤にドンピシャも、左足ボレーはクロスバーの上へ。17分も柏。輪湖が中へ戻し、大谷が斜めに入れたボールに工藤が飛び出すも、ヘディングは当たらずシンタウィチャイがキャッチ。19分も柏。キム・チャンスの右クロスを一度は空振りした大谷が収めて左へ。クリスティアーノの折り返しから、武富が合わせたボレーは枠を越えましたが、サイドアタックからきっちり創り続ける好機。
中でも秀逸の動きを披露したのは達磨チルドレンとも言うべき、左サイドバックの輪湖。「クリスはやっぱり強烈ですし、前を向くこともできるし仕掛けることもできるので、あまり早く回っても相手も対応がわかりやすくなると思って、ちょっと遅れて入るというのは意識しました」というオーバーラップのタイミングはまさにパーフェクト。23分にはクリスティアーノとのワンツーから武富が左へ流すと、上がってきた輪湖のクロスから中央で3連続シュート。最後はキム・チャンスが枠の上へ打ち上げるも、完全な崩しのパターンを。25分にも大谷が左へグラウンダーを通すと、輪湖のクロスを工藤が残し、レアンドロのシュートはDFがライン上でクリアしましたが、「わかりやすいというか、チームとしても個人としても形的にしっかり崩せるという共通理解があると思うので、やっていて本当に楽しい」と語る輪湖がチームの大きな推進力として機能し続けます。
ただ、耐える時間の続くチョンブリも「カウンターの強烈さというか強さというのは、Jにはない独特の間合いだったりがあった」と工藤も話したように、虎視眈々と狙う一瞬のギアチェンジ。36分、チョンラティット・ジャンタカームを起点にジュリアーノが左へ展開すると、クルゥクリット・タウィカーンのクロスをレアンドロ・アサンプカンはヘディングで枠内へ。菅野がファインセーブで掻き出し、アドゥール・ラッソのシュートは枠の右へ外れたものの、2度目のチャンスもしっかり決定的なシーンへ結び付けてくるしたたかさ。
37分は柏。レアンドロ、クリスティアーノと繋ぎ、輪湖のクロスへニアに飛び込んだ工藤のシュートは枠の左へ。39分も柏。武富のパスからループ気味に狙った工藤のミドルはシンタウィチャイがキャッチ。42分はチョンブリ。ボランチのアンデルソン・ドスサントスが右へ振り分け、ヌルル・シーヤーンケーンのクロスに飛び込んだジュリアーノは触れませんでしたが、斜めのクロスへの対応には柏ディフェンスに一抹の不安が。45+1分は柏。茨田陽生が付けたボールを武富は左へスルーパス。クリスティアーノのクロスをレアンドロは打ち切れず、キム・チャンスのシュートはアンデルソンが体でブロック。「我々が攻めて、その攻め込んで空いたスペースを相手が攻めこんでくる、本当に予想通りの展開」(吉田監督)だった前半は、お互いが1点ずつを取り合ってハーフタイムに入りました。
「ゴールを決めないと試合が終わらない」と指揮官に送り出された後半の柏も、スタートからラッシュ。48分に武富、レアンドロと繋ぎ、キム・チャンスのクロスにクリスティアーノが合わせたヘディングは、シンタウィチャイががっちりキャッチ。53分にも左サイド、ゴールまで約20mの距離からクリスティアーノが直接狙ったFKはクロスバーの上へ。突き放したいホームチーム。
58分に訪れた勝ち越しのチャンス。クリスティアーノが左からアーリークロスを放り込むと、レアンドロに対応したスティナンがハンドでストップ。笛を鳴らした主審はペナルティスポットを指し示します。重要な場面のキッカーはレアンドロ。短い助走から選択したのは左。シンタウィチャイが飛んだのは逆側。沸騰した日立台。新チームのスタイルにも難なくフィットしていたストライカーのPKで、柏がまたも1点のリードを奪いました。
悪癖再び。59分はチョンブリのカウンター。ヌルルのパスを右サイドで受けたレアンドロ・アサンプカンは、裏街道でマーカーをぶっちぎってそのままエリア内へ。枠へ飛ばした強烈なシュートは菅野が懸命のファインセーブでせき止め、鈴木が何とかクリアしたものの、1点目同様に創られたゴール直後の大ピンチ。ここは守護神の好守で凌ぎましたが、嫌な雰囲気がスタジアムに漂います。
鋭い刃を剥き出したタイのブルーシャーク。「茨田と武富の中間ぐらいにポジションを取っていた」と話す大谷の後ろ盾も得て、再三チャンスを演出していた武富のスルーパスに抜け出したレアンドロが、GKとの1対1を枠の左へ外した直後の65分がそのシーン。右サイドでボールを持ったレアンドロ・アサンプカンがアウトで左へ送ると、エリア内でトラップしたクルゥクリットは少し中へ潜って右足一閃。軌道はゴール左上へ強烈に突き刺さります。「ちょっとスーパーなシュート」と工藤も表現したゴラッソが飛び出し、またもやスコアは振り出しに引き戻されました。
69分に相手陣内でボールを奪ったクリスティアーノがミドルを枠の左へ外すと、先にベンチが動いたのはチョンブリ。74分、ヌルルに替えてチャクリット・ブアトーンを投入して、サイドの推進力アップに着手するも、直後の決定機は柏。クリスティアーノの右CKは中央でフリーになっていた大谷へ。しかし、放ったヘディングはゴールカバーに入っていたDFがライン上でクリア。75分も柏。クリスティアーノの右クロスに、走り込んだレアンドロが合わせたヘディングはシンタウィチャイがキャッチ。「あれだけゴール前に引かれると1人外しても足が出てくるとか、もう1人いるとか、多少そういう所で練習してきた部分とちょっと違った部分もあった」と工藤。突き放せない太陽王。
吉田監督の決断は77分。工藤を下げて、太田徹郎をそのまま右ウイングへ送り込み、「もうひと押し、もうひと押し、ということが続いていた」状況の打破を。78分には早速太田が絡み、大谷が裏へ送ったパスに武富が頭で飛び付くも、ボールは枠の右へ。80分にも太田、武富とボールが回り、レアンドロとのワンツーからクリスティアーノが放ったシュートはシンタウィチャイがキャッチ。届かないあと一歩。
「何人か疲れの見える選手も出始めた中でしたけど、まだ行けるというか、このメンバーで続けた方が。ゴールチャンスを創れていない、ゴールチャンスを創られている、ということであれば交替の必要はあったと思いますが、フレッシュな選手を入れて流れを継続できないケースもありますから」という吉田監督はこのままで90分間を戦う覚悟を。その算段には「我々は90分を戦った試合自体もまだまだ少ないチームですので、残りの約10分ぐらいで30分の延長を戦うということを頭の中に入れました。我々にとっては未体験ゾーンですが、我々が球を持っている以上は、時間が伸びれば伸びるほど不利ではないということがありましたので」という意図が。勝ち切るための120分を視野に入れたゲームデザイン。
85分は柏。茨田、輪湖とボールを回し、1人外したクリスティアーノのシュートは強烈も、シンタウィチャイが正面でセーブ。86分にチョンブリは2人目の交替を。2点目を挙げたクルゥクリットを下げて、キラティ・キウソンバットをピッチ上へ。87分は柏。レアンドロが左から上げたクロスを大谷が丁寧に落とすも、クリスティアーノのシュートはクロスバーの上へ。アディショナルタイムに突入した90+4分にはチョンブリに絶好のゴールチャンス。レアンドロ・アサンプカンが左へパスを送ると、抜け出したキラティの背後にはまったくのフリーでジュリアーノが並走。ボールが出たら完全に菅野と1対1という場面でしたが、キラティは気付かず寄せたDFにボールを奪われ、柏は何とか命拾い。直後に後半終了を告げるホイッスル。アジアへの切符は前後半15分ずつのエクストラタイムで争われることになりました。
「やはり僕たちがここ最近ではJリーグの中で一番高い所を経験しているし、そういう世界を見ているという所で、やはりそういう舞台に帰らないといけない」(工藤)という想いはサポーターも一緒。黄色い円陣が解け、ピッチへ選手たちが駆け出すと、黄色いスタンドのボルテージもさらに上昇。延長開始34秒、輪湖のパスからクリスティアーノが中へ戻し、太田のシュートはシンタウィチャイが何とかセーブするも、勝利への意欲は十分。92分はクリスティアーノが、94分には太田が相次いで枠内シュートを放つなど、チョンブリゴールを脅かし続けます。
チャンスは必ず決定的なシーンへ繋げるチョンブリの逞しさ。95分、レアンドロ・アサンプカンが運んだボールはこぼれるも、チャクリットが狙ったシュートはDFに当たってギリギリ枠内へ。必死にバックステップで飛び付いた菅野がファインセーブで掻き出すも、あわやというシーンにどよめくスタジアム。96分は柏。カウンターから輪湖が右へ送るも、カットインから打ち切ったクリスティアーノのシュートはクロスバーの上へ。99分に吉田監督はMVP級の活躍を見せた輪湖と山中亮輔をスイッチすると、101分には自らのドリブルで奪った左CKを山中が蹴り込み、レアンドロがフリックしたボールから、最後はクリスティアーノが狙うも軌道はクロスバーの上へ。105分にはチョンブリの攻撃を牽引し続けるレアンドロ・アサンプカンが仕掛けるも、1人で曝されるシーンはほとんど勝ち続けていた鈴木がここも完璧なボールカットで摘んだピンチの芽。勝負は残された15分間へ。
106分にチョンブリが切った最後のカードはアクシデント。執念で体を張り続けていたチョ・ビョングクが負傷でプレー続行不可能となり、スラウィッチ・ロージャルウイットがボランチへ送り込まれ、アンデルソンがCBに1列下がる配置転換を。107分は柏の決定的なシーン。茨田が右へ振り分けたボールをキム・チャンスは短く縦へ。裏へ潜ったクリスティアーノがマイナスへ折り返すと、走り込んだ太田のスライディングシュートは、しかし左ポストを直撃。108分に太田、111分にクリスティアーノが打ったシュートもゴールには至らず。「今日が一番チームにフィットしていたので、彼もおそらく少し手応えを感じている」と指揮官も言及したクリスティアーノは12本のシュートを打ったものの、遠い加入後初ゴール。
113分にも柏のビッグチャンス。山中のパスを受けた太田が左からグラウンダーでクロスを入れると、ニアでレアンドロが滑りながら合わせたシュートはわずかに枠の左へ。このシーンを見て吉田監督は最後の交替カードを投入。クリスティアーノに替わって日立台のピッチへ現れたのは新10番。スタジアムに響く「大津祐樹を止めないで」。交替直後にはスラウィッチから激しいタックルを受けるシーンもありましたが、立ち上がった大津に送られる大きな拍手。いよいよゲームは最後の5分間へ。
千両役者は王国のストライカー。116分に大津が仕掛けて獲得した右CK。スポットに立った太田が渾身のキックを中央へ蹴り込むと、ニアサイドに飛び込んだのはレアンドロ。頭から撃ち抜かれたボールは、水しぶきを上げてバウンドしながらゴールネットへ飛び込みます。「PKまで行くともっと難しくなるので、その前に決めたいという思いがあった。ゴールを決めようという気持ちのみで決めました」と語った11番の一撃で激闘に終止符。「もちろんホッとしています。嬉しいよりはホッとしていますね」と語った吉田達磨初陣は苦しみながらも、終わってみれば柏がシーズン初勝利とACL本選への出場権を奪い取る結果となりました。
「勝って当然だと思っていたし、ここで勝って満足している人は誰1人いないので、やっとタイトルを獲りに行く権利をもらえたという気持ちの方が強い」(菅野)「ACLを経験している選手も徐々に少なくなってきましたけど、レイソルとしての経験や価値というのは残っているので、レイソルは今こういうプレーオフで敗れるということは正直あり得ない」(工藤)とACL経験者の2人が声を揃えたように、苦戦は強いられたものの最低限の勝利という結果が得られたことは小さくない成果かなと。前述したように「本来ならもう2週は少なくとも欲しい所なんですけれども、4週でどう仕上げるかという所に目標を定めて」(吉田監督)、昨年までの6シーズンとはまったく異なるスタイルを構築していく過程の端緒で、当然プライオリティが置かれるのはその新スタイルのベース中のベース。それを考えれば「よく1ヶ月でここまでになったと思う」という大谷の発言にも頷けるくらい、基本的なボールの回し方とサイドからの崩しのスムーズさは昨年と格段の違いを見せていたと思います。「とても課題がわかりやすい。誰が見ても課題」と吉田監督も認めた守備面に関しても、「サイドからのクロスを上げられた時のマークだったり、裏に蹴られた時にラインがバラバラになってしまっている時の対応だったりという意味では、今までやってきた課題がちょうどこういう大会で出てくれたというか、もちろん勝たなくては何も始まらない試合でしたけど、大きな意味のある失点だったと思うし、それを生かすも殺すも選手次第だと思うので、僕は凄くポジティブに捉えています」と守護神の菅野。「もっともっと全然良くなるチームだなという印象が今日はありました」と輪湖が話せば、「結構自分たちのサッカー、自分たちのサッカーって色々な所で言われてますけど、僕たちは言葉でもそうですけど、プレーでもしっかり表現できるようになってきていると思う」と工藤。結成1ヶ月の"新チーム"という点から考えても、今後に十分のびしろを感じさせる120分間だったのではないでしょうか。 土屋
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