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サイクル ロードレース コラム 2010年9月13日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2010】第15ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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霧の……、という枕詞がコバドンガにはなんともよく似合う。山頂にある2つの湖から立ち込める水蒸気が、美しき山の姿を覆い隠してしまうのだ。冷たい雨に襲われた今ステージも、標高が上がれば上がるほど、霧は深くなっていった。こんな視界の限られた細く険しい山道で、見事な逃げ切り単独勝利を手に入れたのは、幼い頃からコバドンガの隅々を知り尽くしているカルロス・バレード(クイックステップ)だった。

エスケープに滑り込めたこと自体が、この日はすでに小さな快挙だったのかもしれない。前日は落車による負傷でイゴール・アントン(エウスカルテル・エウスカディ)がリーダージャージのまま大会を後にし、今ステージの朝には過去3度世界チャンピオンに輝いているオスカル・フレイレ(ラボバンク)が4度目の王座獲得のために帰宅していた。2週間前の開幕時に比べてプロトンはひとまわり小さくなり、残された166人の選手たちはスタート直後からこぞって激しいアタック合戦を繰り広げた。十数人単位で飛び出しの企てが立て続けに巻き起こり、そのたびにリクイガス・ドイモが回収に向かった。アントンから赤ジャージを引き継いだヴィンチェンツォ・ニバリ(リクイガス・ドイモ)が自ら逃げを潰しに走ったことさえあった。おかげで序盤30分の走行時速はなんと53kmまで上がった!高速チェイスは延々1時間半に渡って続けられ、70km地点まで来てようやく、リクイガスは6選手に先へ行く許可を与えた。

バレードと道を共にしたのは、オリヴィエ・カイセン、グレッグ・ヴァンアーベルマート(共にオメガファルマ・ロット)、ピエール・カゾー(フランセーズ・デ・ジュー)、ニコ・セイメンス(コフィディス ル クレディ アン リーニュ)、そしてマールティン・ヴェリトス(チームHTC・コロンビア)。最終峠コバドンガ以外は1つの難所も存在しない今ステージで、6人は素早く9分半までリードを奪う。そして全長12.5kmのコバドンガへと乗り込んだときでさえ、7分ものタイム差を保っていた。

「上りに突入直後、少し不安になった。だってマールティン・ヴェリトスが飛び出していったから」とゴール後に語ったバレードは、しかし傾斜の厳しい箇所=登坂口2〜3kmの11%ゾーンを冷静に待ち、そして逆転アタックを仕掛けた。山肌のあちらこちらには、水色に黄色の十字架が描かれたアストゥリアス旗(コバドンガのある自治州)がはためていていた。お揃いのTシャツを着たカルロス・バレード応援団の姿もあった。全てはゴール地からわずか20kmほどの町で生まれ育った、まさに地元っ子のため。観客の声援を独り占めしながら最終10kmを先頭で走ったバレードは、自転車競技を本格的に始めるきっかけとなった思い出の山で、生まれて初めてのブエルタ区間勝利を手に入れた。

最終的にはバレード以下6人全員が、メイン集団の追走の手からギリギリで逃れている。しかし、本当にギリギリだった。なにしろニバリがロマン・クロイツィゲルとオリヴェール・ザウグ(共にリクイガス・ドイモ)を使って激しい加速を強いた。その上、ゴール前6.5km地点、つまりバレードがアタックした地点よりもさらに厳しいゾーン(勾配13%!)で、エセキエル・モスケーラ(シャコベオ・ガリシア)がアタックを仕掛けたのだ!

前ステージで生まれて初めてブエルタ3位=表彰台圏内に上がったモスケーラだが、前ステージ終了時点で総合4位シャビエル・トンド(サーヴェロ・テストチーム)とのタイム差はゼロだった(首位から50秒差)。つまり4年越しのマドリード表彰台の夢をかなえるためには、まずは直接的ライバルのトンドを振り落とさなければならない。山の麓ではチーム9人全員でトレインを組み、好ポジションを取るための準備をきっちりと行った。しかもアストゥリアスと並んで雨の多いガリシア出身のモスケーラは、悪天候が大好き。足取り軽く意気揚々と飛び出すと、エスケープ集団の残党をわずか3秒差にまで追い詰めてフィニッシュラインを越えた。肝心のライバルからは、この日だけで1分51秒も奪い取ることに成功。「明日の山頂フィニッシュではもっとタイムを奪いたい。タイムトライアルを考えると、まだまだタイム差は必要なんだ」とモスケーラ。

ちなみに総合3位モスケーラと総合4位とのタイム差は、1分51秒ではなく1分50秒である。トンドは大幅に調子を落としてしまい——しかもチームメイトのカルロス・サストレ(サーヴェロ・テストチーム)の加速でリズムが崩れたそうだ——、総合では5位に後退してしまった。代わりに4位に上がったのは、エスケープ集団に入っていたマールティンの双子の兄弟にして、総合首位ニバリと総合2位ホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)に山頂までついていくことができたペーター・ヴェリトス(チームHTC・コロンビア)。この3人はモスケーラから11秒遅れでフィニッシュラインにたどり着いた。ニバリとロドリゲスのタイム差は変わらず4秒のまま。ニバリからモスケーラまでの差は39秒に縮まり……モスケーラは総合3位どころか、もっと上を狙える位置につけている。


●カルロス・バレード(クイックステップ)
区間勝利

感動的だね。地元アストゥリアスで、しかも子供のころから良く知っている山での勝利だ。峠にはアストゥリアスの旗がたくさんはためいていた。実は小さい頃、父親にロードバイクを買ってくれるようねだったんだ。そのとき、もしもこの山を登ることができたら買ってもいい、と父親は賭けてきた。そしてボクは賭けに勝ったんだよ!そんな思い出の場所なのさ。ボクにとっては地元を通過する2ステージがすごく大切だったんだ。それにアルコイ(第9ステージ)でタイムを落としてからは、大逃げを成功させてタイムを取り戻そうと何度もトライしてきた。この地で成功して本当に嬉しいね。

上りが始まった直後は少し不安だった。だってマールティン・ヴェリトスが強力なアタックをかけたからね。でもこの峠のことを良く知っていたから、一番きついゾーンで加速をかけて、先頭に立つことができた。最終盤に軽い下りが何度かあったのもボクには有利に働いたね。ラスト1kmはようやく勝利をたっぷり味わうことができた。山頂にはサポーターのバスが来ていたんだ。でも集中して走っていたから、レース中はまったく彼らの存在を楽しむ暇はなかった。だから表彰式では思い切りファンたちと喜びを分かち合ったんだ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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