昨年度のT-1で10位と結果を残せず、今年はT-2を戦うことになった東京朝鮮。日本の高体連が主催する大会に参加して以降、都でも上位に顔は出し続けながら、全国大会への壁をなかなか破れない状況が続いているものの、都内屈指の強豪であることは間違いない所です。対する武蔵は、開成、麻布と並び称される、いわゆる“御三家”の一角に数えられる超進学校。ただ、昨年度の選手権では帝京に大敗したもののベスト8まで進出し、今大会もベスト16でPK戦の末、帝京に借りを返しての勝ち上がり。色々な意味で注目の学校です。しかしゲームは序盤、しかも立ち上がりの6分あまりでほぼ決まってしまう結果となりました。開始1分経つか経たないかという所、ユ・タク(3年・)のハードタックルが武蔵のMF岡野慎太朗(2年・武蔵中)の足に入ります。ユにはイエローカードが提示され、立ち上がれない岡野は治療のためにピッチの外へ。すると3分、まだ混乱していた武蔵を尻目に、縦フィードを収めたキム・スンチョル(3年・東京朝鮮中)はあっさりと先制ゴール。5分に東京朝鮮へ訪れたチャンスは武蔵の高橋大夢(3年・武蔵中)が体を張って防ぎましたが、6分にはキム・スンチョルがリ・リョンス(3年・東京朝鮮中)とのワンツーから抜け出すと、確実にチーム、そして自身2点目を流し込み、リードを広げてしまいます。武蔵もようやく2失点目を喫した直後に岡野を諦め、木下了輔(3年・武蔵中)を投入しますが、流れは押し留め切れず。12分には、キム・スンチョルがあわやハットトリックという右ポスト直撃のシュート。21分にはキム・スンチョルのスルーパスに抜け出したキム・プンドク(3年・東京朝鮮中)が武蔵GK宮原隆志(3年・武蔵中)にファインセーブを強いる枠内シュート。2列目、3列目からどんどん飛び出してくる選手を武蔵は捕まえ切れません。そして23分、キム・ミョンソン(3年・東京朝鮮第四中)のスルーパスに飛び出したのはボランチのカン・キソン(2年・東京朝鮮中)。GKとの1対1も冷静に制し、3-0。さらに31分、SHのキム・プンドクを追い越してパスを受けたSBのユがエリア内で倒されPK獲得。かなり厳しい判定でしたが、倒したDFは一発レッド。リ・リョンスのPKは宮原も完全に読んで止めましたが、こぼれをリが押し込み、4-0。大勢は決してしまいました。10人の状況にも懸命に気持ちを奮い立たせる武蔵は、前半終了間際の37分に右からうまく展開して、最後は秋山正裕(3年・武蔵中)が枠へシュートを飛ばすも、東京朝鮮DFが体でブロック。後半に入って51分には小島俊平(3年・武蔵中)のミドルがいいコースに飛びながら右ポスト直撃と、ツキもありません。すると残りの時間は東京朝鮮のゴールショーに。52分、後半開始から投入されたリュ・チソン(3年・千葉朝鮮中)が5点目。60分にはリュのアシストでキム・テシン(3年・東京朝鮮第一中)が6点目。68分、74分と連続ゴールを挙げたのは、こちらも後半開始から投入された黄色いスパイクが眩しいオン・ソンテ(2年・東京朝鮮中)。最後に76分にはCKからリ・リョンスが押し込んで9点目で打ち止め。武蔵にとっては何とも厳しい、そして東京朝鮮にとっては最高に近い、大差が付く結果になりました。全体的に能力の高い選手が多かった東京朝鮮。まず大量得点の口火を切ったキム・スンチョルは、技術も高いし、パンチ力のあるシュートも打てる大型レフティ。このチームを見た人は、まず必ず彼に目が行くでしょう。そして、中盤を司るドイスボランチのカンとハン・ホチョル(3年・東京朝鮮第四中)も非常にいい選手。2人とも展開力があり、3点目のように機を見てフィニッシュまで絡もうとする意識も高く、ここを抑えられなかったのが武蔵の敗因でもあったと思います。1試合だけでは勿論判断しきれない面もありますが、このパフォーマンスがコンスタントに発揮されれば、東京朝鮮が今年の台風の目になる可能性は十分あるように感じました。　　 　AD土屋