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サイクル ロードレース コラム 2010年5月29日

【ジロ・デ・イタリア2010】第19ステージレースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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2010年ジロの運命を決める最後の山岳2連戦。朝のスタート地には一種独特の緊張感が漂っていた。逆転優勝に全チーム体制で臨むリクイガス・ドイモは、バスの出入り口に立ち入り禁止のテープを張り巡らせた。サーヴェロ・テストチームはスタート30分前まで入念なミーティングとメカチェックを行い、ケースデパーニュとBMC レーシングのバスはファンやジャーナリストたちの視線を避けるようにスタート地にギリギリまで入らない作戦を選んだ。ちなみにマリア・ローザのダビ・アローヨは、もう2日間もレース後にプレスセンターで行われる公式記者会見に姿を現していない。余計な疲れやストレスを増やしたりせずに、この山岳2連戦に最大限の集中力を発揮したいと願ったためだった。

……しかし、残念ながらアローヨがマリア・ローザ姿でプレスセンターに戻ってくることはなかった。厳しい戦いが繰り広げられた今ステージの終わりには、新たな選手が、ばら色のジャージを纏って記者たちの前に姿を現すことになる。

モルティローロを筆頭に4つの峠が登場した極めて難しいステージは、勇敢な選手たちのアタック合戦で幕を開けた。スタート直後からプロトン前方では飛び出しを仕掛ける者が相次ぎ、おだやかなイゼオ湖のほとりで高速のバトルが繰り広げられた。そしてスタートからちょうど1時間、時速46kmで走ったプロトンから46km地点で9人の選手が飛び出しを成功させた。小さな雨粒が落ち始め、うっすらと霧に覆われた山道で、先頭の9人は最大8分30秒のリードをつけた。背後ではいつものように——最終週の山岳ステージではおなじみとなった——リクイガス・ドイモのスピードコントロールが始まっていた。

それでも第1回目のアプリカ登坂(山頂フィニッシュの山)では、ステファノ・ガルゼッリがリクイガスの厳戒態勢をかいくぐってプロトンから飛び出した。次々と分裂していく逃げ集団に追いつき、前で待っていたチームメイトのフランチェスコ・ファイッリと合流し、ついには単独先頭でモルティローロの高みを目指し始めた。プロ入り直後からの数年間、マルコ・パンターニのアシストとして走ってきたガルゼッリにとって、このステージには特別な思いがあったに違いない。1994年ジロのパンターニは、モルティローロで伝説的なアタックを仕掛け、ゴール地アプリカで勝利と名声を手に入れた。パンターニが天に召された2004年のジロではこのモルティローロが「パンターニの山」に選ばれた。そして今大会の今ステージは「パンターニのステージ」と命名されていた。しかしこのモルティローロの上りで、ガルゼッリの試みは潰された。さらに下りでは落車し、右ひざと太ももを痛めている。

ガルゼッリを飲み込んだのは、イヴァン・バッソとヴィンチェンツォ・ニバリ、そしてミケーレ・スカルポーニの3選手だった。モルティローロへの上り開始と共にリクイガスの強力山岳アシスト、シルヴェスタ・シュミットが恐ろしいほどの牽引を始めると、たまらずアローヨが遅れ始める。そして真打ちバッソが後を引き継ぎスピードアップするとカルロス・サストレが落ち、さらなる加速でアレクサンドル・ヴィノクロフが千切れ、ついにはカデル・エヴァンスも少しずつ後ろに置き去りにされていってしまった。ゴール前40km地点でバッソとリズムを共にできたのはチームメイトのニバリと、「モルティローロでは、とんでもなく苦しかったけれど、強いテンポを強いてきたバッソの背後に必死でしがみついた」というスカルポーニのみ。そのまま3人はガルゼッリに追いつき、ついには追い越して全選手の先頭に立った。モルティローロ山頂では、追いかけるヴィノクロフに55秒差、エヴァンスに1分45秒差、そしてアローヨに1分55秒差をつけていた。

前日までの時点で、首位アローヨと総合2位バッソのタイム差は2分27秒。つまり区間3位までのボーナスタイム(最大20秒、最少8秒)を考えれば、あと最低でも24秒リードを奪えば、バッソが「暫定」マリア・ローザに躍り出るはずだ。ところがここから、アローヨが素晴らしい抵抗を見せた。小雨と霧のせいで濡れた下り坂で、果敢なダウンヒルを展開。実はイタリアのTV局のバイク解説者というのが2005年ジロを「下りで制した」かの有名なパオロ・サヴォルデッリなのだが、この名うての下り巧者をうならせるほどの見事な技を披露する。エヴァンスを追い越し、ヴィノクロフに追いつき、坂を下りきったときには前方3人とのタイム差は45秒にまで縮まった!

「この3人なら逃げ切れる、と安心感があった」とゴール後のスカルポーニが語ったように、しかしゴール地アプリカへの上りが始まると、実力者3人はしっかり協力し合って再び後方との差を開き始めた。一方で次々と追いついてきた総合候補からまったく協力を得られなかったアローヨは(同国スペイン出身のカルロス・サストレだけは自身の総合順位のためにも少しだけ手助けしたが)、少しずつタイムを失っていく。そしてゴール地まで残り3.5kmでついにバッソに「暫定」ランプが点滅し、ゴールラインではもちろん本物の首位の座へと上り詰めた。2006年以来4年ぶりとなるマリア・ローザに、ついに袖を通した。

まるで争うことなく区間を制したのはスカルポーニだった。バッソのマリア・ローザ獲得とニバリの表彰台入りを手助けしたお礼のつもりなのか、リクイガスの2人はゴールスプリントに打って出る気配さえ見せなかった。キャリア通算3度目のジロ区間を手に入れたスカルポーニ本人も、総合8位から4位にジャンプアップ。またアローヨは首位から転落したものの、未だ51秒差で総合2位につける。また3位ニバリとは1分39秒差、4位スカルポーニとは1分58秒差を保っており、ヴェローナで表彰台に上れる可能性はまだまだ大いに残している。総合5位エヴァンスはバッソとの差4分、3位表彰台までの差1分半。最終日がタイムトライアルであり、エヴァンスがTT巧者であることを考慮すれば、逆転表彰台も夢ではない。逆に総合6位サストレや8位ヴィノクロフにとって、ポディウム獲りは難しくなってきた。……ただし2010年ジロは難所と衝撃の連続。残り2日でこれら状況が一転したところで、もはや誰も驚きはしないだろう。

しかも第20ステージは、前夜の時点で、どのコースを通過するか確定していない。標高2618mの「チマ・コッピ」ガヴィア峠の悪天候が不安視されているためで、開催委員会はもしもの場合に備えて本来のコースのほかに3つのコースを用意した。スタート地とゴール地だけは予定通りだが、途中の通過ルートや峠を変更するというものだ。

A.予定通りのコース
178km スタート→フォルコーラ・ディ・リヴィーニョ峠→エイラ峠→フォスカーニョ峠→ガヴィア峠→ゴール(トナーレ峠)

B1.
183km スタート→サンタ・クリスティーナ峠→モルティローロ峠→ガヴィア峠→ゴール(トナーレ峠)

B2.
195km スタート→フォルコーラ・ディ・リヴィーニョ峠→エイラ峠→フォスカーニョ峠→モルティローロ峠→ゴール(トナーレ峠)

B3.
170km スタート→スタッツォーナ峠→トリヴィーニョ峠→モルティローロ峠→ゴール(トナーレ峠)

最終的なコース決定は第20ステージスタートの約2時間前、朝10時半に発表される。気になるガヴィア峠の天気予報は、土曜日の午前中は雪、午後は雪のち雨。


■ミケーレ・スカルポーニ(アンドローニ ジョカットーリ・ディクイジョバンニ)
ステージ優勝

バッソとニバリはすごく強かったね。モルティローロでは山頂まで5〜3km地点で非常に辛かった。自分との戦いで、バッソについていくために必死になったよ。でもその後は楽になって、2人と協力し合って走ることができた。ボクらには共通の利益があったから、自分の分のリレー分担はしっかりと受け持ったよ。モルティローロを下りきった時点で、アローヨとヴィノクロフとの差は45秒しかないと知っていた。でもボクらは落ち着いていた。3人は逃げ切れるだろう、3人の中から区間勝利者が出るだろうと確信していた。

ボクの目標は、大会前から公言してきたとおり表彰台に上ること。ついに総合4位に上がったね。それにこんなに難しいステージを勝つことができたことには満足しているけれど、体力もたくさん使った。疲れてしまったから、明日の難しいステージでどれだけできるかは分からない。でも決して諦めないよ。それにしても今日のリクイガスは、ライバルたちを大いに疲弊させてしまったね。アローヨも疲れてしまったようだ。でもまだまだバッソのタイム差は十分ではないから、枕を高くして眠ることはできないだろう。確かに最強チームにジャージが渡ったが、まだまだ逆転される可能性は残っている。

■イヴァン・バッソ(リクイガス・ドイモ)
マリア・ローザ

チームがステージ全体をきっちりコントロールしてくれたね!おかげで最初の登りに突入した時点から、レースの主導権をきっちりと握ることができた。なによりニバリと2人で先頭に立てたのは幸運だった。2人でしっかり協力し合うことができた。逃げのパートナーとして、スカルポーニの協力を得られたこともボクらにとってはありがたかった。実力のある選手だし、なによりリレーの役割をきっちり100パーセント果たしてくれた。マリア・ローザを取れたことはもちろん、タイム差にも満足している。

スタート前から、今日はマリア・ローザを取れるかもしれない、取る可能性はあるだろう、と考えていた。でもマリア・ローザというものは、今度の日曜日の、夕方6時に着ていなければならないものなんだ、明日はとんでもなく難しいステージが待っている。それにタイムトライアルも待ち構えている。今日は目標を達成できたが、明日は違う日なんだ。ただし、このジャージがボクに落ち着きをもたらしてくれることは間違いない。それにガヴィアへの登りを恐れてはいない。夜も眠れないなんてことはないよ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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