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サイクル ロードレース コラム 2010年7月21日

【ツール・ド・フランス2010】第16ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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倫理論争で大いに揺れたツール一行は、ひとまず落ち着きを取り戻したようだ。マイヨ・ジョーヌのメカトラブルを利用してアタックを仕掛けたと非難されたアルベルト・コンタドール(アスタナ)は、謝罪ビデオを公開した。「ボクならあんなことはしない。もう彼との友情も終わりだ」と怒りに任せてコメントしたアンディ・シュレク(チーム サクソバンク)も少々トーンダウン。なにしろ前夜メカニックと監督陣が入念なバイクチェックを行った後に「バイクの問題ではない」と判断したそうだから……。そして両者の8秒差をめぐる総合争いも、この日は一旦お休みとなった。

もちろん本当のお休みは今ステージ後に控えている。だからこそ多くの選手たちには、翌日のことなど気にせずあらんかぎりの全力を尽くす準備が出来ていた。ゼロkm地点から熾烈なアタック合戦が始まり、11km地点に待ち構えるペイルスルド山頂へ向かって多くの選手が飛び出しを試みた。

その中でもひときわ大きな存在感を放ったのは……ランス・アームストロング(チーム レディオシャック)!1999年から2005年にかけて前人未到のツール・ド・フランス7連覇を果たした大チャンピオンが、なんと、ステージ序盤からのエスケープに乗った。第3ステージの石畳の上で早くも優勝争いから脱落し、第8ステージ終盤の落車で表彰台の夢も断たれていた。すでに総合タイムでは40分31秒も離されており、山で遅れる姿もすっかりおなじみとなってしまっていた。ただし「今日はスタート前からアタックしようと決めていたんだ」と、勝利への強い意欲は決して失ってはいなかった。

“ボス”と並んで、数々の実力者たちが序盤の逃げにトライした。昨ツール総合4位のブラッドリー・ウィギンス(スカイ・プロフェッショナルサイクリングチーム)を筆頭に、第15ステージ終了時点での総合トップ25人中なんと9選手が1度は前へ飛び出している。もちろんこれほど大量の有力者たちを、マイヨ・ジョーヌのコンタドールが自由に泳がせておくはずもない。アスタナが厳しく背後からプレッシャーをかけ、警戒の目を光らせる。スタート直後から逃げ出した集団は、難関峠を2つ上って下りた後でも30秒ほどのタイム差しか保持できなかった。結局のところ実力者たちは逃げ集団の足を引っ張るだけだったようだ。3つ目の峠トゥールマレーでようやく彼らは前線から姿を消し、アームストロングを含む10選手だけが前に残った。山岳ポイント収集のために前で踏ん張っていたアントニー・シャルトー(Bbox ブイグ テレコム)もまた、トゥールマレーで遅れ始めている。

このトゥールマレー峠こそが、ピレネー通過100周年記念の最大の目玉峠である。なにしろ2010年ツールはこの「最悪の回り道」に2回も立ち寄る。1回目がこの第16ステージ、ラ・モンジ側から突入するコース、そして2回目は休養日明けの第17ステージ。ツール史上2度目のトゥールマレー山頂フィニッシュ!ちなみにツール屈指の名峰には1回目ジャック・ゴデ賞、2回目アンリ・デグランジュ賞という特別な賞金もかけられているし(5000ユーロ=約56万円)、もちろん山岳ポイントもたっぷりつく。先頭通過者が永遠に名誉を讃えられるのは言うまでもない。黄金時代でさえ1度もトゥールマレーを先頭通過したことのないアームストロングが、山頂へ向けてアタックを仕掛けたのは当然の成り行きだった。しかし先頭集団のクリストフ・モロー (ケースデパーニュ)が山頂へスプリントをかけ、あっさり全てをさらい取ってしまうのだが。

続くオービスク峠でも先頭通過を果たし、山岳ジャージまでわずか15ポイント差に接近したモローは、アームストロングと同じ1971年生まれ。モローのほうが5ヶ月早く生まれており、すでに39歳。ツール出場に関して言えばモローは15回連続、アームストロングは13回目。そのうち10回は一緒にツールを走っている。そしてご存知の通りアームストロングは5日後のパリで自転車を降りると宣言しているし、モローも今年限りでプロ生活にピリオドを打つ。つまり人生最後のツール・ド・フランスを戦う大ベテラン2人が、同じ日に、同じエスケープに乗っていた。「2人ともこうして年を取って、一緒に逃げに乗れたなんて最高だね。上りでは『クリストフ、オレはもう無理だよ』『ランス、オレもめいっぱいさ』なんて2人で笑いあった」とモローはゴール後に楽しそうに語ったが、実は両者はチーム総合首位争いを繰り広げるライバル同士でもある。先頭集団にはレディオシャックからアームストロングとクリス・ホーナーが、ケースデパーニュからはモローとルベン プラサ・モリナが滑り込んでいた。そしてこの日はケースデパーニュがチーム区間首位を勝ち取り、総合では4分27秒差でレディオシャックが首位を守っている。

峠を抜け、下り坂も徐々に緩やかになってきたゴール前45km地点で、先頭集団からからカルロス・バレド(クイックステップ)が飛び出した。そこから延々44kmに渡って区間勝利への逃亡を行うのだが、最終1kmを示すフラムルージュの直前で、無念にもアームストロング軍団に捕らえられてしまった。そして8人による小集団スプリント。往年にはツール区間22勝(+チームTT4勝)を上げ、2004年大会ではライバルたちとのゴール対決を力任せにいくつも勝ち取り「ノーギフト」と言い放った男も、最後のツール区間勝利を手に入れるために加速を切った。……しかし38歳の脚にはかつての爆発力は残っていなかったようだ。長年二人三脚で走ってきたチームマネージャーのヨハン・ブリュイネルも「あと2、3km早く吸収できていたら、何かしら戦術的に攻められただろうに」と悔しがる。結果は6位。今大会ではプロローグの4位に次ぐ好成績だった。

そしてピエリック・フェドリゴ(Bbox ブイグ テレコム)こそが、(おそらく)アームストロングを史上最後にスプリントで破った選手となった。過去2回はいずれも1対1のにらみ合いを制しての勝利(2006年対サルヴァトーレ・コメッソ、2009年対フランコ・ペッリツォッティ)。そしてなにより……フランス自転車界にとっては3日連続にして今大会通算6勝目の、そしてBbox ブイグ テレコムにとっては前日のトマ・ヴォクレールに続く2日連続の栄光となった!「まだまだツール総合を狙えるような選手はいないけど、つまりワンデーレースなら勝てる選手が育ってきたということだね」と、2000年にツール総合4位に入ったモローは後輩たちの活躍に目を細めている。

6分45秒遅れでフィニッシュラインにたどり着いたプロトン内では、トル・フースホフト(サーベロテストチーム)がスプリントを制した。ゴールポイントを6p手に入れ、アレッサンドロ・ペタッキ(ランプレ・ファルネーゼヴィーニ)を4p逆転。今大会中すでに2度手放したマイヨ・ヴェールを取り戻した。またコンタドールとシュレクも同集団で静かに1日を終えている。


●ピエリック・フェドリゴ(Bbox ブイグ テレコム)
区間勝利

昨夜は少し気持ちが切れてしまったんだ。でもマッサージで気持ちをほぐして、新たに今日に向かうことができた。昨日のことがあったから、今日の勝ちがあったんだと思う。実はいいエスケープに乗ることができずに、いらいらしていたんだ。ツールというのは長い大会だけれど、あっというまに時は過ぎてしまう。これはスプリント向き、これはオールラウンダー向き、なんて思っているうちに迷いが出始めてしまった。自分には何も出来ないのではないか、と気持ちがくじけてしまったんだ。だから今日は絶対にエスケープに乗りたかった。区間勝利には関係なく、とにかくエスケープを成功させたかったんだ。逃げに乗れば、自然に勝利もついてくるものだから。もちろん、逃げの最大の目標は山岳ポイントのためだった。チームメイトのシャルトーのために、山岳ポイントを潰しにいったんだ。でもオービスク峠を終えてからも、ゴールまで60kmと長かった。だから徐々に区間勝利のことを考え始めたんだよ。


●アルベルト・コンタドール(アスタナ)
マイヨ・ジョーヌ

昨日の夜、謝罪ビデオを撮影した。あれは強制されたものではなく、ボクが望んだことなんだ。だってこのままの状況では嫌だったから。アンディとはこれまですごく仲良しだったのに、昨日の出来事のせいで仲違いするなんて耐えられなかった。だから今日はアンディと話をしなきゃならないと思っていたし、おかげで昨日のことはきっちりと解決がついたよ。

今日のステージは、スタート時から何が起こるのかはっきりと分かっていた。だから大切なことは、チーム全員でまとまって走ることだった。最後の山までチーム全体でエスケープとのタイム差をコントロールすれば、その後は他の総合を狙うチームが仕事を手伝ってくれるだろうと分かっていたんだ。そして予想通りに事が進んだ。

アンディはすごく強い選手だから、TTでボクを苦しめることができるかもしれない。でもまずは休養日明けのステージを危険視している。すごくハードだから、TTよりもこのステージのほうがタイム差がつくだろう。TTは普通に考えればボクのほうにアドバンテージがある。でも彼もTTで国内チャンピオンになったのだから、いい走りができるかもしれない。TTでどれくらい差がつけられるか分からない。去年とは全く違うコースだ。今年のコースはオールフラットだし、アスファルトの状況も非常に良い。むしろ風向きが大きな影響を及ぼすだろう。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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