人気ランキング

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

メルマガ

お好きなジャンルのコラムや
ニュース、番組情報をお届け!

メルマガ一覧へ

コラム&ブログ一覧

サイクル ロードレース コラム 2011年7月10日

【ツール・ド・フランス2011】第8ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
  • Line

大チャンピオンたちの意見はどうやら割れていたようだ。ピレネーまで待つべきだ(リシャール・ヴィランク)、難関峠であっさり逆転したほうがよいが行きたいときに行くべし(ベルナール・イノー)、連日のアタックで細かくタイムを稼げ(テヴネ)、個人タイムトライアルで有利なのだからアンディに動かせろ(ステファン・ロッシュ)。こんな記事がこの日の朝の現地紙をにぎわせた。またチームマネージャーのビヤルヌ・リースは「まだ今日は動く日ではない」とポーカーフェイスで話し、ライバルチームの選手や監督たちは揃って「絶対に今日からアタックしてくるよ」と断言していた。肝心の本人、アルベルト・コンタドール(サクソバンク・サンガード)が思い描く作戦とはなんだったのか。

本格的な夏のバカンスシーズンに突入したというのに、この日もルート上には冷たい空気が垂れ込めた。季節はずれの冷たい風と氷雨が選手たちの手足を凍えさせた。6km地点で逃げ始めた9人の選手たちは、寒さを跳ね飛ばすように、細い山道をハイスピードで駆け抜け続けた。最大5分程度のタイム差をつけ、ゴール前約30km、つまり2級峠の麓ではいまだ2分10秒差を保っていた。

今大会初めての2級峠の上りで、前も、後ろも、大きく動いた。前方の9人はあっという間に散り散りになり、ルイアルベルト・ファリアダコスタ(モヴィスター チーム)、ティージェイ・ヴァンガードレン(HTC・ハイロード)、クリストフ・リブロン(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)、シリル・ゴチエ(チーム ユーロップカー)の4人に絞り込まれた。一方の後方集団からは数人の強豪がアタックを仕掛けてきた。中でも最大の危険因子は、アレクサンドル・ヴィノクロフ(アスタナ)。「引退の記念に、マイヨ・ジョーヌを1日でいいから着たい」と強く望むカザフの大将は、まずはチームメートに集団を牽引させ、さらにアシストのパオロ・ティーラロンゴを自分より先に前に行かせ、入念な準備を行った。そして山頂まで約2km地点で——この日は、2002年パリ〜ニース中に命を落とした親友アンドレイ・キヴィレフのファンクラブが応援に来ていた——、自らが矢のように飛び出して行った。

「目標はまずは区間勝利。そしてマイヨも取れるならば取りたかった。でも両方とも手に入らなかった」と37歳大ベテランは無念そうに語る。なにしろ前方の4人は、我こそが逃げ切り勝利をつかむ者である、と言わんばかりに激しい飛び出しバトルを繰り広げていた。自ずと加速を繰り返し、ヴィノクロフは思うようにタイム差を縮めることが出来ない。また後方からはBMCレーシングチームが指揮を取るメインプロトンが猛烈に追い上げてくる。あらかじめ「仕事をしない」と宣言していたガーミン・サーヴェロに代わって、1秒差で総合2位につけるリーダー、カデル・エヴァンスを擁する今チームに主導権が移行していた。ほぼ1日中、プロトンコントロールに務めた赤と黒のジャージは、総合でわずか32秒差(エヴァンスとは31秒差)につけるヴィノクロフを遠くへ逃そうとはしなかった。ファリアダコスタが独走体制に入ったラスト5.5km地点で、ヴィノクロフの遅れは約25秒。最終峠突入前の厳しい上りと高速追走のせいでずいぶん小さくなってしまったメイン集団からのリードは約30秒。……結局は追いつくこともできず、追いつかれてしまうのだった。

昨シーズンはレース外のことで何かとお騒がせだったファリアダコスタだったが——2010年ツールではカルロス・バレドと殴り合いのけんかをしたり——ドーピング陽性を宣言されるも、検出された薬物が禁止薬物リストから削除される予定であることに伴い、処分を取り消しされたり——、この日は冷静に長い逃げを勝利へと結びつけた。24歳のオールラウンダーにとっては、初めてのグランツール区間勝利。また共に逃げた「未来の星」22歳ヴァンガードレンは、マイヨ・ア・ポワを獲得している。

それでも最終峠シューペル・ベスでは、区間勝利の可能性の消えたメイン集団内で、様々な動きが見られた。なにやらモナコ在住仲間のヴィノクロフに敬意を表して追走を控えていたらしいフィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット)は、慌ててアシストを前に配置すると、最後は総合争いの大物たちを横目に区間2位をさらい取った。中間ポイントでも後続集団トップの座を手にし、大会前はまるで目標にしていなかったはずのマイヨ・ヴェール争いで再びトップに立った。やはりモナコに居を構えるトル・フースホフト(ガーミン・サーヴェロ)は、連日「第8ステージ後にマイヨ・ジョーヌを失うだろう」と繰り返してきたというのに、いざとなると「やっぱり守りたい」と本音が出た。エヴァンスがわずか1秒差をつけるためにスプリントを切るも(区間3位)、驚異的な粘りで前方の穴を塞ぎ、今大会7枚目のイエロージャージを手に入れた。

コンタドールは、確かに動いた。つまりテヴネ推奨の「コツコツタイム差を稼ぐ作戦」に出たのだろうか。ただしグランツール6回優勝のチャンピオンは、何度か加速を試みるものの、決定的な一打は出せなかった。エヴァンスや、さらにアンディ&フランク・シュレク(レオパード・トレック)には素早く張り付かれてしまった。実はステージ前はシューペル・ベスについて「非常に難しい上り」と信じていたが、終えてみると「それほど勾配がきつくなかった」せいで自分の登坂リズムと上手くあわなかったとのこと。ならばヴィランク案の「ピレネーまで待つ」を実行するつもりかと思いきや、「結局のところ、大きくタイム差がつくのはやっぱりアルプスじゃないかな」なんて言っている。一方、第4ステージのミュール・ド・ブルターニュでは上手く動けずに「短い上りでの爆発力がないから」と言い訳していたアンディは、「今日は脚が上手く回ったんだよ」とニヤリ。さらには「ピレネーの山頂フィニッシュ2つが本物の勝負どころとなるだろう」と語っている。


●ルイアルベルト・ファリアダコスタ(モヴィスター チーム)
区間勝利

ラスト1kmで振り向いたらヴィノクロフがあまりにも接近してきたから、難しい状況になったぞ、と考えた。でも力を上手にコントロールして走ることができた。ラスト300mまできて、ようやく勝てると確信したんだ。

9人で逃げているときは非常に良い連携が取れていた。そのあと、ヴァンガードレンと2人になったときは、上手く協力できていたから、このまま逃げ切れるだろうと考えた。でもフランス人2人が追いついてきてからは、状況が少し代わってしまった。協力体制がほとんどなくなってしまったし、アタックが巻き起こった。だからボクはライバルたちの実力を冷静に分析した。そしてゴール前4kmで、今こそがアタックに最高のタイミングだ、と飛び出した。その時点では、ボクが最強だと判断したからなんだ。

ボクがこれまで手に入れてきた勝利の中で、もちろん最も素晴らしい勝利だよ。今日の自分が成し遂げたことは本当に信じられない。この勝利を捧げたい人はたくさんいるんだ。これまでのキャリアを支えてきてくれた全ての人々、家族、チームメイト。特にこの春に命を落としたトンドに捧げたいね。

●トル・フースホフト(ガーミン・サーヴェロ)
マイヨ・ジョーヌ

昨日のゴール直後には確かに、今日はマイヨ・ジョーヌを守りきれないだろう、と言ったよ。ボクには難しすぎると思っていたからね。でも心の奥底では、やっぱり、どこか自分の力を少し信じたい気持ちがあったんだ。だからジャージを守るためにできる限りのトライをしようと決めていた。今のボクは信じられないほど絶好調だよ。体の奥底からパワーを搾り出すことが出来ている。それにマイヨ・ジョーヌというものは、いつだって、プラスのモチベーションを与えてくれるものなんだ。

ジャージを守れなかったとしても特に構わなかった。ボクのツールはすでに大成功で、ここまでの出来に非常に満足していたからね。だから今日たとえマイヨ・ジョーヌを失っても、がっかりしたりしなかっただろう。ここまで常に全力を尽くしてきたからね。ただ調子が本当に良かったおかげで、フィニッシュ直前には前方の選手との穴を埋めることが出来たんだと思う。だから今夜はすごくハッピーだよ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

  • Line

あわせて読みたい

J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題

J SPORTS IDの登録(無料)はこちら

ジャンル一覧

J SPORTSで
サイクル ロードレースを応援しよう!

サイクル ロードレースの放送・配信ページへ