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サイクル ロードレース コラム 2009年9月8日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2009】第9ステージレースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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峠は7つも登場して、ステージ距離は188.8kmもあったけれど……、本当の意味でレースが行われたのは最終15km地点からだった。この15kmという短い距離に、区間・総合争い共に、手に汗握る戦いがぎゅっと凝縮されていた。

逃げ集団が出来上がるのは早かった。スタート直後3kmでステイン・デヴォルデル(クイックステップ)、フリアン・サンチェス(コンテントポリス・アンポ)、マルコ・マルツァーノ(ランプレ・N.G.C)、ダビ・デラフエンテ(フジ・セルヴェット)、レイン・タラマエ(コフィディス・ル クレディ アン リーニュ)の5人が飛び出し、あっさりとエスケープを開始する。そこに25km地点でグスターボ・セサル(シャコベオ・ガリシア)、32km地点でハビエル・ラミーレス(アンダルシア・カハスール)が合流すると、実力者の多い先頭集団は順調に逃げを続けた。ちなみにプロトンにつけた最大タイム差は50km地点の7分。その後はタイムの増減があったものの、ラスト15km地点でいまだ両者の差は6分30秒あった。

つまりスタートから3km地点からラスト15km地点までの約170kmは、前も後ろも、選手たちは淡々とアップダウンこなすのみ。ただ一方では、途中リタイアを余儀なくされる選手たちもいた。クイックステップからはカルロス・バレードとアラン・デーヴィスの2人が今ステージ中に自転車を降りた。またBbox ブイグ テレコムからは前日2人が途中棄権しているが、この日は3人目となるローラン・ルフェーヴルがリタイア。ミケル・ガツタナガ(コンテントポリス・アンポ)も帰宅の途についた。ところでバレードのリタイア理由は腹痛。第8ステージでリタイアしたアンディ・シュレク(チーム サクソバンク)も、胃の痛みのせいで、数日前から食事がまともに取れない状態だったという。フランセーズデジューでも数人が胃腸の異常を訴えており、現在のプロトン内に不調を抱えて走っている選手は多いようだ。

肝心の残り15km地点で、アレハンドロ・バルベルデをリーダーに擁するケースデパーニュが突如としてプロトン先頭で加速を始めた。瞬く間に先頭集団との距離は縮まっていく。最終峠ソレット・デル・カティへの登坂口(ゴール前8.2km)では、タイム差は3分50秒にまで減っていた。すると逃げ切り勝利が俄然危うくなってきた先頭集団内から、タラマエが加速を仕掛けて飛び出した。チームメイトのダヴィ・モンクティの山岳賞を脅かすダビ・デラフエンテ(フジ・セルヴェット)をけん制するためではない。「昨日モンクティエが区間取りを失敗したから、今日こそタラマエが勝て」とのチームオーダーを受けて、22歳のエストニアチャンピオンは必死でダンシングスタイルを続ける。

ただしこの登りは距離こそ5kmと短いが、中盤の平均勾配は15%を超え、時には22%という恐ろしいゾーンが存在した。その難しさたるや、山岳巧者のエセキエル・モスケーラ(シャコベオ・ガリシア)が「アングリルみたいだった」と言い表したほど!そしてタラマエは山頂のわずか300m手前で、逃げの友マルツァーノとセサルに追い抜かれてしまう。まるで前日のモンクティエが、ゴール800m手前で追い抜かれてしまったように。その直後には「あせらず自分のテンポで登った」と語ったセサルが単独首位に立ち、山頂を先頭で駆け抜けた。この時点でゴールまで残り3.2km。総合表彰台候補は、すでに1分差まで迫っていた。

幸いにも猛烈に速度を上げてきたケースデパーニュの狙いは、逃げ選手を捕らえることではなく、「ライバルを突き離すこと」と「ボーナスタイムを獲得すること」だった。登りが厳しいゾーンに入ると、前日の落車で右半身を痛めたサムエル・サンチェス(エウスカルテル・エウスカディ)はたまらず千切れていた。さらにチームメイトの協力を得たバルベルデが加速すると、マイヨ・オロのカデル・エヴァンス(サイレンス・ロット)とイヴァン・バッソ(リクイガス)以外はもはやついてこれなかった。第4ステージ落車の負傷から完全に復調していないモスケーラはかなり遅れを取り、ロベルト・ヘーシンク(ラボバンク)も離された。そして3人のリーダーが、揃って山頂を越える。

先頭のセサルはゴールまで続く細く曲がりくねった坂道を、たったひとり、時速90km近い猛スピードで下りていった。その勇敢さと、逃げに入り込むためにたった1人で前を追った根性と、そしてゴールに先頭でたどり着くために尽くしたあらゆる努力はついに報われた。昨年のカタルーニャ一周では区間を勝てないまま総合を制したが、この日は夢にも思わなかった初めてのグランツール区間勝利。シャコベオ・ガリシアにとっては昨大会に続く区間2勝目だ。

21秒差でマルツァーノがゴールラインを越えたあと、バルベルデ、エヴァンス、バッソ、さらにはギリギリのところで追いついてきたヘーシンクがゴール前へ姿をあらわした。すると、過去ゴール直前のダッシュで数々のグランツール区間勝利やワンデークラシックをもぎ取ってきたバルベルデの脚が、ここで反応しないわけはない。素晴らしい伸びのあるスプリントでライバルたちを1秒突き放し、当然のように区間3位のボーナスタイム8秒を懐に入れると、ついでにマイヨ・オロさえも手に入れてしまった。

ちなみにバルベルデ、本来ならばあまり早すぎる時期にリーダージャージを取りたくなかったそうだが……。2008年ツール第1ステージ区間勝利でマイヨ・ジョーヌを取ってしまったのは例外として(総合9位で終了)、2006年ブエルタでは第9ステージ——奇しくも今ステージと同じ——でマイヨ・オロを獲得している。その後、第17ステージでアレクサンドル・ヴィノクロフ(アスタナ)に奪い取られ、総合優勝を逃している。果たして3年前の苦い思い出を、今回ジャージキープのための教訓として活かせるか。現時点では、翌日第10ステージが地元ムルシアへゴールするため、子供にゴールデンジャージを見せてあげられるのが本当に嬉しいとのこと。

一方、エヴァンスはたった1日でマイヨ・オロを失ってしまった。ヘーシンクにフェンスへ追いやられたせいでスプリントが出来なかった、とゴール地で不満をぶつけるシーンも。ただしその後は冷静になったようで「総合で7秒差というのは悪くないか」と本人公式HPで告白している。またベテランに怒られた23歳ヘーシンクは、粘り強い追い上げが実って総合3位(36秒遅れ)に浮上。続く4位はこの日30秒ほどライバルたちからタイムを失ったトム・ダニエルソン(ガーミン・スリップストリーム)で、バッソは53秒差の総合5位。またケガで思うような走りが出来ないサンチェスとモスケーラは、それぞれ総合で1分03秒と2分24秒の遅れを取っている。


●グスターボ・セサル(シャコベオ・ガリシア)
ステージ優勝

言葉ではうまく表現できないような気持ちだね。一体どれだけ辛い努力をすれば勝てるのか。そのことは勝ってみて初めて分かるものなんだね。厳しいときがあったからこそ、最高のときをよりいっそう味わうことが出来た。グランツールの勝利は、選手の価値を3倍は高めてくれるしね。

ブエルタで勝てるなんて夢にも思っていなかった。ただエスケープに乗ろうと思っただけ。ボクは逃げ集団に滑り込んだ最後から2番目の選手だよ。最後の登りでタラマエがアタックしたとき、ボクはあくまでも自分のリズムを保ち続けた。あまり無理して加速してはダメだ、一定のペースで登っていったほうがいい、とこれまでの経験で分かっていたんだ。それに最後の登りがものすごく厳しいことは、監督からも説明されていた。そして最終的には彼を追い越して、勝利を得ることが出来た。

勝利は手にしたけれど、我々チームの仕事はまだ終わっていない。このブエルタには、モスケーラの総合争いを助けるためにやってきた。ボクらは絶対にあきらめたりしない。


●アレハンドロ・バルベルデ(ケースデパーニュ)
総合リーダー

今日のチームは、昨日みたいに仕事しすぎてしまわないように注意した。今後のステージに向けて、体力を温存しておく必要があるから。だから最終峠の直前になってようやく、チームはプロトン前方でリズムを上げたんだ。登り前の集団はかなりピリピリしていたよ。総合狙いの選手たちがみな、前方のポジションを取ろうと激しく争っていたからだ。

登りではチームメイトが素晴らしい仕事をしてくれた。総合ライバルの中で苦しんでいる選手がいるのが分かったから、自分でアタックすることに決めた。ステージ優勝のためではなくて、ライバルからタイム差を奪うために加速したんだ。登りでは出来る限りペースを上げて、リードを奪おうとした。でも結局はバッソとエヴァンスと一緒だったね。この先もエヴァンスを突き放すのはかなり難しいだろう。ゴール前は全力でスプリントを切ったよ。これまで、あまり早くマイヨ・オロを取っても意味はないと言ってきたけれど、あの位置にいたらスプリントしないわけにはいかないんだ。だって貴重なボーナスタイムをそんなふうに失いたくなかったから。とにかく大切なのはサンチェスとモスケーラの2人を総合争いから遠ざけたこと。でもこれで戦いが決まったわけではない。

明日はボクの故郷ムルシアに到着だ。マイヨ・オロで帰還できるなんて、本当に嬉しいよ。これからの数日はあまりエネルギーを使いすぎないように努力していく。だってまだ山岳ステージがたくさん残っているし、エネルギーは本当に必要なときだけ使うべきなんだ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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