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サイクル ロードレース コラム 2011年9月11日

【ブエルタ・ア・エスパーニャ2011】第20ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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赤ジャージ13秒差、緑ジャージ2pt差、青玉ジャージ7pt差。すでに19日間もの激闘をくぐり抜けてきたというのに、この日の朝、なにひとつ確かなものなどなかった。しかも3つのジャージを巡る争いに、バスク特有の熱狂と灼熱の太陽が加わって……! グランツールの終わりというのはいつも少しリラックスした、少し寂しいような雰囲気に包まれるものだが、どこかピリピリするような緊張感がプロトン内には漂っていた。

山岳賞ジャージを巡るダヴィ・モンクティエ(コフィディス ル クレディ アン リーニュ)とマッテーオ・モンタグーティ(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)の戦いは、ステージ上に待ち構えた4つの山に入る「前」に決した。27km地点で27人の逃げ集団が出来上がったが、両者共に前に滑り込まなかった。いや、モンタグーティに関しては「滑り込めなかった」のであり、ライバルの背後に影のように張り付いたモンクティエは「滑り込ませなかった」のである。「モンタグーティの動きを徹底的にマークしたんだ。そしてひとたび危険が去ったと知るや、ようやく気を抜くことができた」とモンクティエ。つまり両者共にこの日はノーポイント。2011年ブエルタ最後の山岳、1級ウルキオラ峠の山頂を越えた時点で、モンクティエの4年連続4度目のブエルタ山岳賞が確定した。7pt差のままで。

マイヨ・ロホ争いは、13秒差で追うクリス・フルーム(チームスカイ)が痛恨の失敗をおかした。ステージ最初の中間ポイント(41km地点)へ向けては、チームスカイが少々コントロールしたものの、たどり着く前に逃げ集団に行かれてしまった。また第2中間ポイントは119.2km地点から168.5km地点=ゴール前16.5km地点に変更されたのだが、なんと……ゴール前20km地点を示すアーチ目掛けてフルームがスプリントを切ってしまったのだ! 確かにブエルタの中間ポイント用アーチは、ツールの緑アーチのようにジャージカラーを配した目立つものではなく、白地に赤という控え目なものだ。しかも20kmアーチも白と赤。……前方にはエスケープの最後の1人、カルロス・バレード(ラボバンク)がいたから、つまりフルームは「2位通過=4秒」を取りに行くつもりで全力ダッシュを行った。

うっかりミスの代償は大きかった。マイヨ・ロホ姿のファンホセ・コーボ(ジェオックス・TMC)は当然ぴったり張り付いてきたが、なにより、ジェオックスの老師カルロス・サストレがサポートのために一緒に飛び出した。フルームとコーボは「間違ったアーチ」の後はそろって減速したが、サストレは「本物」の第2中間ポイントへ向けて前進。フルームが欲しかった2番目の座を楽々と潰してしまった。また3番目の座もフルームは手に入れられなかった。ジェオックス勢がスプリント体勢を取ったため、今度はコーボの3位通過を防ぐために、ブラドレー・ウイギンズ(チームスカイ)が前に行かざるを得なかった。

サストレはその後も前を走り続けた。バレードに追いつき、追い越し、ゴール前2.5kmまで粘り切った。ステージ優勝が手に入れられなかったのは残念だったが、おかげでスプリンターチームの追走トレインの速度と必死さは急上昇。チームスカイが分断や飛び出しを仕掛ける余裕はなかった。もちろんフルームが「3位に入るため=ボーナスタイムを手に入れるため」の集団ゴールスプリントに打って出るなどという、無謀な試みに出ることもなかった。「コーボにプレッシャーをかけ続けたけれど、コーボは崩れなかった」と無念のフルームは26位、コーボは28位でそれぞれステージを終了。両者のタイム差は13秒のままだ。

最終盤には、チーム レオパード・トレックが圧倒的なトレインを組んでいた。チームのエーススプリンター、ダニエーレ・ベンナーティが序盤の逃げ集団に上手く滑り込んでいたし、逃げ吸収後もメイン集団にきっちり残っていたからだ。ベンナーティは今大会未だ勝利を手にできずにいた。第16ステージではやはりチームはほぼ完璧な仕事をしたが、ゴール前のカオスに巻き込まれ、取れるはずだった1勝を逃してしまった。だからこそ、総合6位のマキシム・モンフォールや11位ヤコブ・フグルサングさえも、牽引の脚に力を込めた。そしてゴール前200m、先頭へと解き放たれたベンナーティは、今度こそ間違いなくステージ優勝をつかみとった。2007年にはツール・シャンゼリゼとブエルタ・マドリードという2つの華やかなゴールを勝ち取るも、近頃不振続きだったベテランスプリンターにとって、実に2008年ブエルタ以来となるグランツール区間勝利となった!

ベンナーティの背後では、緑ジャージ姿のホアキン・ロドリゲス(チーム・カチューシャ)とバウケ・モレッマ(ラボバンク)も高速でペダルを回した。「ヒルクライマーのボクらがキング・オブ・スプリンタージャージを争うなんて、奇妙だよね!」なんてモレッマは語っていたが、これも全てはマドリードの表彰式に出席する権利を手に入れるため。必死にもがいた甲斐あって、モレッマは区間9位に、ロドリゲスは11位に入った。つまりモレッマが7pt、ロドリゲスが5ptを手に入れて……総計では115ptの同点でついに並んでしまった!

総計ポイントで並んだ場合、1)ステージ優勝の数、2)中間スプリント首位通過の数、3)総合順位にて優劣がつけられる。つまり第5ステージと第8ステージで2勝を上げているロドリゲスが、今ステージ後のポイント賞表彰式に臨む権利を得た。マドリード最終ステージ後にも、もしも同点ならば、ロドリゲスが2011年ブエルタポイント賞に輝く。1ポイントでも差がついた場合は……。最終日のポイント獲得のチャンスは、2回の中間ポイント(上位3人)と、ゴール(上位15人)だ。

もちろんこの3回は、ボーナスタイムを手に入れるチャンスでもある。フルームは「最後の最後までボーナスタイムを取る努力を惜しまない」と宣言する。コーボは「確かにボーナスタイムは合計32秒あるけれど、幸いにもフルームはスプリンターじゃないからね」と自信をのぞかせる。2011年ブエルタ・ア・エスパーニャの最終結末は、マドリードのフィニッシュラインを越える瞬間まで、決して分からない。


■ダニエーレ・ベンナーティ(チーム レオパード・トレック)
ステージ優勝

朝の段階では、今日勝てるなんて考えてもいなかった。ただ山が終わるまで待って、そのときにレース状況がどうなっているのか判断しようと考えていたんだ。スタート直後は、連日同様ひどいスピードだった。20人ほどが飛び出して、でもレオパード・トレックの選手が1人も滑り込んでいなかった。ボクはたった1度の加速で追いつくことができたんだ。それに逃げ集団の中では、力の配分を上手く計算した。山は自分のやり方で上った。ほかの誰かに合わせようなどと無理せず上ったおかげで、上手く行ったんだ。常に集団スプリントで勝つことを考えながら走ったよ。

すばらしい気分だよ。なにしろ2011シーズンはすごく難しかったからね。ツール・ド・ロマンディの第1ステージで落車した。ジロに向けてすごく調子が上がっていた時期だった。鎖骨をヵ所骨折したし、肋骨を折って肺も痛めた。復帰までに2ヶ月を要したよ。そのうちの1ヶ月は、自転車には一切乗れなかった。

世界選手権でのイタリア代表リーダーに指名されるかもしれない、とかなり前から打診されている。この役割を恐れてはいないよ。もしもイタリアチームを率いる責任を任されたら、このチャンスを生かすために100パーセントを尽くす。近年の世界選手権を振り返ってみると、ブエルタを走った選手がアルカンシェルを獲得しているね。ボクもこの地でコンディションを上げてきているから、志気が大いに高まるね。だからマドリードまで完走するのは非常に大切なことだし、明日のマドリードでもう1度勝てるかもしれないよ。

■ファンホセ・コーボ(ジェオックス・TMC)
総合リーダー

計算上は、ボクはまだブエルタの総合勝者ではない。まだ中間スプリントが2回とゴールが残っている。これでボーナスタイムを合計32秒稼ぐことができる。でも幸いなことに、フルームはスプリンターではない。個人的には最終ステージはパーティーを楽しみたいけれど、でもフルームには勝利に向かって走る権利がある。

今日は、最後の上りでは調子が非常に良かった。フルームはラスト20kmのアーチを中間スプリントと勘違いして飛び出したね。ボクを罠にかけるつもりなのかな、とも考えたんだけど、彼は間違いに気づいて加速をやめたんだ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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