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こういう殺伐とした空気は、コロナ禍以前とほぼ同じだった。だが、10年ほど前まではもっと酷かったのだ。
投げ込まれたペットボトルで監督が負傷し試合打ち切りとか、警備員が松葉づえで滅多打ちにされたりとか、アウェイファンの応援席にロケット花火が撃ち込まれるなんて恥ずかしい光景がテレビ中継され、全世界に発信されたこともあった。今はスタジアム内は街よりもはるかに安全。危ないのは敗戦後のスタジアム周辺だ。昨日の試合ならベティスが負けたので、ベニートビジャマリンの周辺をセビージャファンの格好で歩いていたら、間違いなく袋叩きに遭う。
一週間前にいたバスクダービー、ソシエダ対アスレティック・ビルバオの雰囲気とはまったく違っていた。
サン・セバスティアンを訪れたのはプライベートだったので試合の取材は行かなかったが、街ではバルで青のソシエダファンと赤のビルバオファンが酒を酌み交わすシーンが普通に見られた。スタンドでも両チームのファンが仲良く並んで座っている。
かつてバスクはビルバオの一人勝ちだったが近年ソシエダが力を付け、イニゴ・マルティネス(ソシエダ→ビルバオ)の因縁の移籍もあってライバル心は高まっている。が、それでも同じバスク勢同士という連帯感が上回っているから、仲が良い。
こっちが健全だと思うし、こういうダービーを見たいと思うが、これは例外。なにせ、子供のサッカーのレベルでも隣のクラブとの試合はダービーとなるくらいだから、サッカーの近隣嫌悪はスペイン人の体の奥深くに根付いている。私も少年チームの監督を指揮していた時には、とんでもなく遠くのトイレのないロッカールームを与えられたり、ロッカールーム自体がなかったり、ウォーミングアップ用のボールを1個しか貸してくれなかったり(手ぶらで行くのが礼儀だが、それ以降はボール持参にした)などの“アウェイの洗礼”を受けた。勝った時にはあまり騒がず静かに引き上げて、クラブに帰った後に報告、会長らと祝うのがお約束だった。
昨日、終了のホイッスルが鳴った後、グラウンドへモンチ(セビージャの有名なスポーツディレクター)が出て来てガッツポーズをして、スタンド最上段のファンと一緒に勝利の雄叫びを上げていた。とんでもない挑発行為であり、帰途につきかけていたベティスファンから最大限の憎悪がこもった罵声を浴びていた。彼らはこの屈辱を決して忘れないだろうし、セビージャファンはモンチのカリスマを再確認しただろう。
こうやって次のダービーに遺恨が受け継がれていく。それがセビージャダービーのスタンダードであり、“ニュー”ではないノーマルなのだ。
文:木村浩嗣
木村浩嗣
編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペインに拠点を移し特派員兼編集長に。15年編集長を辞し指導を再開。スペインサッカーを追いつつセビージャ市王者となった少年チームを率いた。現在はグラナダ在住で映画評の執筆も。
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