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サイクル ロードレース コラム 2010年5月24日

【ジロ・デ・イタリア2010】第15ステージレースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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どの角度から上っても信じられないほどの急勾配が待ち受けている。その中でも最も傾斜の厳しい西側からの上りから、選手たちは姿を現した。過去2回この山を制しているジルベルト・シモーニによれば「ヨーロッパの自転車界において一番厳しい山」。10.1kmの激坂をマリア・ローザ姿で上りきったダビ・アローヨも「(スペインの)アングリルよりも難しいね。登坂口から山頂まで、ずっと厳しい勾配が続くから」と断言する。平均勾配11.9%、最大斜度22%のゾンコランの坂の途中には、こんな横断幕がかかっていた。「ゾンコラン、地獄の門」。

つまり地獄へと向かう222kmの旅。スタートから18km地点で6人の選手が、アタックを仕掛けて飛び出していった。リュドヴィク・テュルパン、ジャクソン・ロドリゲス、ギヨーム・ルフロシュ、ニコ・セイメンス、ジェローム・ピノー、そしてフランチェスコ・レーダ。閻魔の顔を一刻でも早く拝みたいのか、6人は時速47.5kmのハイペースで飛ばし、ステージ前半で14分半近いタイム差をつけた。

ただし、はるか後方のプロトンでは、前日同様、リクイガス・ドイモがインフェルナルな加速を行い始めていた。「チームのアシスト1人1人には、あらかじめそれぞれ細かい役割分担が定められていたんだ。それを全員が100%成し遂げてくれた」とイヴァン・バッソがゴール後に語ったように、黄緑色の列車は一糸乱れぬ連携リレーでエスケープ集団を追い詰め、同時にプロトンを小さく千切っていった。前半はバレリオ・アニョーリとロベルト・キセルロウスキーが集団を強烈に引き上げ、山頂が近づくと山岳巧者シルヴェスタ・シュミットが後を引き継いで、さらなるハイスピードでライバルたちを苦しめる。下りで再びアニョーリとキセルロウスキーが前に上がり、同じように峠の前半で仕事をして……。リクイガスの動きは決して崩れることがなかったし、崩されることもなかった。ゾンコランの手前の山でマルコ・ピノッティがアタックをかけたときも、シュミットの冷静な加速ですぐさま回収を行った。ゾンコラン突入前にはランプレ・ファルネーゼヴィーニとクイックステップがメイン集団前方に大挙して上がってきたときも、きっちりとシュミットが前に出てあっという間に主導権を取り戻した。そして、山頂まで7.5km地点で、ついにリクイガスのリーダー自らが動いた。前日第14ステージはヴィンチェンツォ・ニバリが一撃を決めたが、今日はもう1人のリーダー、バッソが動く番だった。

地獄の入り口で、逃げ集団のリードは2分45秒にまで縮んでいた。すでに手前の山でレーダが脱落し、ゾンコラン登坂開始と共にルフロシュも付いていけなくなった。そして最後まで山を得意とするテュルパンが1人で抵抗を続けたが、地獄の先の天国まであと5.7kmに迫ったところで、先頭の座から突き落とされてしまった。

バッソのアタックに、反応できたのはミケーレ・スカルポーニとカデル・エヴァンス、そしてピノッティだけだった。ただしピノッティはすぐに限界を迎え、スカルポーニもバッソのリズムについていけなくなった。「ボクの戦術は強いリズムで、コンスタントに、シッティングで走り続けること。山岳タイムトライアルのような走りを目指した」と語るバッソに、世界チャンピオンのエヴァンスだけが長らく粘り続けた。ただし1度だけ、バッソはダンシングの姿勢を見せる。20%ゾーンを抜けた直後——それでも15%台の恐ろしく厳しい傾斜だが——、残り3.7kmで一気呵成にバッソが攻め立てると、エヴァンスはとうとう陥落した。立ち漕ぎで十分なリードを開いた後、バッソは再びサドルの上にしっかりと座りなおすと、たった1人で鈴なりのファンが待つ山頂を目指し始めた。

2006年のジロ初優勝時は天使のような微笑で山を登ったバッソだが、この日は背後にエヴァンスの執念を感じながら、鬼のような形相でペダルを漕ぎ続けた。山頂間際の3つの細くて暗いトンネルを潜り抜けると、突然、天に大きく開ける山頂へとたどり着く。過去2回ジロに登場して2回ともシモーニが制してきたことから「シモーニの山」と呼ばれてきたゾンコラン。「今日からはイタリア人の山です!」とゴールエリアでレースコメンテーターが絶叫する中、バッソ自身は4年ぶりのジロ区間優勝を手に入れた。リクイガスにとっては2日連続の作戦成功=区間勝利。バッソは総合でも11位から3分33秒差の3位へとジャンプアップし、一気にヴェローナでの表彰台が見えてきた。また昨日の英雄ニバリはこの日はさすがに体力が続かず区間7位に入り、総合はひとつ順位を上げて7位につける。

またエヴァンスはキアラ夫人が待つ山頂へ、1分19秒遅れで姿を現した。スカルポーニは1分30秒差。その後はダミアーノ・クネゴ、アレクサンドル・ヴィノクロフ、カルロス・サストレ、ニバリ……と区間11位まで全員バラバラに1人ずつフィニッシュラインにやってきた。まるで山岳タイムトライアルのゴールように。その区間11位のアローヨは3分50秒遅れでゴールしたため、上記の実力者たちはそれぞれ総合首位とのタイム差を縮めることに成功したことになる。ただしアローヨはマリア・ローザを死守。またリッチー・ポートも5分46秒遅れながら総合2位の座とマリア・ビアンカを守りきった。

誰の顔にも、救いきれないような疲れが浮かんでいた。大きなグルペットはほとんどできず、見事に完走した157選手の大半がゾンコランで孤独な戦いを強いられた。26分10秒遅れでたどり着いた新城幸也も、いつになく疲れた表情で山の向こうへと走り去っていった。翌日は待ちに待った大会2回目の休養日。そして2日後にはプラン・デ・コロネスの未舗装山岳タイムトライアルが待ち受けている。


■イヴァン・バッソ(リクイガス・ドイモ)
ステージ優勝

こんな素晴らしい日になるとは、想像もしていなかった。たくさんの人に感謝の意を表したい。去年のボクは悪くはなかったけれど、決して最高ではなかった。それでもボクを信じ続けて、支え続けてくれた人々に、リクイガス・ドイモのスタッフやチームメイトたちにお礼の言葉を言いたい。今日の出来に本当に満足しているけれど、浮かれた気持ちはまるでないんだ。まだまだ大切なステージがたくさん残っているから、むしろ残り1週間をどう走るかという構想で頭がいっぱいだ。でも、確かに精神的に大きなアドバンテージを得られたね。

チームはこの日のために長い間しっかり準備をしてきたし、レースを完璧にコントロールすることができたね。今朝のミーティングでは、監督からチームの各選手がやるべき仕事内容が細かく言い渡された。そしてチームメイトたちは、指示された仕事を100%果たした。そしてボクが最後に彼らの仕事を引き継いだ。ボクには十分な脚が残っていたし、作戦を成功させることができて本当に嬉しいよ。

エヴァンスとのタイム差は、ラジオで逐一報告を受けていた。とにかくボクはあらかじめ決めていた戦術通りに上り続けた。つまり強いリズムで、コンスタントに上ること。シッティングでいつづけること。いわば山岳タイムトライアルのような走りをすることだ。それでも、恐ろしい坂道には変わりなかったけどね!とにかく3週目はエヴァンスが最大の強敵になるだろう。彼は確かな実力を持っている選手だし、偉大なる世界チャンピオンなんだから。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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