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サイクル ロードレース コラム 2010年7月12日

【ツール・ド・フランス2010】第8ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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「私は選手たちにこう言い聞かせてきた。『ツール・ド・フランスでは、最初の難関ステージが最も大切だ』と。なぜなら、強さも弱さも、全てが露見してしまう地であるからだ」。アスタナのジェネラルマネージャー、イヴォン・サンケ氏は、勝負の日を前にこう語ってくれた。そして2010年ツールにおける最初の難関山岳ステージでは、伝説が完全に終焉し、若者が大きく変身を遂げた。ドーフィネ以来自転車界に陰を落としている王者の不調疑惑も、もしかしたら、さらに強まったかもしれない。

昨ツールにおける初の難関山岳ステージは、ブリース・フェイユー(現ヴァカンソレイユ)が大逃げ勝利を決めていた。ならば今年だって、総合本命たちの戦いが本格化する前に仕掛けさえすれば、美しき頂上フィニッシュをさらいとることが出来るかもしれない……。そう自分自身に言い聞かせ、心を奮い立たせた選手たちが、スタート直後から激しい攻撃を始めた。レース序盤は時速50km超のハイスピードなアタック合戦が巻き起こり、飛び出しと吸収の繰り返しの中で、集団分断さえも引き起こした。しかし30km地点で7選手が飛び出しを決めると、プロトンはほんの少しだけ速度を緩めた。

マリオ・アールツ(オメガファルマ・ロット)の主導で始まった逃げに、ブノワ・ヴォグルナール(フランセーズ・デ・ジュー)、クリストフ・リブロン(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)、イマノル・エルビーティ(ケースデパーニュ)、セバスティアン・ミナール、アマエル・モワナール(共にコフィディス・ル クレディ アン リーニュ)、コース・ムレンハウト(ラボバンク)の6選手が加わった。マイヨ・ジョーヌ姿のシルヴァン・シャヴァネル擁するクイックステップが先導する後続集団から、ゆっくりと距離を開いて行き、110km地点で最高7分差をつける。ところがステージ後半の3連続峠——1級ラマズ、3級レ・ジェ、1級モルジヌ・アヴォリアズ——が近づくと、総合優勝を狙う選手とチームたちが激しい加速を開始。タイム差は急速に縮まっていった。

今大会初の1級峠、ラマズ山頂へと向けて先頭集団からムレンハウト、アールツ、モワナールが飛び出した。その彼らから3分半ほど遅れて登坂口にたどりいついた後続プロトンでは、アルベルト・コンタドール擁するアスタナがハイテンポを強い始めていた。上り途中で耐え切れずにシャヴァネルが遅れ、さらには、ランス・アームストロング(チーム レディオシャック)が大きく遅れ始めた。

ライバルたちから置き去りにされる10kmほど前、平地の曲がり角でアームストロングは地面に強く叩きつけられていた。背中に傷を負った上に、プロトン追走で体力も消耗した。「落車を目の前で見たんだけど、あれはかなり激しかったよ。今のアームストロングなら前線で戦えると思っていたのに残念だね」とアンディ・シュレク(チーム サクソバンク)も証言する。1級ラマズ峠でメイン集団から滑り落ちたアームストロングを、さらなるアクシデントが襲う。3級峠の山頂通過直前に、前を行く選手が落車。思わぬ脚止めを喰らってしまったのだ。「運気が下がったみたいだ」と言い放ったのは石畳でメカトラブルにあった第3ステージの後だったが、この日のアームストロングは「ボクのツールは終わった」との宣言を出した。現在の総合順位は13分26秒差の21位。「もちろん、この先も走り続けるつもりだ。最後のツールを思い切り満喫して、楽しんで、それからチームを力の限りサポートしていきたい」。チーム レディオシャック内では、リーヴァイ・ライプハイマーが2分14秒差の総合8位と好位置につけている。

ツール前にはチーム力が心配されたアスタナだったが、山岳アシストたちは素晴らしい献身と上りの脚を見せつけた。また昨年のアームストロングとの確執の第2弾として、コンタドールとの関係が様々に憶測されたアレクサンドル・ヴィノクロフは、自ら先頭に立ってボトルを運び、下りと平地で献身的な牽引を行った。こうしてアスタナの山岳列車は、メイン集団を少しずつ小さく削っていき、すでにアールツとモワナールの2人きりになっていた逃げの残党を残り5kmで完全に吸収した。

ただしこの日のアスタナトレインは、集団を完全にそぎ落とすことは不可能だった。アームストロングと、残り3.5kmで落ちたブラッドリー・ウィギンス(スカイ・プロフェッショナルサイクリングチーム)以外は、あらゆる表彰台候補がコンタドールの後ろに張り付いていたのだ。「最大のライバル」アンディ・シュレクは孤立させることに成功したが、リクイガス・ドイモの2人(イヴァン・バッソ&ロマン・クロイツィゲルやラボバンクコンビ(デニス・メンショフ&ロベルト・ヘーシンク)の分断は出来なかった。しかも残り2kmから立て続けにアタック合戦を巻き起こせるほど、ライバルたちには体力も残っていた。……逆に数々のアタックを自ら潰しにかかりながら、最後の最も重要なアタックに反応する体力を残していなかったのは、コンタドールのほうだったのだ。そしてフラムルージュ通過直後、アンディ・シュレクが切れ味の良い飛び出しを見せる。ディフェンディングチャンピオンは一瞬ついて行こうと努力するものの、追いすがることさえできなかった。

いや、この日のアンディ・シュレクはとにかく「スーパー絶好調!」(By本人)だったのだ。五輪金メダリストのサムエル・サンチェス(エウスカルテル・エウスカディ)との1対1のスプリントも、恐ろしいほど冷静に対処した。2年前の五輪では小集団スプリントで5位に沈んだシュレクだったが、この日はフィニッシュラインギリギリでの追い込みで、見事なリベンジ勝利を手に入れてみせた。2007年ジロ総合2位&新人賞、2009年ツール総合2位&新人賞というハイレベルな成績をすでに残してきたアンディにとって、これが嬉しい初めてのグランツール区間勝利。ちなみに昨年は兄フランクに区間勝利を「プレゼント」しているが、その兄は第3ステージでの落車・骨折で大会を離れた。それ以前のアンディは、精神的に兄に支えられつつも、一方のレース戦術面では兄のサポートに周らざるを得ないことも多かった。また「兄が背後で常に指示を出していた」とチームメイトのイェンス・フォイクトが語ったように、兄はアンディにとっての参謀でもあったようだ。そしてこの兄の不在が果たしてプラスに働くのか、それともマイナスに働くのか大きく注目されていたが……。とにかく今第8ステージに関しては、少なくともマイナス面はなかったようだ。

またコンタドールと共にシュレクから10秒遅れでゴールしたカデル・エヴァンス(BMCレーシングチーム)が、11分40秒を失ったシャヴァネルからマイヨ・ジョーヌを引き継いだ。スタート前にはジョン・ルラング監督が「ついていく相手を間違ってはならない。むやみやたらにアタックしてはならない。マイヨ・ジョーヌを着るのはパリでいい」と語っていたが、確かにこの日の世界チャンピオンは特に無理な走りをすることもなく、至極自然に総合首位へと浮かび上がった。2008年ツールで過ごした5日間に続き、人生6日目のマイヨ・ジョーヌ。2年前は毎日嬉し涙をためつつプティ・リオン(勝者に渡されるライオンのぬいぐるみ)に熱烈なキスをしていたものだが、今回もあふれんばかりの感動を隠そうともしなかった。総合2位は20秒差で区間勝利のシュレク、3位に1分01秒差でコンタドールが続く。

翌日は大会初めての休養日。選手たちは標高1000m程度のモルズィーヌで、ほんのわずかなほっとしたひと時を過ごす。ここ数日ひどい暑さに襲われているフランスだが、幸いにも高原の朝夕は比較的涼しくなりそうだ。


●アンディ・シュレク(チーム サクソバンク)
区間優勝

今日は決定的なステージになると感じていた。誰が強いのか、誰の調子が悪くないのか、それがはっきりと分かる日だ。だから朝から緊張していた。でも緊張を表に見せないように努力したよ。実は昨日はすごく調子が悪かったんだけど、今日はメンタルもフィジカルも100%の状態だったんだ。チームもボクもモチベーションは非常に高かった。最後の上りでは特に脚が上手く回ったね。北京五輪ではサンチェスにスプリント勝負を取られていたから、そのときの教訓を生かしてスプリントしたんだ。ボクはまだ若いけれど、経験が役に立っているよ。ファンタスティックな結果が出せて本当に幸せだ。

チームは今ツール全体を通した戦術に従って走っている。だからボクもその戦術通りの走りをする必要があった。もっと早くアタックをかけても良かったけれど、ボクはステージ途中で作戦を変更したくなかった。行き当たりばったりなことはしたくなかったんだ。マイヨ・ジョーヌはパリで着ていられたらそれでいい。ステップはひとつずつ上がって行きたい。あまり早急に物事を進めたくない。だから、まずは手始めにステージを勝つことができて満足なんだ。

●カデル・エヴァンス(BMCレーシングチーム)
マイヨ・ジョーヌ

チームがすごくいい準備をしてくれたし、ボクを信じ続けてくれた。大会最初からチームメイト全員がいい仕事を続けてきてくれたそのおかげで、このマイヨ・ジョーヌがあるんだ。今日は何事もなく普段通りに走ることが出来れば、マイヨ・ジョーヌが取れるだろうと思っていた。だってシャヴァネルは山岳ステージを得意とする選手ではないから、スタート前からこうなることは予想していたんだ。ただ最後の上りでは風も強かったし、ボクがロングアタックを仕掛けるには都合が良い地形ではなかった。上りスピードも速かったしね。

スタートから6km地点で転んだときは、一瞬何が起こったのか分からなかった。それから2008年の落車のことを考えた。あのときも山岳ステージで落車して左肩を痛め、戦いに大きな影響を及ぼした。今日の落車では、直後には左手首と左肩がすごく痛んだ。でも徐々に良くなっていった。最後の山では特に問題なく感じた。ただ体はすごく疲れを感じたけどね。だから休日に怪我の治療と体力回復をしっかり行いたい。

休養日をマイヨ・ジョーヌで過ごせるなんて、本当に嬉しい。それにこの1日を利用して、この先の戦術をじっくりとたてることができる。今年はピレネーが難しい。アスタナもアンディも本当に強い。だから今後のステージに向けて、しっかり戦術を組み立てていかなければならない。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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