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サイクル ロードレース コラム 2010年5月23日

【ジロ・デ・イタリア2010】第14ステージレースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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山の麓には強い日差しが照りつけた。雨と寒さにうんざりしていた選手たちは、お日様の恩恵を最大限に受けようと、いつもより少し早めにチームバスから降りてきた。特にフィリッポ・ポッツァートは、1時間近くもスタートヴィラッジョで日光浴。当然のようにあちこちからツーショット写真やサインのおねだり責めにあったが、イタリアチャンピオンの勤めとばかりに笑顔でファンの期待に応える。さらには、まるでナショナルチャンピオンジャージの披露がまだまだ十分ではなかったかのように、スタート0km地点で激しいアタックを仕掛けた。

ポッツァートの攻撃に呼応するかのように、多くの選手が飛び出しを試みた。残る会期で山頂ゴールと個人タイムトライアルを除けば、逃げ切りを狙う選手にとってはこの第14ステージと第18ステージしかチャンスは残っていない。だからこそ何度も加速の波が起こっては収まり、飛び出しを吸収してはカウンターアタックがかかる。そしてスタートから37km地点で完成したエスケープ集団には、ウィリアム・ボネ、ダミアン・モニエ、アレッサンドロ・ビゾルティ、マルクス・アイベッカー、スティーブン・カミングス、そしてもちろんフィリッポ・ポッツァートの姿があった!ステージ前半の平地を利用して猛スピードで逃げ続けた6選手は、後続プロトンに最大8分差をつけた。ただし道が上り始めると、途端に、後方からの締め付けが厳しくなっていく。この日唯一の上り——登坂距離が18.9kmと非常に長く、最大勾配は14%と厳しいモンテ・グラッパへの上り——で、とうとう総合争いたちに先頭を引き渡すことになった。

山の上は雨に降られた。上りの前半、約12kmにも渡ってリクイガス・ドイモのシルヴェスタ・シュミットが猛烈な牽引を行い、メイン集団を細かく切り刻んでいった。2009年ドーフィネ・リベレでラルプ・デュエズを制した強健ヒルクライマーの速いテンポに、若きマリア・ローザのリッチー・ポートはたまらず後退してしまう。また一時はブラドレー・ウイギンズが前方で逃げてきたカミングスに合流し、先攻を目指すが、これも黄緑色の登山列車はまんまと回収に成功した。そして山頂まで7km、勾配が11%を超える厳しいゾーンで、ヴィンチェンツォ・ニバリが動いた。アシストのシュミットの後ろで涼しい顔をしてペダルを漕ぎ続けていたと思ったら、突然、ライバルたちを一瞬で叩き切ってしまった!

ニバリの企みに乗ることが出来たのは、チームメイトのイヴァン・バッソ以外は、ミケーレ・スカルポーニとカデル・エヴァンスだけ。4日前まで総合首位を走っていたアレクサンドル・ヴィノクロフと3日前に総合争いに復帰したカルロス・サストレは、一瞬で取り返しの付かないような距離を付けられた。1分42秒差で総合首位につけるポートの脱落により、俄然マリア・ローザの可能性が出てきたダビ・アローヨも振り落とされた。「でも、ボクはニバリの加速は気にせず、自分のリズムで上るようこころがけた」とアローヨ。ただし今夜のマリア・ローザではなく、ヴェローナで迎える最後の夜にピンク色のジャージを着ていたいと願うヴィノクロフとサストレは、4人を必死で追いかける以外の選択肢はなかった。

ニバリを含む3選手は、山頂でヴィノクロフ&サストレにすでに1分8秒にリードを開げる。しかし普段以上に積極的な攻めを仕掛けたリクイガスの狙いは、4人で協力し合ってさらに後方とのタイム差をつけること……だけではなかった。「ボクは下りが得意。だから下りでアタックすることに決めていた。これはバッソも納得の上の作戦だった」とゴール後の記者会見で語ったように、ニバリは、ぬれて滑りやすくなった下りでさらなる飛び出しを仕掛けた。あっという間に遠ざかっていくニバリの背中を見送って、バッソはエヴァンスとスカルポーニの後ろにぴたりと張り付いた。だって自分は何もする必要はなく、仕事をするべきなのは2人だったのだから。

ゴール地では再び明るい日差しが待っていた。2度の攻撃を成功させたニバリが第4ステージのチームタイムトライアル優勝に続いて、区間勝利の表彰台に上った。もちろん今回はたった1人で栄光を独り占め。すでに3回経験済みのマリア・ローザ表彰台とは違う、生まれて初めてのグランツール区間を勝ち取った喜びをかみ締めた。しかも下りで力を十分に温存することができたバッソが、ライバル2人をスプリントで突き放して区間2位のボーナスタイム12秒獲得。チーム総合でもリクイガスは4位から一気に首位へと躍り出た。またニバリは区間2位以下(3位スカルポーニ、4位エヴァンス)に23秒差をつけ、さらには下りでサストレを置いてけぼりにして孤独な追走を行ったヴィノクロフが1分34秒遅れでゴールしたため、ヴィノクロフとエヴァンスを総合で逆転することにさえ成功した。総合順位は16位から8位へ一気にアップ。第11ステージの記録的な逃げでタイムを稼いだサストレとの遅れを4分9秒→1分24秒に、ウイギンズとの遅れは3分4秒→19秒と一気につめた。……しかしもちろん、マリア・ローザまでは、未だに6分51秒の遅れを背負っている。

ただしニバリやその他の選手たちが追い落とすべき相手は、もはやポートではない。山岳巧者としてすでに名前を知られているアローヨだ。「普段はアシストの仕事が多いけれど、今大会ではリーダーの座を任された。そのチャンスを生かすことが出来て嬉しいよ!」と初めてのマリア・ローザに興奮する。残念ながら総合首位から1つだけ順位を下げてしまったけれど、ポートには代わりに新人賞の白いジャージが手渡された。赤いジャージの持ち主もジェローム・ピノーからヴィノクロフへと変わっている。マシュー・ロイドだけが、緑の山岳ジャージを守った。またステージ前半を大いに盛り上げたポッツァートは、ゴール後にはスーパーチーム(各ステージ上位20人に20〜1ポイントが与えられ、その総計で争う)の表彰式でまたしてもイタリアンジャージを大いにファンへ見せ付けた。


■ヴィンチェンツォ・ニバリ(リクイガス・ドイモ)
ステージ優勝

本当に満足している。なによりもチームがすごい仕事を成し遂げたことに満足だ。ボクらチームは第11ステージの後、決して希望を失わなかった。確かに第11ステージではミスをおかしたけれど、こうして再び道を開くことができた。バッソとボクは素晴らしい走りをしたと思うよ。上りのバッソはすごぐ強かった。それに下ったあともバッソはたった1人でスカルポーニとバッソの攻撃にブレーキをかけつづけてくれた。なにしろ最終盤はあのエヴァンスでさえくたびれ果てていたようだからね。

ボクとバッソの力は今までのところ同じようにレースで力を見せ付けている。ボクらは優勝のチャンスを失ったとは全く思っていないし、今日のボクらは視線を交し合ってお互いの意思をしっかり交換し合っていたんだ。2人はしっかりとした協力関係にある。去年のアスタナ内でのアームストロングとコンタドールのような関係では全くない。それにチームは2トップ体制でいい仕事が出来ている。今日に関しては、自分で下りが強いことを知っていたから、下りでアタックをかけた。ボクが下りでアタックを打つ意欲があることは、バッソも承知していたこと。

今日のボクは大いに力を尽くし、エネルギーをたくさん消費した。明日はさらに重要なステージだ。ボクの肉体がどれだけ耐えられるのか様子を見ていきたい。さらに最終週は本当に厳しい戦いになる。特にガヴィアは上がりも下りも非常に難しい。果たしてどれだけボクに出来るのか。もしも集団の先頭で勝負を争うことができたなら、ボクは出来る限りのことをする。でもこれまで何度も繰り返しているように、このジロは1日1日走るだけなんだ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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