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サイクル ロードレース コラム 2010年9月9日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2010】第11ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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紺碧にきらめく地中海岸のスタート地に、アレクサンドル・ヴィノクロフ(アスタナ)が姿を現した。まさに真のチームオーナーにふさわしく、来季の新契約選手たちと笑顔で挨拶を交わす。一方同じ頃、チーム・サクソバンクのチームマネージャーであるビヤルヌ・リースは、アンディ・シュレクとスチュアート・オグレディに対する処分に関して多くのメディアから説明を求められていた。厳しすぎる処分は、シュレク兄弟のチーム離脱のせいなのか……と。そして地元スペインTV中継には、来季アスタナからチーム・サクソバンクへと籍を移すアルベルト・コンタドール(アスタナ)がゲスト解説者として登場。2011シーズンへ向けたチームや選手の動きは、例年以上に自転車界を揺さぶっている。

すでにBMCレーシングチームへの移籍を発表しているヨハン・チョップ(Bbox ブイグ テレコム)とアージェードゥゼール・ラ・モンディアル移籍が決まったミカエル・シェレル(フランセーズ・デ・ジュー)が、アンドラへ向かってエスケープを行った。ただし2人の飛び出しが決まるまでには延々50kmを擁した。45.2km地点の第1中間スプリントポイントを終えるまでは、どんなアタックの試みも必ずプロトンに潰されたのだ。その第1ポイントをフィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット)が先頭通過し、4p加算で「暫定」ポイント賞首位の座をまんまと手に入れると(結局はあくまでも暫定に過ぎなかった)、ようやくエスケープの時間がやってきた。

ヒルクライムを得意とする2人はゴールまでちょうど100kmを残した地点で、プロトンから15分という大量リードを奪う。ただし道は長かった。しかも後ろではラボバンクが全員隊列を組み、本格的な追走に乗り出した。第8ステージの落車でチームリーダーのデニス・メンショフは調子とタイムを大幅に落としていたが、「昨日はずいぶん調子が良くなった。だから反撃開始だ。まずは区間勝利、その後は状況次第で総合上位を狙って行く」と監督がチームに発破をかけたとのこと。9人全員のラボバンクトレインが、アンドラへと向かう長い上りでぐんぐん2人とのタイム差を縮めていく。ゴール前10kmの登坂口では、2人を25秒差にまで追い詰めた。さらに8kmを残して全てのエスケープを回収。ところが肝心のメンショフには、山頂へ向けてアタックをかける力は残っていなかった。それどころかラスト5kmで、ライバルたちが勢ぞろいするメイン集団から滑り落ちてしまった。最終的にはこの日の区間勝者から5分06秒を失い、総合に関するあらゆる望みが完全に打ち砕かれた。

ラボバンクの加速、そして逃げ集団の吸収は、すなわちメイン集団から区間勝者が生まれることを意味する。つまりボーナスタイムが発生する。わずか4秒差で総合1位から3位にひしめくホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)、イゴール・アントン(エウスカルテル・エウスカディ)、ヴィンチェンツォ・ニバリ(リクイガス・ドイモ)にとって、ボーナスタイムの有無がジャージや総合順位を大きく左右する。自然とライバルへの厳しい監視は続いた。

この緊迫した空気を破って、ラスト4.5km地点で攻撃を仕掛けたのがエセキエル・モスケーラ(シャコベオ・ガリシア)。4年越しの表彰台への望みを叶えるためにセビーリャへ乗り込んだ34歳だが、開幕以来の酷暑に疲れ果て、思い通りの戦いが出来ずにいた。しかしこの日、標高2000mにもう少しで手が届くアンドラの山道は、幸いにも冷たい空気に包まれていた。雨が多く気温の低いガリシアで生まれ育ったモスケーラにとっては、絶好の天候コンディション!しかも爆発的な加速力はないがハイスピードを長く保てる「ディーゼルエンジン」と自らを形容する彼が、この日は極めて切れ味鋭いアタックを決めた。素早く反応し、ついていくことができたのはマイヨ・ロホ姿のロドリゲスとニバリだけ。アントンは、数秒差のライバル2人から出遅れてしまった。

ところがモスケーラが厳しいテンポを強い続けると、すでに1週間以上も赤ジャージ獲りに奮闘し続けてきたロドリゲスが、たまらず遅れ始めてしまう。ニバリさえも振るい落とされた。一方の「今日は調子があまりよくなかった」と語ったアントンは、いや、調子がよくなかったからこそ、無理せずに自分本来のリズムを崩さずに上り続けた。そしてこれが吉と出たようだ。アントンはロドリゲスとニバリを順に追い越し、ラスト1kmでついに先頭に立つと、第4ステージに次ぐ今大会2つ目の区間優勝を手に入れた。しかもライバルたちを十分に引き離しての単独ゴールで——、モスケーラを3秒、ニバリを23秒、ロドリゲスを59秒突き放した——、前日失った赤ジャージをたった1日で取り戻してしまった。同時にゴールポイント25pを手に入れて、緑ジャージもおまけでついてきた。

しかもアントンは20秒のボーナスタイムを手に入れたおかげで……、総合2位ニバリとの差は45秒。ちなみに大会11日間でアントンが手に入れたボーナスタイムは48秒、一方でニバリ12秒。つまりボーナスタイムがなかった場合、アントンとニバリの実際のタイム差はわずか「9秒」しかないのだ。ロドリゲスは一気に総合4位へと陥落。「予想だにしなかった不調だね。でもロドリゲスは、再び仕掛けてくるだろう」とアントンは警戒を緩めるつもりは全くない。また10秒遅れで区間3位に入ったシャビエル・トンド(サーヴェロ・テストチーム)が1分04秒差の総合3位、モスケーラは1分57秒差の総合5位へと順位を上げた。


●イゴール・アントン(エウスカルテル・エウスカディ)
区間勝利、総合リーダー

難しい1日だった。ステージ序盤は自分ではそれほど調子がよくない日だと思っていたんだ。ラボバンクが強いリズムを刻んできたし、かなり苦しんだ。でも徐々に調子が上がってきたんだ。モスケーラがアタックをかけて3人が飛び出した後は、彼らに追いつこうと努力した。最初はかなり苦しんだが、次第に自分のリズムを取り戻して、最終的には3人全員を追い越すことが出来た。しかも区間勝利だけでなくリーダージャージも手に入った。素晴らしい1日となったね。できればブエルタの終わりまでこんな風に素晴らしい1日が続くと良いね。

ボクは総合優勝を争っている。もう野心を隠したりしない。確かにボクは一歩優勝に近づいた。でも自分が本当にブエルタを勝てるかどうかは、まだ分からない。自転車競技というのは非常に複雑なものなんだ。これまでの経験で学んできた。チームにとってはこの先すべき仕事が山積みだ。これから非常に厳しい戦いが待ち受けている。それでもしもブエルタを勝つことが出来たら、本当に嬉しいね。でもボクはすでに自分のこれまでの走りに満足しているんだ。すでに区間で2勝も上げた。昨日マイヨ・ロホを失った時だって、満足だったんだから。だから最後がどんな結果になろうとも、きっと満足だろう。

今年の年頭に、ブエルタだけに集中することを決めた。昨年はグランツールを2つ走ったけれど、2つ目の大会の後半は体力が厳しくなってしまったんだ。だからチーム監督と相談して、ブエルタだけを走るというリスクを冒したんだ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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