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サイクル ロードレース コラム 2010年5月30日

【ジロ・デ・イタリア2010】第20ステージレースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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2010年ジロ・デ・イタリアの最後の難関山岳ステージ。38歳のジルベルト・シモーニにとっては、人生最後の難関山岳ステージだった。今大会の最終日に自転車から降りる決意をしているジーボは、ヒルクライマー人生を美しく締めくくるために飛び出した。ジロには通算15回参加し、2001年と2003年にはマリア・ローザを獲得した。難関ゾンコランは2回制し、またスペインの魔の山アングリルも攻略したことがある。ジロの名峰モルティローロは2位通過がキャリア最高だったが……。そしてこの日、今大会最標高地点2618mの「チマ・コッピ」を手に入れるために、雪の壁にはさまれたガヴィア山頂への細道を先頭集団で登った。山頂まで6km地点で加速してヨハン・チョップと2人きりになると、そのチョップから一旦遅れるも、チャンピオンの意地を振り絞って再び先頭へと這い上がった。ただしシモーニより11歳年下のチョップは、プロトンを立ち去るベテランに餞を贈る気などまるでなかったようだ。スプリントでチョップが山頂を先頭通過。イタリア中が、無念のため息をついた。肝心のシモーニは「通過前にチョップに譲ってくれるよう頼んだりもしていないし、別にうらんでもいない。本当に素敵な1日だった」と、ゴール後にまぶしいほどの笑顔で答えた。

そのチョップが、チマ・コッピと共に今大会最後の山頂フィニッシュも手に入れた。スイスアルプスで生まれ育ち、山の起伏と自然をこよなく愛するエコロジストは、ガヴィアからの細く危険な下りも果敢に加速し、トナーレへの登りでも力を決して落とすことがなかった。背後で壮絶なアタック合戦を繰り広げた総合上位の追い上げも振り切って、人生初めてのグランツール区間勝利を手に入れた。かつてジロで難関ステルヴィオ峠を制したジャンルネ・ベルノドー率いるBboxブイグテレコムにとっては、チーム創設以来初めての嬉しいジロ初勝利。また最終峠途中までマリア・ローザ集団で走り続けた新城幸也は、チームメイトのチョップからわずか19分12秒遅れで山頂へ。「これでジロが終わりましたよ!」と爽快な笑顔を見せた新城にとって、日本人初のジロ&ツール2大会完走まで残すは15km。夜にはチョップ優勝を祝うスプマンテを、心の底から楽しめることだろう。

今大会はタイムトライアルで締めくくられる。つまりこの日は全ての選手にとって様々な最後のチャンスだった。たとえば第6ステージから13日間守りきってきた山岳賞首位を失い、ただし入れ替わりに首位に立ったイヴァン・バッソがマリア・ローザを優先させるため、代わりに緑色のジャージを着て走ったマシュー・ロイド。愛着のわいたジャージを取り戻そうと、19選手と共に逃げを打った。そして序盤2峠を1位通過、3番目の峠を2位、さらにはガヴィア峠を3位通過すると、今ステージだけで27ポイント獲得。おかげで山岳賞トップを奪還し、しかも2位以下に15ポイントという大差をつけた。最終ステージには第3カテゴリーの峠が1つだけ登場するが、どうがんばっても取れるのは最大3ポイント。つまりは見事、2010年ジロのキング・オブ・マウンテンの座を手に入れたというわけだ!

新色のポイント賞「マリア・ロッソ・パッショーネ」もすでに持ち主が決定した。タイムトライアルにはゴールポイントが発生しないため、第20ステージ終了地点で赤色ジャージを手にしたカデル・エヴァンスが最終的な受賞者に決定した。しかし今大会最後の山岳ステージで世界チャンピオンが見せつけたのは、むしろ、総合表彰台に向けての攻撃的精神だった。

山岳賞ロイドやチョップの逃げ集団には、第1峠の麓でプロトンから飛び出したカルロス・サストレが合流した。同じく峠の途中でアレクサンドル・ヴィノクロフもアタックを仕掛けた。前日の終了時点ですでにそれぞれ表彰台から3分以上の遅れを喫していた両者は、長い逃げで、目覚しいタイム復活を願ったのだった。一方で表彰台まで1分半のエヴァンスは長い逃げではなく、短いアタックで着実なタイム回復を試みた。

そして長い逃げを淡々と、しかし確実に追い上げてきたリクイガス集団は、ゴール前5kmでエヴァンスが仕掛けた大きな一撃であっけなくバランスを崩されてしまう。慌てて後を追う総合1位イヴァン・バッソと総合4位ミケーレ・スカルポーニのリズムに、総合3位ヴィンチェンツォ・ニバリがついていけなくなった。前日までのマリア・ローザ、ダビ・アローヨもここで失速。またエヴァンスの飛び出しのせいで前線全体のスピードが上がり、サストレとヴィノクロフは大勢の選手に追い抜かれてしまった。タイムも取り戻すどころか、逆に失ってしまった。……全ての起因となったエヴァンスはバッソとスカルポーニより9秒先んじてゴールへ飛び込み、区間2位で12秒のボーナスタイムを手に入れ、表彰台まで51秒差に近づいた。

またエヴァンスのアタックで予定外の追走を強いられたバッソは、そのおかげで総合2位アローヨとのタイム差を51秒→1分15秒と開くことに成功した。この事実に頬を緩めながらも、代償としてニバリが遅れてしまったことを残念がる。それでもスカルポーニにボーナスタイムを取らせぬよう、ゴールラインでは懸命に力を尽くし、3位8秒のボーナスタイムを横取りした。おかげでわずか1秒差ながら、ニバリは総合3位の座を守りきった。もちろん上述したように、エヴァンスとの差は51秒。2010年マリア・ローザに王手をかけたバッソは、若きチームメイトが「明日のTTで素晴らしい走りを見せくれるはず」と断言している。


■ヨハン・チョップ(Bbox ブイグ テレコム)
ステージ優勝

すごく感動している。とんでもない勝利だよ。まだ夢を見ているみたいだ。フィニッシュラインでは家族のこと、特に6ヶ月の息子ユーゴのことを考えた。ジロの最も美しいステージを勝つことができた。自転車選手としての人生の集大成のようなものだよ。これがキャリア飛躍のきっかけとなるといいね。グランツールの区間勝利はずっと夢だった。それもこれは小さな区間での勝利じゃない。本当に幸せだよ。

(シモーニにチマ・コッピを譲らなかったことについて)レースはあくまでもレース。ボクだって何かを譲ってもらったことなんか一度もない。スポーツというのはある意味、常に個人主義的なものなんだ。1対1の戦いだ。それにチマ・コッピを先頭通過できたら、それだけでボクにとっては勝利に等しかった。しかも争う相手は大チャンピオンのシモーニ。シモーニ相手にチマ・コッピを勝ち取れたら、本当に素晴らしいに違いないと思ったのさ。

実は昨日落車して、右太ももを痛めていた。今日スタートできるかどうかさえも不明だった。でも昨夜チームドクターに治療をしてもらったおかげで、今朝は少し調子が良かった。スタートしたときも不安があったけれど、走っていくうちにどんどん調子がよくなっていくことを感じた。そして前に出た。ガヴィアでは本当に絶好調だったから、今日は何かとんでもない成績がだせるぞ、と確信した。今大会は序盤から何度もエスケープに挑戦してきた。でもまさか、山頂フィニッシュを勝てるとは思ってもいなかった。

■イヴァン・バッソ(リクイガス・ドイモ)
マリア・ローザ

すごく難しい1日だった。あらゆる強豪選手がアタックを仕掛けてきた。でもチームがスタート直後から素晴らしい仕事をしてくれたから、ボクは落ち着いた気持ちで走り続けることが出来た。個人的には、今日の結果に満足している。ポジティヴな結果だ。アローヨと少しだけれどタイムを広げることが出来た。悪くないね。でもスカルポーニの加速で、ニバリが遅れてしまった。ニバリはすぐに後ろに付こうとしたんだけれど、失敗してしまった。だからボクはスカルポーニを先に行かせないようコントロールして、区間3位のボーナスポイントも獲った。でも明日のTTでは、ニバリが素晴らしい走りを見せてくれるだろうと確信しているんだ。

明日は簡単なステージではない。しっかりルートを研究して、あらゆる詳細をきっちりチェックして、注意して走りたい。TTというのは何が起こるのか最後まで分からないものだからね。天候にも不安はある。

エヴァンスは最後の最後まで、素晴らしいファイターであることを証明したね。本当に偉大なるチャンピオンだ。世界チャンピオンが攻撃的な走りを見せたおかげで、ジロのレベルは大いに上がったと思うよ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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