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サイクル ロードレース コラム 2011年7月14日

【ツール・ド・フランス2011】第11ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ツール・ド・フランスには世界でも指折りの名スプリンターが集結しているというのに……、この2日間、フィニッシュラインはまるで彼ら2人のためだけに存在しているかのようだった。マーク・カヴェンディッシュ(HTC・ハイロード) vs. アンドレ・グライペル(オメガファルマ・ロット)。元リーダーと元アシストの確執は、稀に見るほどの白熱戦へと発展している。そして前日の一騎打ちに破れ、激しい屈辱を味わった(はずの)現役最高スプリンターが、誇りを取り戻すために走り出した——。

ピレネー難関山岳突入前の、最後のひととき。連日フランスを襲う雨のせいで大気はすっかり冷え切っていたが、出走直後にはいつもよりも少々加熱した飛び出し合戦が繰り広げられた。前へ行く切符をもぎ取ったのはラルス・ボーム(ラボバンク)、ルーベン・ペレス(エウスカルテル・エウスカディ)、ミカエル・ドラージュ(FDJ)、アンドレー・グリブコ(アスタナ)、トリスタン・ヴァランタン(コフィディス ルクレディアンリーニュ)、ジミー・アングルヴァン(ソール・ソジャサン)の6人。その一方で「ピレネー初日でリーダージャージを失うだろう」と寂しく予言しているトマ・ヴォクレール(チーム ユーロップカー)は、マイヨ・ジョーヌで過ごす残り少ない時間を思い切り満喫するほうを選んだ。エスケープとのタイム差制御も、それほど神経質には行わなかった。グルペット生活が始まる前に最後の勝利を手に入れておきたい、そして最後のポイント収集に走りたいスプリンターチームが、きっちりとコントロールを引き受けてくれたのだから。

ちなみにゴールスプリントではグライペルとの因縁対決を繰り広げるカヴだが、ポイント収集に関してはグライペルのチームメイト、フィリップ・ジルベール(オメガファルマ・ロット)が現在までのところ最強のライバルだ。「中間スプリントのルール改正は、ピュアスプリンターなんかよりも、むしろパンチャーに有利になったように感じているけど」とカヴが数日前に語っていた通り、ジルベールは中間もゴールも、平地でもアップダウンでも、お構いなしでポイントを荒稼ぎしてきた。前ステージ終了時点で、ポイント賞首位ジルベールと3位カヴェンディッシュの差は29pt。もちろんカヴは「スプリンターの勲章」緑ジャージを諦めてはいないし、「マイヨ・ヴェールには決して憧れたことはないんだ」などと語るジルベールを野放しにしておくつもりもなかった。中間ポイントからきっちりスプリントを打って、7番目=集団トップの座を獲得。9ptを手に入れ、同地点で5ptに終わったジルベールとの差を25ptへと縮めた。

このステージを終えると3日間の休暇をもらえる予定のHTCトレインは、土砂降りの中、いつになく力を込めてペダルを漕いだ。失敗に終わった前日はゴールまで2kmを残してアシストがわずか1人しか残っていなかったが、この日はほぼ計画通りに隊列を作り上げると——体調を崩していたというマシュー・ゴスだけは脱線していた——、エスケープ集団を残り3km前後で全員吸収。やはり前日は千切れてしまってリーダーを助けられなかった最終発射台マーク・レンショーも、ラスト1kmを示すフラムルージュから、カヴを最高の場所で送り出すよう最後の仕上げを行った。「ボクはなにもせず、ただ前に走り出ただけ」と、カヴからいつも通りのお褒めの言葉をもらうために。

がむしゃらなスプリントだった。第10ステージは自らの後輪から飛び出したグライペルにゴール間際でさされたが、今ステージは自らの背後に張り付いていたグライペルを意地でも前に通さないつもりだったに違いない。しかも一対一の構図にさえ持ち込ませなかった。実施にフォトフィニッシュではカヴだけが頭ひとつ抜け出し、グライペルはあっさりその他大勢へと押しやられてしまっていた。前夜はひどく無表情だったカヴは、天使のような微笑みでフィニッシュラインを通過した。「優しすぎる」と評判のグライペルは、ゴール直後に「今日は何も話したくない」とバスに乗り込んだ。両者の再激突が見られるのは第15ステージ。ピレネーを抜けた直後のフラットステージとなる。

今大会早くも3度目の、キャリア通算18回目のツール区間表彰台に臨んだカヴェンディッシュは、その後、もう1度表彰台へと姿を現した。……少々予想外ではあったが、緑ジャージをさらい取ってしまったのだ!ジルベールがなんと区間66位に沈んだせいであり(もちろん無ポイントだ)、一方のカヴェンディッシュはゴールポイント45ptを計上。両者の立場は一気に逆転した。「世界で一番欲しいジャージ」を手に入れ、カヴは今やポイント賞争いで2位ホセホアキン・ロハスに16pt差、ジルベールに20pt差をつけている。

「7月なのにこんなに寒いなんて信じられない!」とゴール地でびしょ濡れになったカデル・エヴァンス(BMC レーシングチーム)は目を丸くした。ツールでおなじみの風景ひとつ、満開のひまわり畑がルート上のあちこちで見られたが、灰色の空の下ではいまひとつ映えぬままだった。ただプロトン内のひまわり役、マイヨ・ジョーヌ姿のヴォクレールは断続的に降り続く雨にも関わらず、笑顔で2度目の総合リーダー表彰式に臨んだ。果たして本人の予言どおり、ヴォクレールにとって、これが今大会最後のマイヨ・ジョーヌ表彰式となるのだろうか。総合有力候補たちは「本物の」ツールの始まりに、静かに胸を躍らせている。

●マーク・カヴェンディッシュ(HTC・ハイロード)
区間勝利、マイヨ・ヴェール

すごく満足してる。ボクにとっては世界で一番美しいジャージだし、これを手に入れるためにツールの半ばまで待ったんだからね。この勝利を手に入れられたのは、雨にも関わらず、チームが信じられないほど素晴らしい仕事をしてくれたおかげ。チームメート全員がボクの勝利のために力を注いでくれた。昨日はがっかりした。でもグライペルのスプリントは本当に見事だったからね。技術的には、今まで見てきたスプリントの中でも屈指の素晴らしさだった。彼にもそう言ったんだ。とにかく昨日はボクがミスを犯した。距離を開けられてしまって、その後よいテンポで加速することが出来なかった。でも今日はひとつのミスも犯さなかった。

まだ2回スプリントゴールのチャンスは残っている。第15ステージのモンペリエと最終日のパリだ。少しずつ疲れを感じ始めているけれど、マイヨ・ヴェールにしがみついていきたい。11日間の激しい戦いの後に手に入れたジャージだよ。すごく特別な感慨に浸っているし、願わくばパリまで守りたいね。

●トマ・ヴォクレール(チーム ユーロップカー)
マイヨ・ジョーヌ

今日のステージは身体的にはそれほど厳しくなかったけれど、非常に緊張を強いられるステージだった。最終盤は大雨の中時速70kmで走ったんだから冷や冷やしたよ!明日、リュザ・アルディダンの山頂でマイヨ・ジョーヌを失うことになるだろう。スタート前から諦めているわけではないけれど、覚悟はできている。ボクのリードはそれほど多くないし、総合リーダーたちが攻撃を控えることもないはずだからね。山では、たとえ彼らが全力を出していないときでも、ボクにはまるで付いていけないんだから。

もちろんトライはするつもりだ。だってマイヨ・ジョーヌを失う前に、まずは全力を尽くしたという実感を得なければならないよ。もしも持てる力を全て使い果たしたのならば、たとえ失ったとしても、しょうがないことだからね。総合首位の座に留まるための条件は、まずはボクの脚の調子が絶好調で、そして優勝本命たちがアタックを仕掛けないこと。でも例えばアルベルト・コンタドールはライバルとのタイム差を少しでも縮めるために、様子見ばかりをしているわけではないはずなんだ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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