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【Cycle*2024 アルウラー・ツアー:プレビュー】歴史的文化に満ちるアルウラーで「日本ロードレース界の歴史」が動く 2年連続参戦のJCL TEAM UKYO、エースの山本大喜「ステージ優勝を狙う」
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介アルウラー・ツアー
シーズン序盤の脚慣らしの場としてすっかり定着した中東レース。ここからおおよそ1カ月ほど、アラビア半島各地(一部レースはトルコでも開催される)をプロトンがめぐる。
アルウラー・ツアーは大会名称こそ初めて世界に名をとどろかせるが、もとは「サウジ・ツアー」として行われてきた。前回はジョナサン・ミラン(現リドル・トレック、当時バーレーン・ヴィクトリアス)やソーレン・ヴァーレンショルト(ウノエックスモビリティ)らがその名を売り、最終的にはルーベン・ゲレイロ(モビスター チーム)が個人総合優勝。めまぐるしく主役が入れ替わり、濃密な5日間だった。
開催地アルウラーは、サウジアラビア北西部のオアシスに成立した都市で、その歴史は7000年を超えるという。特筆すべきはナバテア王国の時代に創られたとされる住居やお墓といった貴重な遺物が集中している点。今大会の第4ステージでスタート地となるヘグラは、同国では初めてのユネスコ世界遺産に登録された古代遺跡で知られる。ちなみに「アルウラー」の都市名は、同国の観光戦略による便宜的な名称だそうで、「アル・ウラ」(Al-'Ula)または「ウラ」が本来の呼び名なのだとか。
そんな歴史都市のアルウラーで、4回目となるワールドクラスのステージレースが催される。大会の歴史自体はまだ浅いが、きっとこれから長きにわたってイベントとしての歩みを深めていくことだろう。
同時に、「日本ロードレース界の歴史」も動いていくこととなる。いや、歴史が築かれると言った方が正しいか。昨年に続きJCL TEAM UKYOが参戦する。「日本からツール・ド・フランスへ」「世界の頂点に立つサイクルロードレースチームを日本から」。このコンセプトとともに、今年も世界に乗り込む。
前回はUCIポイント獲得(個人総合25位以内)をテーマに挑んだ彼らだったが、たびたび逃げで魅せ、トレインを成して集団前方に上がってくる場面がありながらも、ポイント獲得には至らなかった。チーム最上位の同38位だった山本大喜は、「コンディションを整えて臨んだが、想像以上の過酷さに苦しんだ」と振り返る。砂漠地帯特有の強い横風や、体躯の大きな選手たちとの対峙に、力の差を痛感した。
マラヤコンサートホール横を通るプロトン
しかし、転んでもただでは起きないのが彼らである。昨シーズン、アジアのレースを席巻し、今大会の自動招待(前年UCIアジアツアーのチームランキング上位3チームに、同ツアーの出場権が付与される)を得て挑む今回は、山本にして「ステージ優勝を目指す」という明確な目標が生まれた。日本の精鋭部隊として駆けた昨年から、今度はアジアの精鋭部隊としてワールドクラスにチャレンジする。
古代と近現代の街並みが融合するアルウラーの街を基点とする全5ステージ。シリア・ダマスカスとサウジアラビア・マディーナを結ぶ長距離鉄道の主要駅として栄えた、アル・マンシヤ駅跡地を発着する第1ステージはスプリンター向け。続く第2ステージは、最後の約5kmでフィニッシュまで一気の上り。スプリンターが生きのこるか、はたまた個人総合争いの号砲が鳴り響くか。
スプリンター向けの第3ステージは、ラクダレースで知られるアルウラー・キャメルカップの会場を目指すルート。前記したヘグラを出発する第4ステージは、世界最大のガラス建築であるコンサートホールが置かれるマラヤにフィニッシュ。
最後を飾るのは、昨年は第4ステージに登場したハラット ウェイリッドの急坂アタック。登坂距離2.8km、平均勾配12%で、上り始めて1kmで16%、18%と勾配が厳しくなる。前回はここで集団が崩れ、頂上からフィニッシュまでの約8kmは前線に残ったメンバーによる勝負となった。
それぞれに特色あるコースに加えて、ポイントとなるのが風。横から、または斜めからの強い風による集団分断は、レース展開を大きく左右する。
参戦するのは18チーム。とりわけ、中東にゆかりのあるジェイコ・アルウラー、バーレーン・ヴィクトリアス、UAEチームエミレーツが強力だ。
実質のホームチームであるジェイコ・アルウラーは、前回1勝を挙げているエーススプリンターのディラン・フルーネウェーヘンを再び送り込む。さらには、押しも押されもせぬ総合エースのサイモン・イェーツを動員し、大会制覇をもくろむ。
バーレーン・ヴィクトリアスは、登坂力・スピードともに長けるフレッド・ライトがリーダー格。前回は第1ステージで2位に入っているドゥシャン・ラヨビッチがスプリントを担当する。
UAEチームエミレーツは、フアン・モラノがスプリント戦線を熱くするだろう。成長株のフィン・フィッシャーブラックは個人総合成績を狙えそうだ。
ティム・メルリール擁するスーダル・クイックステップ、選手層では群を抜くボーラ・ハンスグローエといったUCIワールドチーム勢も、主導権争いに加わってくるはず。なお、前回覇者のゲレイロは欠場する。
たびたびになるが、このハイレベルの中にJCL TEAM UKYOが飛び込んでいく。選手たちでさえも遠く感じた世界と日本の“距離”が、この1年で果たして縮まっているのか。並々ならぬ意欲を燃やす山本のインタビューコメントともに、その戦いぶりを見守ろうではないか。
昨年に続き今年も参戦するJCL TEAM UKYO
JCL TEAM UKYO・山本大喜 独占インタビュー
──2024年のJCL TEAM UKYOは強力なイタリア人選手が加わって戦力がアップしました。新体制への手ごたえはどうお感じですか?
「強い選手たちが入って、戦力アップはもちろん、イタリアを拠点に活動するにあたって(2024年シーズンより欧州のベースをイタリアに構える)同国の選手が加わったことはとても心強く感じています。レース中に必要になる他チームとのコミュニケーションも取りやすくなるでしょうし、自分たちの存在をアピールしやすくなったと思います。
スタッフとして、世界のトップを知るアルベルト・ボルピとマヌエーレ・ボアロ(ともにスポーツディレクター)が入ったことで、世界に挑戦するために必要な要素がどんどんチームに取り入れられています。トレーニングにもコーチがつき、食事も栄養士からの指導があり、驚くほどの変化が現れています」
──昨年に続いてシーズン初戦はアルウラー・ツアー(前回はサウジ・ツアー)。前回走った感想と、それをその後のシーズンにどう活かしたのでしょうか?
サウジアラビアのアル=ヒジュルの考古遺跡を通るプロトン
「昨年は自分なりにしっかり準備して挑んだのですが、想像以上に過酷なレースで、とても苦しみました。経験したことのない横風でのペースアップや、見上げるほど大きな選手たちと走って、世界のトップとの力の差を痛感しました。
ただ、シーズン初戦で悔しい経験ができたから、その後は常に世界を意識して強くなることに貪欲になっていきました。練習のし過ぎだと言われることもあったのですが、あのとき感じた力の差や世界のトップライダーのレース数を見れば、それくらい練習しなければいつまで経っても勝てないと感じました」
──ワールドクラスのレースを走って、肌で感じた日本やアジアのレースとの違いはどこにありましたか?
「日本やアジアのレースでは、勝利を目指す選手がチーム内に数人いて、レース展開に合わせてエースを変えることが多いです。複数の選手に勝つチャンスがあるおもしろさがある反面、レースの展開が読みにくい点も否めません。
ただ、ワールドクラスのレースでは、ひとりのエースのために他選手が全力でアシストする。アシストライダーはとにかくエースが力勝負できるようレースを展開していきます。レースの流れが読みやすい分、力がなければ絶対に勝つことができません」
──今年もアルウラー・ツアーにはUCIワールドチームや同プロチームが多数参戦します。意識するチームや選手はいますか?
「正直なところ、海外の選手にあまり詳しくないので、特段意識しているチームや選手はいませんね……。そのあたりは、レース前のミーティングで各選手の特徴を聞いて、対応していこうと思っています」
──日本チャンピオンとして挑む今大会。チャンピオンジャージは海外でも一目置かれそうですね。具体的な目標を教えてください
「ステージ優勝が最重要な目標になります。あとは、逃げで自分らしく攻めていきたいです」
──2024年シーズンの目標は? 目指すところへ向け、アルウラー・ツアーはどんな位置づけのレースになりますか?
過酷なコンディションの中、砂漠の一本道を走る
「ワールドチームやプロチームが出場しているレースで勝つこと。あとは、日本人で一番強いことを証明するためにも、再び全日本選手権で勝つことですね。
アルウラー・ツアーはシーズン初戦ということで、オフに取り組んできた準備が正しかったかを確認する重要な機会になります。昨年の悔しい経験をバネに1年間積み上げてきたことが、どれだけ世界に近づいているかを測るレースになると思います」
──J SPORTSで観戦するファンのみなさまへメッセージをお願いします!
「この時期にしては、過去最高に身体が仕上がっています! 日本チャンピオンジャージで山本大喜らしく全力で走って、日本人でも世界に通用することを証明してみせます! ぜひ応援よろしくお願いします!」
ナショナルチャンピオンジャージを纏う山本大喜選手
文:福光 俊介
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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