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サイクル ロードレース コラム 2011年7月20日

【ツール・ド・フランス2011】第16ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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灼熱の太陽の下で総合争いの流れが大きく変わったのは、2003年と同じ山だった。あの日は溶けたアスファルトにホイールを取られ、道路に投げ出されたホセバ・ベロキが、総合争いの夢を打ち砕かれた。しかし2011年はひどく冷たい雨の中で、ここまで淀んでいた総合争いが、一気に流れ始めた。アルベルト・コンタドール(サクソバンク・サンガード)が王者の脚を取り戻し、シュレク兄弟(レオパード・トレック)は弱点をさらけだし、そしてカデル・エヴァンス(BMCレーシングチーム)はかつてないほどマイヨ・ジョーヌ候補に相応しい人物であることを証明してみせた。ピレネーやアルプスの難峠に比べたらちっぽけな存在なはずの、2級マンス峠が、それも休養日明けのステージに組み込まれたたった1つの峠が、ツール・ド・フランスの戦いを再び大きく揺さぶった。

序盤1時間の走行スピードは51km/hを超えていた。2011年ツールも残すところあと6日。そのうち3日はアルプス難関ステージで、1日は個人タイムトライアル、そして1日は最終日だから、つまりクライマーでもスプリンターでもない普通の選手にとっては第16ステージが「ほぼ」最後のチャンスだった。悪天候にも関わらず多くの選手がアタックを試み、さらに多くの選手がカウンターアタックを仕掛けてきた。逃げ集団が出来上がったのは、なんとステージの折り返し地点に設けられた補給地点を通り過ぎてから!

逃げ出すのには苦労したが、一旦逃げ出してしまえば、タイム差は簡単に広がった。エスケープの10人がつけたタイム差は、残り20km地点で約6分半。逃げ切りを目指した協力体制は、マンス峠で、ステージ勝利へ向けた敵対関係へと姿を変えた。

上りで単独で抜け出したのは、昨ツール総合7位のライダー・ヘシェダル(ガーミン・サーヴェロ)だった。ところが上りの後には、ひどく細く曲がりくねったテクニカルな下りが待っていた。しかも雨に濡れて滑りやすく、危険をもはらんでいる。ここでエドヴァルド・ボアッソン(チームスカイ)が、ヘシェダルのチームメート、トル・フースホフト(ガーミン・サーヴェロ)を伴って果敢にも前に追いついた。そのまま3人で、つまり2対1でフィニッシュラインへと雪崩れ込んで……、才能は高くとも、未だ経験豊かとは言えない24歳は、31歳の狡猾な世界チャンピオンの前に敗れ去った。「なんだかノルウェー国内選手権みたいだったね!」と同胞との直接対決を制したフースホフトは笑う。それにしても大会序盤に1週間マイヨ・ジョーヌを着用し、中盤以降には2度のエスケープに乗って2度の優勝を手に入れた。「100%の成功だ。今ツールはボクにとって最高に上手く行っている」と明言できる、現プロトン内の数少ない1人に違いない。

一方でコンタドールは、2011年大会にはまるで満足できていないはずだった。何の問題もなくツールを続けるエヴァンスやシュレク兄弟を横目に、初日の落車でタイムを落とし、さらなる落車で膝の炎症が悪化。しかもピレネーでは「ボクの好きじゃない走り方=アタックをかけられず、ライバルたちにひたすら張り付くだけ」を余儀なくされ、王者としてのプライドも傷ついた。総合ライバルの中では先頭を走るフランク・シュレクとの差はすでに2分11秒にまで開き、グランツール7連覇には黄色信号が点滅し始めていた。しかし「アルベルトはどんなに辛い状況に追い込まれても、決して放り出してしまわないタイプ。いや、むしろ辛くなればなるほど、やる気を出す」と兄のフラン氏が語っていたように、コンタドールは決して諦めていなかった。そしてマンス峠の登りで、大好きな走り方を取り戻した。つまり自ら攻撃に転じた!

しかもコンタドールは、幾度となくアタックを繰り返した。ピレネーで周囲の選手が見せたような軽く、短く、いわゆるライバルたちの出方を試すような、そんな生易しい加速ではない。鋭く、長く、それこそライバルたちが追いついて来れなくなるまで執拗に攻撃は続けられた。イヴァン・バッソ(リクイガス・キャノンデール)が苦しみ、アンディ・シュレクは脱落し、そして兄のフランクの脚も止まった。実に奇妙なことではあったが、ピレネーの超級峠で積極的に動いた3人が、2級峠で置き去りにされたことになる。「恐ろしい加速だった」と振り返ったマイヨ・ジョーヌ姿のトマ・ヴォクレール(チーム ユーロップカー)も、何度も粘った挙句、とうとう脚が応えられなくなった。

ただエヴァンスとサムエル・サンチェス(エウスカルテル・エウスカディ)だけが、コンタドールの速い上りテンポに耐えきった。いや、下りではむしろエヴァンスが——下りスペシャリストのサンチェスではなく——、積極的に距離を開きにかかった。フランクからは総合17秒遅れ、アンディには9秒リードをつけるエヴァンスにとっては、両者を突き放す絶好のチャンスだったのだ!しかもエヴァンスはマウンテンバイク出身でスピードダウンヒルには慣れっこだが、シュレク兄弟(とバッソ)は恐ろしく下りが苦手ときている。「あんな病院送りになりそうなルートを作るなんて、開催委員会は一体どういうつもりなんだ!?」と怒るアンディは、ジロでチームメイトのワウテル・ウェイラントが事故死して以降、ますます下れなくなったという……。

最終的にコンタドール&サンチェスさえも3秒突き放してゴールしたエヴァンスは、フランクから21秒、バッソから54秒、アンディにいたっては1分09秒も奪い取った。総合では2位に浮上。「決して悲劇ではない。またタイムを取り戻せばいいんだから」と語る総合3位フランクとの差はわずか4秒と少ないが、総合4位以下には1分18秒以上の大差を手に入れた。ヴォクレールもやはり21秒失ったが、マイヨ・ジョーヌは手堅く守った。

ついに脚が復活したコンタドールは、ようやくライバルを1人、総合で追い抜いた(バッソを7秒差で逆転して総合6位)。今ステージで協力し合い、ゴール後にかたい握手を交わしたサンチェス(16秒差)とアンディ・シュレク(39秒差)は、いよいよ射程圏内に捕らえたか。ただしフランクとエヴァンスの両者には、いまだに2分近く離されている。「予想以上に上手く行った。ただし手放しで喜びすぎてもならない。昨日と状況はほとんど変わっていないのだ」。


●トル・フースホフト(ガーミン・サーヴェロ)
区間勝利

ボアッソンと勝利を争ったのは、少々奇妙な感じだったね。ヘシェダルが飛び出して行ったとき、ヘシェダルに区間勝利のチャンスがあった。そしてボアッソンが追走を仕掛けたから、ボクは彼の後輪に張り付いた。友達であり、同じ国の出身であるボアッソンには申し訳ないとは思ったけどね。でもボクがチームのために働くというのは、スポーツの掟。まずなによりもチームのことを、前方にいるチームメイトのことを考えなければならなかった。追走に協力しなかったのは極めて当然のこと。今日はチームの戦術が本当に上手く行ったんだ。パーフェクトだった。

最終盤にはヘシェダルにアタックしてもらいたいたかったんだ。でも不可能だった。上りでも下りでもずっと前を走っていたから、体力があまり残っていなかったんだ。つまり彼は全力を尽くして完璧な仕事を成し遂げたということ。スプリントに関して言えば、ボアッソンはボクら2人に挟まれてプレッシャーを感じていたに違いないんだ。どう打破したらいいのか分からないような、そんな状況だったはず。ボクら2人は勝利のために理想的な状況を作り上げたんだよ。

●トマ・ヴォクレール(チーム ユーロップカー)
マイヨ・ジョーヌ

今日こんなに動きがあるとは思っていなかった。ここにいる皆さんと同じように、ボクにとっても予想外だった。下りに向けて好位置を取るために、山頂間近でおそらく動きがあるだろうと考えていたんだけれど、コンタドールのアタックには驚かされた。

コンタドールがアタックをかけたとき、ボクは真後ろにいた。だからすぐに動いた。目の前だったからね。もしかしたら総合争いの選手たちに追わせるべきだったのかもしれない。彼らに力を使わせるべきだったのかもしれない。でもあの瞬間に、彼の真後ろにいたという事実を、利用しない手はなかったんだ。後悔はない。追いかけて、追いかけて。追いかけられなくなるそのときまで全力を尽くしたから。あの登りはボク向きだったんだけどね。だから前の3人についていけなかったのは残念だけれど、後悔はないんだ。

今日は自分の限界を露呈した。地形はボク向きだったはずだし、体調は良かったし、脚はよく動いていた。だから「ああ、休養明けで、空白の1日だったんですよ」なんて適当にでっちあげたりはしない。ボクは調子が良かったのに、付いていくことができなかったんだ。そして20秒失った。この先訪れるであろう「決済日」のことを考えると、これはかなり大きな損失だよ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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