最近のエントリー
カテゴリー
アーカイブ
このブログについて
J SPORTSのサッカー担当がお送りするブログです。
放送予定やマッチプレビュー、マッチレポートなどをお送りします。
「柏から世界へ」を合言葉に、ここまで8試合を潜り抜けた"モロッコへ"と続く道はあと6試合。Jリーグを代表して戦う太陽王がホームで迎え撃つのは、リヤドから襲来したゼブラの猛者、"アル・シャバブ"です。
グループステージは4勝2敗と1つの負けも喫することなく堂々の首位通過。問答無用の180分間となったラウンド16の全北現代戦でも、アウェイ、ホーム共に勝利を収め、全8試合を無傷のままでアジアのベスト8まで進出してきた柏レイソル。クラブ史上初めてとなる中東に本拠を置くチームとの対戦は、ここまで実力で勝ち上がってきたからこそ迎えた勲章。ホームでしっかり難敵を叩き、来月のリヤド決戦に持ち込みたいゲームです。
一方、2011-12シーズンのサウジアラビア・リーグチャンピオンとして、アジアの舞台へ駒を進めたアル・シャバブ。グループステージは4勝1分け1敗で首位通過。ラウンド16ではカタールのアル・ガラファを2試合合計5-1と粉砕して、揚々と乗り込んできた日立台。3年ぶりとなるベスト4進出はもう目前です。メンバーリストを見てみると、一番のビッグネームはやはりミシェル・プロドーム監督。ベルギー代表として2度のワールドカップ出場や、EURO80での準優勝を経験するなど、世界中がその名前を知るGKであり、個人的にはそんな彼の采配にも注目したい所です。「サポーターの方がいい雰囲気を創ってくれた」と大谷秀和が言及したように、黄色と黒が浮かび上がったコレオグラフィーの中に、勇ましく掲げられた文字は当然「柏から世界へ」。水曜ナイトゲームに1万人を超える応えた"ホーム"のサポーターをバックに、キックオフで"最初の90分間"の幕が上がりました。
先制パンチは柏。5分にはクレオ、レアンドロ・ドミンゲス、工藤壮人、藤田優人の4人で、6分には鈴木大輔、クレオ、レアンドロの3人で、それぞれサイドに侵入してCKを獲得。どちらもシュートには至らなかったものの、流れるような連携から2つのセットプレーを奪うと、12分にも橋本が素晴らしいパスカットから左クロスを送り、レアンドロのボレーはゴール右へ逸れましたが、まずは空きがちだったバイタルでのクレオとレアンドロを基点に、サイドから崩す形を創出して「今日は良い入りをした」とネルシーニョ監督も認めたように、攻撃のリズムを生み出します。
一方のアル・シャバブは「見るからにボールを持ったら仕掛けてくる選手」と対面の橋本も評した、右SHのラフィーニャが序盤から積極性を披露。10分にはそのラフィーニャが右のハイサイドを取ると、浮き球で1人かわしてからのクロスは何とか藤田がクリアしましたが、エリア周辺でも仕掛けまくる姿勢はやはり脅威に。14分にはフェルナンド・メネガッゾの縦パスを、フリーで受けたマクネリー・トーレスのミドルは枠を越えるも、個の強さは十分に窺わせます。
燃える黄色の爆発は21分。レアンドロが左から蹴り込んだFKを、ファーで体を伸ばした近藤直也が頭に当てると、DFのクリアを冷静に見切っていたのは9番を背負うストライカー。「あそこにポジションを取っていたのはチームの決まり事」という密集の外からダイレクトボレーで叩いたボールは、アル・シャバブのGKワリード・アブドゥラーが懸命に伸ばした手を掻い潜り、右スミのゴールネットへ到達します。「コースは見えていたので、流し込むことを意識した」という工藤の大会7ゴール目は貴重な先制弾。柏が大きなアドバンテージを強奪しました。
ただ、22分にゴールを奪ったばかりの工藤のミスから、アブドゥルマレクが左クロス。ここは鈴木がクリアしたものの「最初に失点をしてしまったが、その後の選手たちの反応は良かった」とプロドーム監督も振り返ったように、ここからはアル・シャバブに手数。27分にはラフィーニャがドリブル突破から送った際どいクロスは、中央で茨田が何とかクリア。28分にも右SBのハッサン・ムアスが、30m近い距離から直接狙ったFKは菅野孝憲がキャッチ。29分にもアハメド・アティーフのパスを、1トップのナイフ・アザジがヒールで落とし、飛び込んだラフィーニャのシュートは菅野がファインセーブで回避。「うまいこと回して、サイドに持ってきて1対1が多かった」とは橋本。サイド攻略を足掛かりに、リヤドの戦士たちが躍動し始めます。
この劣勢に関して、「相手は前の選手がポジションに囚われずに、サイドに逃げたりすることも凄く多かった。特に8番と10番は広範囲に動くので捕まえづらかったのと、結構彼らがサイドの方まで行くことで、僕とバラも同サイドに行くと中が空いてしまうので、そこにサイドの選手と2列目の選手が入ってきて、掴みづらい時間帯はあった」と大谷。特に8番のセレソン経験もあるフェルナンド・メネガッゾは、失点を喫してから明らかにボールへ関与する回数を増やし、中盤で流れを組み立てながら自ら最前線まで。「後ろでも前向きでボールを持ったら前に長いパスを入れてくるし、なるべくフリーにさせたくないなと思った」とは茨田の評。38分にアハメド・アティフの左クロスを、ヘディングで狙ったのはフェルナンド・メネガッゾ。ヒットはしませんでしたが、攻守に渡って見せ付けたダイナミズム。
44分に歓喜の瞬間を享受したのはサウジアラビアの雄。右からマクネリー・トーレスがCKを蹴り込むと、こぼれに反応したフェルナンド・メネガッゾは、思い切り良く左足一閃。ボレーで撃ち抜かれたボールは、ゴール左スミギリギリを捉えると、そのままゴールへ吸い込まれます。ブラジル代表8キャップの実績はやはりホンモノ。最高の時間帯でアル・シャバブがスコアを振り出しに引き戻し、前半の45分間は終了しました。
ハーフタイムに動いたのは策士・ネルシーニョ。最前線のクレオに替えて、狩野健太を右SHへ投入し、「色々な役割を柔軟にこなすポリバレントなプレーヤー」の工藤を1トップにスライドさせ、攻撃に変化を付ける采配を振るいます。
後半のファーストチャンスはアル・シャバブ。47分、フェルナンド・メネガッゾが右サイドへグラウンダーの好パスを配球。ラフィーニャの右クロスはわずかにナイフ・ハザジと合いませんでしたが、サイドをきっちり崩して好機を創出。柏も48分からは3連続CKを獲得し、54分にはワグネルの左FKに近藤直也がヘディングで合わせるも、ボールはクロスバーの上へ。するとアル・シャバブに訪れた決定的なシーン。56分、左サイドでマクネリー・トーレスがエリア内に入って浮き球パス。これをトラップしたラフィーニャは、次のタッチで優しく右へ。完全にフリーで放ったナイフ・ハザジのボレーは枠の右へ外れ、多くのチームメイトが頭を抱えたものの、柏の守備陣を翻弄するコンビネーションで見せ付けた攻撃力。
後半を迎えるに当たり、柏は守備時の変更点が1つ。「前半はタニくんと自分で入ってくるサイドとか、トップ下を見る状況だったけど、後半に入って監督からの指示で、レアンドロをうまく使って、相手のトップ下とボランチをローテーションしながら見ようという形に変わった」と茨田。「後半はブロックを4枚4枚で作りながら、レアンドロに8番か12番をしっかり見てもらう」とは大谷。浮きがちだったフェルナンド・メネガッゾを、レアンドロも加わりながら監視下に置きたい狙いを指揮官は指示。その部分においては、中央から飛び出されるシーンも減少し、狙いを体現できていたと思います。
ところが、逆に攻撃面では前半よりも停滞した感は否めず。「無駄走りをする選手がいないというか、足元で受ける選手と裏に抜ける選手のメリハリはもっと必要。途中までは裏がないので、相手のDFラインは守りやすかったんじゃないかなと思う」と大谷が話したように、ボールこそある程度は回るものの、ギアを上げるポイントを見い出し切れず、前半は空きがちだったバイタルへの侵入も減少。「守備で我慢する時間が長かった。守備で体力を削られると、攻撃に向かう体力を出すのは難しい」とは橋本。得点の予感はなかなか漂ってきません。
71分にはアル・シャバブに決定機。マクネリー・トーレスが得意の浮き球ラストパスを左へ入れると、後半はやや抑え込まれていたファルナンド・メネガッゾが最前線まで駆け上がってフリーに。飛び出した菅野が鬼気迫るファインセーブで搔き出しましたが、一瞬の隙を突いた元セレソンが黄色いサポーターに冷や汗をかかせます。
73分には柏も8分前に投入されたキム・チャンスが右からクロスを送り、こぼれを大谷がミドルで枠へ飛ばすも、工藤に当たってゴールまでは至らず。76分にはアル・シャバブも短く出したFKから、ハッサン・ムアスが枠の右へ外れるミドルにトライ。76分にはアル・シャバブがナイフ・ハザジとムハンナド・アッシリを、79分には柏がレアンドロと澤昌克をそれぞれ入れ替え、いよいよゲームは最後の10分間へ。
80分は柏。澤が獲得したCKをワグネルが左から蹴ると、近藤のヘディングはクロスバーの上へ。81分はアル・シャバブ。右のショートコーナーから、ラフィーニャのリターンをマクネリー・トーレスは中へ。こぼれに飛び付いたムハンナド・アッシリのオーバーヘッドはクロスバーの上へ。「引き分けで終わるというのも、後ろは考えなくてはいけないこと。勝ちに行く中で失点をしないという意識はあった」と大谷も振り返る、難しい舵取りを強いられる時間帯に、太陽王へ襲い掛かった中東王。
87分、マクネリー・トーレスが右へ振り分け、ラフィーニャはイヤらしいタメから中央へ折り返し。ムハンナド・アッシリがきっちり落とすと、動き直していたマクネリー・トーレスがダイレクトで右足を強振。枠を捉えたボールはクロスバーに弾き返されましたが、アル・シャバブのさらなるラッシュ。直後にもフェルナンド・メネガッゾが右へ展開したボールを、ラフィーニャは素早く中へ。マクネリー・トーレスがダイレクトで落とし、後方から走り込んだハッサン・ムアスは完全にフリーで抜け出すも、中への折り返しはゴール前を通過。大谷も「3人目の動きでしっかり崩されてしまった」と言及した通り、綺麗な崩しを短時間で連発したアル・シャバブ。それでもスコアに変化はありません。
「澤くんが入ってからサイドでポイントを創ってくれて、ファウルをもらったりというのもあった」(大谷)「チーム全体の運動量で1人1人がマークを剥がさないことにはボールは回らないし、そこはフレッシュな澤さんが入って凄く変わった所」(橋本)と2人が口を揃えたのは澤の投入がもたらした効用。「ミスも多くて間延びしている時間帯だったので、前線に水を運べるようなプレーを心掛けていた」という澤が、持ち前の受けて捌いてで再び柏にもたらした活力。
90+1分、大谷が左サイドで縦へ入れたボールはDFに当たってイレギュラー。ここに誰よりも早く反応した澤は、DFの前に体を入れると、そのまま縦へ持ち込んで中へ。ニアへ潜った工藤のシュートはワリード・アブドゥラーの正面を突くも、澤の積極性が呼び込んだチャンスに沸き上がるスタンド。90+4分には粘り強いキープからFKを、90+6分にはバイタルでの巧みな反転からCKを、どちらも澤の関与をきっかけに獲得。これ以上スコアが動くことはありませんでしたが、「交替選手も3人いるし、前の方の選手は行けるところまで全力でやってレベルの高い選手に託すというのも1つの選択」という大谷の言葉にも頷ける、澤の好パフォーマンスが次への希望を繋いだ格好で、「まだ半分が終わったと考えれば、決して下を向く必要はないし、ネガティブな状況ではない」(大谷)ドローで、"最初の90分間"に幕が引かれる結果となりました。
前半の攻撃と後半の守備を考えれば物足りなさの残る、前半の守備と後半の攻撃を考えれば上々とも言える、そんな90分間だった印象です。1つ間違いないのは「非常に質の高い相手でした」というネルシーニョ監督の言葉を引用するまでもなく、アル・シャバブがかなりの強敵だったということ。その相手に前半の中盤以降は押し込まれながらも、五分に近いゲームを繰り広げられたことは、ポジティブな要素だったのではないでしょうか。アウェイゴールを奪われたことで、リヤドでは少なくとも1点は絶対に必要となってきますが、「2点3点与えたわけではない。いい準備をすれば自分たちが上に行ける可能性は十分ある」とキャプテンは頼もしい決意を。「暑い中で連戦はキツいですけど、嬉しいことに勝っているからこそ、ハードなスケジュールがある」という橋本の言葉を噛み締めつつ、来たる9月の第2戦に向けて万全の態勢を整えてほしいと思います。 土屋
J SPORTS フットボール公式Twitterをフォローしてフットボールの最新情報をチェック!