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サイクル ロードレース コラム 2010年7月5日

【ツール・ド・フランス2010】第1ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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前日の落車で2選手が早くも大会を離れたが……今ツール初めて195人全員でいっせいにスタートを切ったこの日、全員一緒の大集団スプリント勝利でゴールを迎えることはできなかった。しかもプロトンがバラバラにフィニッシュラインを越えたのは、期待されていた風による分断のせいではない。ゴール直前に起こった——グランツールの大会序盤は集団内が極めてナーバスなせいでしばしば起こるのだが——、集団落車のせいだった。

ステージは3人の逃げから始まった。グランデパールの地ロッテルダムに別れを告げるように仮スタート地点から10kmの間ゆったりと走ってきたプロトンだが、本スタート地を過ぎると同時に、ツール初出場ラルス・ボーム(ラボバンク)が急激な加速。そこに同じくツール初出場のマールテン・ウイナンツ(クイックステップ)と2年ぶり2度目の出場アラン・ペレスがしがみつくと、あっさりと大会初のエスケープは許された。前方3人はわずか20kmであっという間に7分以上のタイム差をつけたほど、後方プロトンはあくまでも控えめなペースで走り続けた。

2ヶ月前のジロでは海岸ルート+締切大堤防でめくるめく大分断劇が巻き起こったが、7月のツールでは何も起こらなかった。マイヨ・ジョーヌ姿でチームメイトと共にプロトンコントロールに励んだファビアン・カンチェッラーラ(チーム サクソバンク)によると、何かを仕掛けられるほど風が強くなかったこと、そして全チームが分断を警戒して極めてナーバスになっていたこと、この2つが理由のようだ。つまりこの一帯で起こった出来事で特筆すべきは、飼い犬の手を離れて飛び出した犬のせいで、マイヨ・ヴェールを着用していたデイヴィッド・ミラー(ガーミン・トランジションズ)とジロ総合王者のイヴァン・バッソ(リクイガス・ドイモ)が落車してしまったことくらいだろう。

むしろ事件は、集団スプリントへ向けて極度にスピードアップしたプロトン内で発生した。逃げ集団がプロトンへの吸収を意識し始めた残り28km地点で、まずはメイン集団からアレクサンドル・プリュシュキン(チーム・カチューシャ)が単独アタック。前方の3人の中からウイナンツを引き連れて、グングン後方との差を広げていく。もちろん、メイン集団も負けじとトレインによる牽引体制を強化。タイラー・ファラー擁するガーミン・トランジションズ、トル・フースホフトのサーベロテストチーム、そしてマーク・カヴェンディッシュを支えるチームHTC・コロンビアがプロトン先頭で強烈に加速を繰り返す。スピードはどんどん上がり、残り9kmを切ったところで目論見どおり集団はひとつとなった。……その後すぐに千切れ千切れとなる運命が待っていたのだが。

ラスト2km、最終ロングストレート突入前のラストカーブ。プロトン前方に詰めていたスプリントグループ内で、カヴェンディッシュとオスカル・フレイレ(ラボバンク)の2人が巻き込まれる重大な集団落車が発生した。この機に乗じてガーミン・トランジションズがすかさずスピードアップするも……ラスト1kmのフラム・ルージュで新たな集団落車が起こり、ガーミンのスプリントリーダー、ファラーが巻き込まれてしまう。この落車ではカンチェッラーラもアスファルトへ転落。落車時に骨折したアダム・ハンセン(チームHTC・コロンビア)は、ステージ後に大会棄権を発表した。また新城幸也(Bbox ブイグ テレコム)も足止めを喰らった。不幸中の幸いだったのは「タイム救済ルール(通常ステージのラスト3kmでメカトラブル、落車などの外的アクシデントで遅れた場合は、3km通過時点で所属していた集団と同じゴールタイムが与えられる)」のおかげで、プロトンの195人中190人が、ステージ優勝した選手とまったく同じタイムが与えられたこと。つまりカンチェッラーラは、問題なくマイヨ・ジョーヌを守ることができた。たとえば比較的早めにゴールできたカデル・エヴァンス(BMCレーシングチーム)と、すいぶんと時間がたってからゴールしたシュレク兄弟(チーム サクソバンク)の、レース上におけるタイム差は「0」と記録された。ちなみにタイム救済は総合争いの選手にとっては非常にありがたいルールだが、ゴール順位こそが絶対的価値を持つスプリンターたちにとっては、なんの慰めにもならない。

粉々に砕け散ったプロトンから、ゴール勝負に打って出ることができたのはわずかに5人だった。その5人の中には、6年ぶりにツールに戻ってきたアレッサンドロ・ペタッキ(ランプレ・ファルネーゼヴィーニ)の姿があった。かつてツール5勝・ジロ21勝・ブエルタ19勝という大量勝利で一時代を築いた近年屈指のスプリンターの、伸びのあるロングスプリントは36歳の今年も健在。ツールの地でアレ・ジェットが6年ぶりにうなりを上げ、区間勝利と共に7年ぶりのマイヨ・ヴェールに袖を通す権利さえももぎ取った。

ところで自転車大国ベルギーの首都ブリュッセルで執り行われた表彰式のヒーローは区間勝者でもマイヨ・ジョーヌでもなく、列席したベルギー国王アルベール2世でもなく、ベルギーが生んだ史上最大の自転車チャンピオン、エディ・メルクスだった!ツール総合優勝5回・ジロ総合5回・ブエルタ総合1回・世界選手権優勝3回・ミラノ〜サンレモ優勝7回、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ優勝5回……とこのスペースでは書き表せないほどの数々の栄光を手に入れてきた大チャンピオンに対して、ファンから「エ・ディ!エ・ディ!」との掛け声が何度も上がった。ちなみに関係者出入り口で御大エディを出待ちしたり、厳重な警備の目をくぐってメディアゾーンに入り込もうとする熱狂的な一群さえ!

そして2010年第1ステージの各賞ジャージの表彰が終わった後、今年で65歳の誕生日を迎えたエディ・メルクスにも記念ジャージが贈呈された。全てを勝ち取ってきた王にふさわしく、マイヨ・ジョーヌ、マイヨ・ヴェール、マイヨ・ア・ポワ・ルージュ、そしてマイヨ・ブランの4色がミックスされたジャージ。そしてその4色をいっぺんに手に入れてしまった1969年ツールを記念して、同年つけていた栄光のゼッケンナンバーもジャージ上に燦然と輝いていた。この「51」という数字は約40年たった今でも、ツールにおいては「勝者の数字」と呼ばれ続けている。


●アレッサンドロ・ペタッキ(ランプレ・ファルネーゼヴィーニ)
区間優勝

今朝はすごくナーバスな気分だった。なにしろ2004年以来のツールだったからね。まるでクラシックレースのスタート前みたいに緊張したよ。でも時間が過ぎていくうちに、徐々に気分がよくなってきた。ついには緊張感を打ち破ることができて、素晴らしいスプリントを切ることができた。ただし非常に難しいスプリントだった。向かい風が吹いていたし、軽い上り坂だったからね。その事実にはスプリントを切ってから気がついた。

思いもよらない勝利、ではない。だってスプリントをして勝つためにツールに乗り込んだんだよ。だから予想外の勝利ではなく、待ち望んでいた勝利だね。もちろん落車がおきていなかったら、ボクが勝てていたかどうかはわからないけど。カヴェンディッシュとは、すぐにでも対決したい気分だよ。


●ファビアン・カンチェッラーラ(チーム サクソバンク)
マイヨ・ジョーヌ

2回目の集団落車に巻き込まれ、アスファルトに転げ落ちた。つい5分前にTV生中継インタビューを受けて、体に問題はないかと尋ねられた。そのときは「うん、大丈夫。何も問題ないよ」って答えたんだ。でも今、体のあちこちに痛みを感じ始めている。左半身全体が痛いよ。アスファルトに転落した影響だね。

今日も何百万人というファンが沿道に詰め掛けたね。。本当に素晴らしい1日だった。その一方で、辛い1日でもあった。風、難しいコース、長いステージ距離、そしてたくさんの観客……。心が休まる暇がまったくなかったから、最終盤には「長いなぁ……」と思い始めていたんだ。こんな日は誰にでも集中力が切れる瞬間があるんだよ。だから落車が起きてしまう。これまでボクは1000近いレースを走ってきて、たくさんの落車を経験したけれど、たいてい原因は集中力の欠如のせいなのさ。

今日は分断を起こせるほどの風が吹いていなかった。しかも全てのチーム、全ての選手が分断を警戒して、プロトン内がひどくナーバスになっていた。もしかしたら強い風が吹いて、あっさり分断が起こってしまったほうが、ナーバスにならずにすんだかもしれないのにね。でもこんな日も悪くない。まだツールは20ステージ近く残っているし、今日よりもさらに厳しい日がたくさん待ち構えているんだから。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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