Rebornへの挑戦は開幕2連勝。J1から無念の降格となった港町のクリムゾンレッドが、7年ぶりのJ2という"茨の道"を最高の形で歩み出しています。
大久保嘉人、伊野波雅彦、野沢拓也と代表クラスの主力が移籍。外国籍選手もイ・グァンソン以外は全て入れ替わり、安達亮監督の下で新たなスタートを切ることになった神戸。アウェイで臨んだ開幕戦、徳島との"海峡ダービー"に競り勝つと、ホーム開幕となった前節の岐阜戦は田代有三のドッピエッタを含む4ゴールで大勝。トップディビジョン復帰への意欲を最大限に打ち出す、見事な開幕ダッシュを決めています。
アウェイに乗り込み、昇格候補の千葉と激突した開幕戦は、内村圭宏の後半アディショナルタイム弾で勝ち点3を奪取した札幌。しかし、ホーム開幕となった栃木戦は押し込みながらも0-1で惜敗。3試合続けて難敵との対戦になりますが、若いチームということを考えても、勝ち星を先行させておきたい大事なゲームです。
試合前にノエスタのピッチ上で行われたのは、小学校6年生のヴィッセルスクール生卒業式。周囲の方々への感謝を立派な言葉で語ったスクール生代表の男の子に、大音量のコールで応えたヴィッセルサポーター。岩波拓也、松村亮と下部組織出身の選手がメンバー入りした神戸と、スタメンに5人の下部組織出身者が顔を揃えた札幌。育成こそクラブの柱だと認識している"降格組"であり、"昇格候補"の両クラブが、名前も新たに生まれ変わったスタジアムで激突する、「勝ち点3以上の価値がある」（岩波）注目の一戦は札幌のキックオフでスタートしました。
やや神戸がボールを持ちながら推移していった立ち上がりは、セットプレーでそのホームチームにチャンス到来。7分には左サイド、ゴールまで約35mの位置からポポが放ったキャノンFKは、札幌GK杉山哲がファインセーブ。直後にマジーニョが蹴った左CKを、杉浦恭平が当てたヘディングは枠の左へ。先制とはいかないものの、15分までに3本のCKを獲得するなど、押し込む時間を長く創ります。
ただ、全体のボール回しはやや停滞気味。田代有三への長いボールを選択する場面でも、周囲のサポートが遠く、なかなか流れの中からはいい形まで持ち込めません。17分にはマジーニョが付けたボールを、エステバンが狙ったミドルは枠の右へ。19分には田代との綺麗なワンツーから、ポポが打ち切ったミドルは何とか杉山がキャッチ。24分、ここもマジーニョのパスから、右SBの奥井諒が狙ったミドルもわずかにクロスバーの上へ。ミドルレンジからのシュートチャレンジは目立ちますが、果たせないエリア内への侵入。
とはいえ、ある程度タイトに守られるのは想定内。ミドルの多さも「もう少し相手のCBが出てくるかと思ったが、それほどでもなかったので、逆に2CBの前から積極的にシュートを打とう」という安達監督の指示を受けてのチャレンジであり、「それによってCBが前に出てくることもある」（安達監督）という2つの狙いが。この積極性に札幌の財前恵一監督も「少し相手に圧倒された」と認めています。
すると、やはり先制ゴールはミドルレンジから。31分、奥井のスローインを受けたマジーニョは一度相手にパスを当てるも、こぼれを拾うと、ゴールまで30m以上はある距離から左足一閃。強烈な弾道は右のポストを叩き、そのままゴールの中へ転がり込みます。「あの辺からシュートを打って決められる選手がウチにはいる」と指揮官も自信を見せた、ブラジル人レフティのJリーグ初ゴール。スコアボードの"0"が"1"に変わりました。
以降もゲームの基本的なペースは神戸。中でも強烈な存在感を示していたのは、中盤で圧倒的なボール回収力を発揮していた"ベレス"ことエステバン。相手ボール、ルーズボール問わず、誰よりも早い反応でボールをモノにし続ける能力には、CBの岩波も「ああいうボランチがいることでボールの取り所がハッキリする。あそこでボールが取れると、裏まで押し込まれないので、DFラインとしては凄くありがたい」と絶賛。35分にマジーニョの右CKから、田代が惜しいヘディングシュートを放った場面がありましたが、このCKも起点はエステバンの果敢なボール奪取。ACL王者の蔚山現代から移籍してきた男は、やはり噂通りの実力者でした。
37分も神戸。マジーニョが右から蹴ったFKを、田代は圧巻の胸トラップからボレーを打ち切るも、ボールは枠の左へ。41分も神戸。やや左、約30mの距離を直接狙ったポポのFKはクロスバーの上へ。神戸のシュート意識と、「相手のプレッシャーが速かったが、どちらかと言えば自分たちでボールを失っていた」と財前監督も振り返った札幌の低調なパフォーマンスも手伝って、前半は神戸が1点のアドバンテージを握る格好で45分間が終了しました。
後半はスタートから動いた財前監督。「少しミスが多かった」と判断した古田寛幸を下げて、「なかなか前線でボールが収まる所がなかったので、タメを作ったり収めてもらおうと」前田俊介を投入。攻撃の手数を繰り出せなかった現状打破を図ると、早速その前田が一仕事。46分、河合竜二からのパスを受けると、前を走る榊翔太へピンポイントパス。榊のシュートはDFにブロックされたものの、いきなり決定的な"1本"を通してみせます。
そんな中で迎えた次の決定機は神戸。51分、田代を基点に杉浦が右から中へ持ち込んで放ったシュートは、杉山がファインセーブ。こぼれを田代が拾い、マジーニョがセンス溢れるループを打ち上げると、ボールはクロスバーにヒットしてしまい、追加点とはいかなかったものの、再び引き寄せた流れ。
55分も神戸。前半から積極的なオーバーラップが目立っていた奥井の右クロスを田代が繋ぐと、杉浦のシュートはヒットせず。56分には札幌も榊が右から斜めに入れたパスを、ルーキーながらこれで開幕から3試合連続スタメンの神田夢実が落とし、上里一将のミドルはゴール左へ外れましたが、実質のこのゲーム初シュートを記録。57分は神戸。杉浦が上げた右クロスを、ポポがミートさせたボレーは枠の右へ。奥井と杉浦で組む右サイドの優位性が推進力を生んだ神戸の時間が続きます。
61分には18歳に決定的なシーンが。エステバンのボール奪取から掴んだCK。右からマジーニョが蹴り込んだボールはファーへ。拾った岩波のプロ初ゴールへの期待が懸かったシュートは、しかし杉山がうまくコースを狭めて阻止。生まれない2点目。
財前監督が2枚目の交替策を決断したのは63分。神田に替えてチーム最年長の砂川誠を送り込み、中盤に異なるアクセントを加えます。対する安達監督も、70分と73分に相次いで切った交替カード。1枚目の選択は、先制ゴールを叩き込んだマジーニョと森岡亮太のスイッチ。2枚目の選択は、やや疲労が見え始めた田代と都倉賢のスイッチ。いずれもそのままのポジションに投入し、「やや勝ちを意識し過ぎたために、大味な攻めが続いてしまった」と安達監督が言及し、「FWと中盤の間がかなり空いてしまった」と杉浦も感じた攻撃陣のリフレッシュと、2点目への"欲"を前面に打ち出します。
15分近く双方にシュートが記録されない膠着状態の中、77分に財前監督は最後の交替。いつもの思い切りが影を潜めた榊に替えて、ハイタワーの上原慎也を投入。神戸にとっては「非常に高さがあって、去年点を取られている」（安達監督）要警戒人物が、3枚目のジョーカーとしてノエスタのピッチへ解き放たれます。
中盤を1枚削り、前田、上原、宮澤裕樹を3トップ気味に配置して、最後の勝負に出た札幌でしたが、「ウチに点が入ったら、ああいう形になるのは試合前からわかっていた」と岩波。「高さに関しては僕も（イ・）グァンソンも自信がある」（岩波）というCBコンビは、セカンドカバーの達人エステバンも得て、「競ることに全力という感じ」（同）で、空中戦はほとんどシャットアウト。さらに、83分には杉浦に替わってピッチに入った、「これで3セーブですよ」と笑う運動量抜群の"クローザー"田中英雄も縦横無尽に動き回り、ゲームのクローズに貢献。「リーグ戦を3試合やって、だいぶ選手たちと自分も含めて共通理解というか、"同じ画"を描けるシーンが増えてきた」と安達監督も認めた神戸が、3連続シャットアウトという圧巻の記録も加えた3連勝をサポーターへ届ける結果となりました。
札幌はスコア以上の完敗だった印象です。公式記録では5本を数えたシュートも、枠内に限って言えばゼロ。高校時代から務めてきた本来のストライカー起用となった宮澤も、後半開始からピッチに立った前田も、ほとんど見せ場を創れずじまい。杉山を中心にした守備陣の奮闘で失点は最小限に食いとどめたものの、攻撃に関しては人選も含めてかなり改善の余地がありそうな気がしました。
一方の神戸も「明らかに狙い通りで『はい、シュートを打ってくれ』という形ができていないのかなというのは正直ある」と指揮官が振り返ったように、今日に関しては崩してシュートというシーンはなかなか見られませんでした。ただ、そういう中だからこそ光ったのは安定感抜群の守備陣。「まだレギュラーを取れたわけではないので、1試合1試合緊張感を持ってやっている」と話す岩波とイ・グァンソンで組むCBも大きな破綻なく機能し、前述したエステバンも防波堤として出色のプレーを続け、積み上げた無失点の時間は270分。岐阜戦のような派手さはないものの、堅実に勝ち点を積み上げていくスタイルを披露した新生神戸は、"負けにくい"チームになっているかもしれません。　　　　　　　　　　　　土屋