最後に会場で見たJリーグの公式戦は昨シーズンのJ2最終節。智将に率いられた最北のクラブが、ドームを埋め尽くした数万のサポーターと悲願達成に酔いしれる光景を幸運にも目撃することができました。あれから3ヵ月。チーム数が増え、試合数が減っても、それはあくまでほんのディテール。"昇格"という最大にして唯一の成果を勝ち獲るための過酷で果てしない戦いが、いよいよ我々の日常に帰ってきました。向かった会場は平塚。昨年の開幕戦と同一カード、湘南と仙台のゲームです。昇格を確実にその視界へ捉えている両者。湘南は三田、大山、阿部と3人の新加入組をスタメン起用したのに対して、昨シーズンから在籍していた選手のみでスタメンを構成した仙台は、FWの中原が前線で基点になることでリズムが生まれ、序盤からボールを圧倒的に支配。細かいパスを繋ぎながらチャンスを窺います。全体的にラインが下がり苦しい時間帯が続いた湘南でしたが、「一見押されているようだけど、むしろそれを楽しむくらいの気持ちでやれたし、チームメイトにもそれを感じた」という斉藤を中心に、強固な守備ブロックは今年も健在。ボールは回されても危険なエリアはしっかりケアし、相手に決定機を作らせません。前半は仙台が「ある程度主導権を取りながらやれていた」(仙台・リャン)ものの、スコアは動くことなく45分を終えました。迎えた後半、いきなり開始40秒でアジエルからのスルーパスを受けた石原がこの日湘南初となる決定的なシュートを放ちますが、これを林が好セーブで凌ぐと再びペースは仙台へ。ただ、やはりボールこそ回るものの、やや手数を掛け過ぎる印象は変わらず、エリア内で勝負するボールは出てきません。さらに展開上でのキーポイントは選手交替。64分に、正確なポストワークを見せ、ハイボールもほとんど競り勝っていた中原を下げて平瀬を投入すると、ここから仙台は勢いを失っていきます。72分にはこちらもキレのあるドリブルで脅威となっていた関口も佐藤と交替。ゲームが動いたのはこの直後の74分でした。大山の右CKはなぜかフリーになっていたジャーンの足元へ。本人も「自分が足でゴールを決めるなんてなかなかない」と笑ったボレーがネットを揺らし、平塚沸騰。劣勢に思えた湘南が頼れるキャプテンの一撃で先制しました。追い込まれたJ初采配の手倉森誠監督は終盤に岡山を前線に上げてパワープレーに出るもののゴールはおろかシュートも遠く、そのままタイムアップ。昨年の雪辱を果たす形となった湘南がホーム開催の開幕戦を勝利で飾りました。「おおよそ主導権を持って戦えたと思うが点が取れなかった。気に入らないのは結果だけ」とは手倉森監督。「開幕前から手応えを感じていた我々のディフェンスがチーム全体でやれた。昨シーズンの経験が生きて粘り強く戦えた」とは菅野監督。さらに「ちょっとやそっと押されても最後に守るのはゴールだからそれさえ奪われなければ。相手のやりたい土俵は消したつもり。チームとしてそこまでできるんだっていう手応えがあった」とは斉藤。確かに"ボール"を支配していたのは仙台でしたが、90分を通じて"ゲーム"を支配していたのは湘南だったのかもしれません。10年ぶりのJ1復帰へ向けて可能性を感じさせる力強さが、この日の湘南には確かにありました。　　AD土屋