クラブユース同士の最終決戦。関東の太陽王子と四国の柑橘王子が対峙する舞台は、引き続き広島広域公園第一球技場です。
ユース界七不思議の1つとも称されたジンクスを打ち破り、プリンス関東2部へ昇格したのは2年前。クラ選で初の全国制覇を果たした昨年を挟み、駆け足でトップディビジョンへと王手を懸けた柏レイソルU-18。後期に入って昨年同様に失速の日々を強いられたものの、新レギュレーションにも救われた格好の関東2位通過で参入戦へ。難敵の磐田U-18を1回戦で撃破して、辿り着いた"決勝戦"に挑みます。
昨年は創設メンバーだったプレミアWESTから無念の降格。必勝を期して3年ぶりに臨んだプリンス四国を圧倒的な成績で制し、1年でのカムバックを誓う愛媛FCユース。石丸清隆前監督のトップ昇格を受け、後を引き継いだ青野慎也監督も強度の高い好チームを構築。1回戦は大分U-18に1点差で競り勝ち、このファイナルマッチへ進出。最大にして唯一の目標達成はもう目の前です。遠く広島の地まで掛け付けた両チームのサポーターが愛情のチャントを注ぐ中、最後の1試合は柏のキックオフで時計の針が動き出しました。
序盤からゲームは想像通りの展開に。中谷進之介（3年・柏レイソルU-15）と上島拓巳（2年・柏レイソルU-15）の両CBを起点として丁寧にボールを回す柏に、ある程度ブロックを敷きながら専守の態勢を整える愛媛。とはいえ、「ちょっとピッチがナイーブというか、いつもと違う天然芝で慣れない部分はあった」と下平隆宏監督も言及したように、ポゼッションの時間こそ長い柏のスイッチはなかなか入らず、ボールだけが機械的に動く時間が続きます。
柏のスタイルは当然頭に入れていたであろう愛媛は、相手のボール回しにも岡田一騎（3年・愛媛FC JY）と山本亮太（2年・愛媛FC JY）のCBコンビが指揮を振るい、スライドを繰り返しながらきっちり対応。その中でもバイタルへ侵入しかけた相手には、大森遊音（3年・サンフレッチェびんごJY FC）と堀内勇佑（3年・愛媛FC JY）のドイスボランチを中心に激しくプレス。「ウチの鍵を握る（手塚）康平の所であまり前を向けなかった」と柏のキャプテンマークを巻いた中谷も振り返ったように、アンカーのレフティ手塚康平（2年・柏レイソルU-15）も効果的な"縦"は入れられず、訪れないテンポの"破調"。
愛媛が振り下ろした一太刀。18分、ボールを持った岡村直哉（3年・横浜ポラリスFC）は中央を切り裂くスルーパス。ここにフリーで抜け出したのは岡村と2トップを組む清川流石（2年・愛媛FC JY）。応援席からの悲鳴も聞こえる中で清川が放ったシュートは、柏のGK伊藤俊祐（3年・柏レイソルU-15）が正面で阻止したものの、先に決定機を創出したのは愛媛。30分にも長尾龍斗（3年・サンフレッチェくにびきFC）のFKに堀内が競り合い、こぼれを叩いた高木俊輝（3年・サンフレッチェくにびきFC）のボレーはクロスバーを越えましたが、先に愛媛が2回のチャンスを創出します。
「前半は流れが悪いなと。いつものサッカーができないなというような流れだった」とCFの大島康樹（2年・柏レイソルU-15）も振り返ったように、フィニッシュが遠い柏。36分には手塚が右へ送ると、右FWに配された会津雄生（2年・柏レイソルU-15）は左足でクロス。ニアに飛び込んだ白井永地（3年・柏レイソルU-15）のヘディングは枠の右へ逸れ、先制とは行きませんでしたが、サイドアタックから1つチャンスを。40分と43分には「アレは完全にウチの武器」と下平監督も評価した麦倉捺木（2年・柏レイソルU-15）が左からクロスを放り込むも、シュートには至らず。
44分にも「（鈴木）大輔君とかドゥーさん（近藤直也）って結構スライディングするじゃないですか。アレをずっとやりたくて、『ちょうど来た！』と思って」という中谷が会心のスライディングでボールを奪い、そのまま前線へとオーバーラップ。宮澤弘（3年・柏レイソルU-15）とその中谷を経由し、大島が放ったシュートもDFがコースに体を投げ出してブロック。中1日ということもあって「お互い運動量がなくて均衡したゲーム」（中谷）は45分間を経過してスコア動かず。0-0でハーフタイムを迎えました。
後半は先に愛媛がセットプレーからチャンス創出。47分、白石直人（2年・愛媛FC JY）の仕掛けで獲得した右CK。高木が蹴ったボールはDFのクリアに遭ったものの、脅かした柏ゴール前。48分には相手陣内中央で得た間接FK。ワンタッチを狙って清川が枠を目掛けたキックは直接伊藤の元へ向かいましたが、まずは繰り出した手数。上がるサポーターのボルテージ。
飛び出したレイソル"らしさ"。49分、中込暁（3年・柏レイソルU-15）が中へ付けたボールを、手塚は浮かせて縦へ。エリア内へ潜った中山雄太（2年・柏レイソルU-15）が頭で落とすと、「打ったことないようなシュートだったけど、とりあえずフカさないように枠に入れようと思って打った」大島のボレーは、ゴール右スミへ確実に転がり込みます。「焦らずにいつもの通り続けていけば、必ず点は入ると思っていた」という指揮官の信頼を形にしたのは、「自分が点を取らなきゃいけないというのはわかっている。昔と違って責任感は強くなったし、3年生からメンタルの強さを学んだ」という伝統の"9番"を託されたストライカー。完璧な崩しの形から、柏が1点のアドバンテージを手にしました。
粘り強く守っていた中で、先に失点を許した愛媛。59分に左から蹴った高木のFKがそのままゴールラインを割ると、1人目の交替を決断した青野監督。白石を下げて、山内翼（2年・愛媛FC JY）を送り込み、中盤のてこ入れに着手。69分には左SBの里岡航（2年・廿日市FC JY）の縦パスで抜け出した清川がクロスを上げ切り、走り込んだ岡村はわずかに届きませんでしたが、73分にもキャプテンの高木に替えて、忽那喬司（1年・愛媛FC JY）を右SHへ投入。プレミア復帰に懸ける強い執念を表出します。
陽はまた昇る。77分、ここも手塚が起点となり、大島は左へ気持ちを乗せてスルーパス。裏を取った10番を背負う宮澤がファーサイドへ打ち込んだシュートは、愛媛のGK渡辺健太郎（3年・大洲南中）が抜群の反応で弾き出しましたが、ここに詰めたのは会津。世界を経験してきた17歳がこの大舞台で挙げた追加点は、持ち前の高い技術というよりも"気持ち"のゴール。柏に大きな大きな2点目が入りました。
意地を見せたい愛媛は、失点直後に長野旭伸（1年・愛媛FC JY）を3枚目のカードとして投入すると、80分に掴んだこのゲーム2度目の決定機。SHに入った忽那が中へ付け、縦に持ち出した堀内は右足一閃。ボールはGKを打ち破りましたが、直後に聞こえたのは乾いた金属音。クロスバー直撃。どうしても1点を奪えません。
「3年生は進路が決まっていく中でも、まだまだうまくなろうという意識でやってくれた」と下平監督。長い選手は10年近くに渡って在籍してきたレイソルアカデミーの最終章。83分には右サイドのドリブラー堀越瑛斗（3年・足利両毛ユナイテッド）が、88分には大型CBの大野嵩仁（3年・柏レイソルU-15）が相次いでピッチへ解き放たれ、1分、1秒ずつ近付いてくる歓喜と別離の時。
聞こえた今年度最後のホイッスル。「この代はジュニアユースの頃からあまりタイトルが獲れていない代で、苦しい代だったとは思うが、最後にいい形でレイソルアカデミーを卒業できたので良かった」と下平監督。「最後は笑って終わりたかった」（大島）柏が"王子"のステージをとうとう飛び越え、来年度からのプレミア昇格を勝ち取る結果となりました。
試合後、溢れる涙を抑えられなかったのは「もうプレミア昇格しか残っていなかったので、ここに懸ける想いは強かった」というキャプテンの中谷。他の3年生でも同じように泣いている選手が。これを見た下平監督は「一生懸命やらなきゃ涙は出ないですからね。本気で取り組んできたからそういう涙を流せた。それも良かったですよね」と優しい笑顔で語ってくれました。「後輩に"一歩"を踏み出させてあげられたので、非常に良かったです。戦う場所が1つ上がったことで、もっとレイソルユースを見てくれる人が増えるし、こういうサッカーが認められるようになっていけば、俺たちは良かったなと思います」と笑顔で話したのは、まだ少し目の赤かった中谷。「最後まで締まったいいシーズン」（下平）を演出した3年生からバトンを受け継ぎ、太陽王子はその戦うステージをいよいよプレミアへと移します。　　　　　　　　土屋