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サイクル ロードレース コラム 2010年5月26日

【ジロ・デ・イタリア2010】第16ステージレースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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初めてこの「冠山」にジロが訪れた2006年は、大雪だった。未舗装ゾーン突入前に、プロトンは早めのゴールを迎えた。2年前の2008年は、この日と同じ個人タイムトライアルの舞台となった。どんよりとした曇り空の下で、厳しい孤独な戦いが繰り広げられた。そして2010年のプラン・デ・コロネスは、暑いくらいの陽気に包まれた。2273mの山頂には容赦なく紫外線たっぷりの陽光が降り注ぎ、酸素が薄い高山で選手たちが吐く息は熱かった。レース前半のアスファルトはところどころが溶け、後半の未舗装地帯では残雪が川となってあたりを流れた。ただ晴天のおかげで、ゴール地の周りには、見事なドロミティのパノラマが360度広がっていた。

157選手が3部に分かれて12.9kmの激坂へと挑みかかった。第1部、33番目にスタートを切った新城幸也は未舗装ゾーンではときにジグザグになりながらも、無事に47分20秒で山頂への全力疾走を終えた。1分後に出走したニコ・セイメンスに最終盤に追い越されもしたが、区間はちょうど100番目の成績で終えた。また自転車から立ち上がれない選手や、しばらく脚が震えて歩けない選手もいるなかで、新城には自力で選手用テントへと向かう力が残っていた。ただし「脚よりも、むしろ呼吸が上手くできなかったですね」と、やはり2000m超えの高山の影響は大きかったようだ。「きつかった。後半はずっと厳しくて、どこが最難関ゾーンなのか分からないほどだった。とにかくゴール前がきつかった」と語ると、ロープーウェイで山の麓へと静かに下って行った。

1部と2部の短い休憩時間を利用して、UCI会長パット・マッケイドの記者会見が開かれた。ゾンコランで繰り広げられたイヴァン・バッソとカデル・エヴァンスの激突を「100%クリーンな闘い」と賞賛し、またフロイド・ランディスの告白と告発——2006年ツール・ド・フランスの優勝数日後にドーピング陽性で失格となり、このたびようやく薬物使用を認めたと同時に、ドーピングに関わった選手・監督名をUCIに通達したのだ——を受けて、UCIと関係国自転車連盟が調査に乗り出したことを報告。公表できるデータ類は全てUCIの公式ウェブサイトに掲載すると断言している。

54番から105番スタートの選手たちで構成された第2部では、リクイガス・ドイモのシルヴェスタ・シュミットがベストタイムを叩き出す。この山の勝利が欲しい……と願って止まなかったジルベルト・シモーニは、アスファルト部分と未舗装部分で自転車を変えるというリスクをあえて冒したが、2部終了時点で3位。早くも区間勝利の夢を断たれてしまう。最終的には30位。ゾンコランとアングリル、欧州自転車界を代表する2大峠を制してきた“ジーボ”だが、現役最後のジロで、プラン・デ・コロネスの王冠を手に入れることは叶わなかった。

その金色の冠を戴く権利を手に入れたのは、最終第3部に登場したステファノ・ガルゼッリだった。あちこちからロープーウェイを乗り継いで山の上までやってきたファンたちの歓声と、山頂に吹き付けた強い風に背中を押されて。「中間計測地点のフルチアまではひたすら力を抑えて走った。そして後半は思いっきり努力したんだ」と語ったように、中間計測地では3位のタイムだったが、後半はダントツのトップ。たとえば区間2位に終わったエヴァンスは前半こそガルゼッリを12秒リードしていたが、後半は逆に54秒の遅れを食らっているのだ。2年前の王者フランコ・ペッリツォッティの作戦とタイムデータをしっかり研究してこの山に臨んだガルゼッリは、「前半飛ばして後半バテたのは戦術のミス」と切り捨てた。

やはり同じように後半でタイムを大幅に落としたのはアレクサンドル・ヴィノクロフだ。前半は6位通過ながら、後半は疲労し切って12位のタイム。最終的に1分37秒遅れの区間8位に入ったが、並み居る総合ライバルたちからタイムを失った。エヴァンスからは55秒、区間4位ヴィンツェンツォ・ニバリからは36秒、区間6位バッソからは27秒の遅れ。ゾンコランで力強い勝利を挙げ、総合3位に上がっていたバッソは、この日はさらに一段ステップアップを成功させた。4年ぶりのマリア・ローザまでの距離は3分33秒から2分27秒に縮まった。ただし「今後は最大のライバル」と危険視するエヴァンス(総合4位)に対するリードも1分10秒から42秒へと縮まってしまった。翌日からのバッソとリクイガスは、前を追いかけ、さらに後ろからの追走を振り切らなくてはならない。

しかも前を行くダビ・アローヨは、タイム差は少し縮められてしまったとはいえ、厳しい山岳TT後に自信を強めたような満足気な表情を見せている——ゾンコラン後のひどく不服そうな雰囲気とはまるで対照的に。この日会場を訪れたF1チャンピオンのフェルナンド・アロンソは、同国出身のツール優勝経験者カルロス・サストレの後ろについて走ったが、表彰台でアロンソから称えられる名誉を得たのはアローヨのほうだった。しかもタイム自体もサストレを15秒リードする上々の出来。「結果はポジティヴ。これならば表彰台を狙えそうだ」と残り5日間に希望が見えてきた。ただし未だに調子の上がりきらないサストレも総合5位につけている。


■ステファノ・ガルゼッリ(アックア・エ・サポーネ)
ステージ優勝

勝てるとは思っていなかったけれど、自分でも山岳タイムトライアルは悪くないと分かっていたんだ。それに5、6選手の通過タイムを頭に入れておいたから、それを基調に走った。それに体力を上手くコントロールできたのが良かったね。中間計測地点まではゆっくり力を抑え目に走って、その後は全力を尽くしたんだ。ほかの有力選手たちは、前半飛ばしすぎるというミスを犯したね。後半ばててしまったんだ。あとは風向きもボクには有利だった。この勝利はキャリアで手に入れた勝利の中でも最高の部類に入る。

このジロは本当に厳しい。第14ステージでは付いていけなくなったから、このまま5分遅れるのか、むしろ20分遅れたほうがいいのか少し考えた。そして20分遅れることに決めたんだ。ゾンコランでは調子は悪くなかったけれど、トップ集団でゴールできないことは明らかだった。だから無理せずに走ったんだ。逆に明日のステージはいい走りを見せたいね。休日明けのボクはいつもいい成績が出せるんだ。2007年は休日翌日の第16ステージを制したし、去年は休日後の第10ステージで山岳ジャージを手に入れた。明日第17ステージの山は、2年前にボクが勝った山なんだ。だから道は熟知している。ボクにはもはや何も失うものなどないから、気持ちは落ち着いている。


■ダビ・アローヨ(ケースデパーニュ)
マリア・ローザ

ここまでの総括はポジティヴだ。今からは表彰台に上るために全力を尽くして行きたい。今日のステージはとにかく一定のリズムで走るようにこころがけた。そしてしっかりと思い通りの走りが出来た。バイクには子供の写真を貼っていた。この写真がボクに力を与えてくれたんだ。特に最終盤の辛いときには助けになった。

モルティローロもガヴィアも走ったことはないよ。TVで見たことがあるだけ。でも人から聞かされた限りでは、ボク向きの上りらしいね。だから冷静な気持ちだ。それにボクは下りが得意だから、下りでタイムを稼ぎたい。バッソとエヴァンスの2人を大いに警戒している。2人の走りを上手くコントロールいく必要があるだろう。バルベルデからは日曜日にメールが来た。さらに彼はチーム監督に「もっと攻撃的に行ったほうがいい」なんてアドバイスをしているようだ。彼はこの先もTVの前でボクを応援してくれるはずだよ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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