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サイクル ロードレース コラム 2012年5月8日

ジロ・デ・イタリア2012 第3ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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のどかな緑の風景の中を、6選手が逃げ出した。ゼロkm地点を示すアーチの通過とほぼ同時に、プロトンは至極あっさりエスケープを先に行かせた。デンマーク最終日はこうして静かに始まった。

月曜日にも関わらず、スタート地にはたくさんの市民が詰め掛けていた。この日のジロはスタート、54km地点、市街サーキット3周、そしてゴールと、ホルテンスをそれこそ何度も何度も通過する。前日サイクリング中に突然死を遂げた市長がいかにジロ誘致に尽力し、入念に準備し、心待ちにしていたのか痛いほど感じられる。またベルギーからはワウテル・ウェイラントの家族が、この「WW追悼ステージ」のために会場を訪れた。ピンク色の風景が華やかなだけに、いっそう悲しみを誘う。自転車レースを心から愛した2人の魂のために、スタート前には1分間の黙祷が捧げられた。

スプリンターチームがすぐにプロトンの手綱を握った。あっという間にタイム差がついた前日とは対照的に、ラムナス・ナヴァルダスカス、マルティン・ケイゼル、アルフレード・バッローニ、ミゲル・ミンゲス、レト・ホレンシュタイン、マッズ・クリステンセンの6人に決して4分以上を与えない。しかも初日個人タイムトライアルで長時間に渡って暫定トップの座を張り、総合ではわずか22秒遅れのナヴァルダスカスが逃げ集団に滑り込んでいる。中間スプリントポイント(6、4、2秒)とフィニッシュライン(20、12、8秒)でボーナスタイムが発生するため、マリア・ローザの座を脅かす可能性も十分に秘めていた。テイラー・フィニー擁するBMCレーシングチームも、当然のように、慎重にタイム差コントロールに加わった。

幸いなことに、それでも前方の数選手には、それぞれの思惑を実現させる時間もあった。76km地点のオッデルでは、クリステンセンが生まれ故郷の通過をたっぷり満喫した。平らな国の4級峠では、前日の逃げで山岳ジャージを獲得していたバッローニが再び先頭通過。母国イタリアへと青色マリアで凱旋する権利を得た。中間スプリントポイントでは、ナヴァルダスカスはあえなく2位通過に終わり、ボーナスタイム4秒で満足するしかなかったが(=総合首位から18秒差)。

スカイの黒いジャージに混じって、FDJ・ビッグマットの白いジャージがプロトン前方で目立ち始めたのはステージが折り返し地点を過ぎた頃。さらにホルセンスの市街周回コースに入ると、モノクロに、カラフルな色味が入っていく。それぞれにスプリントリーダーを擁するオリカ グリーンエッジの緑やラボバンクのオレンジ、ガーミン・バラクーダの青。さらに総合リーダーを安全な場所へ確保しようと、リクイガス・キャノンデールの黄緑やランプレのフクシアピンクもきれいに混ざった。前方の6人のうちクリステンセンだけが最後まで粘ったが、残り25kmで夢は潰えた。前日に続いて単独カウンターアタックを見せたラルスイティング・バクも、地元デンマークでファンたちの前でたっぷり勇姿を披露した、最終周回に入るとスプリンターチームに主役の座を譲った。

複数出来上がったトレインの中で目を引いたのは、紅一点マーク・カヴェンディッシュを抱えるスカイ。さらには別府史之も力強いエンジン役の1人である、オリカ グリーンエッジだ。

「サーキット最終盤はスピードがものすごく上がって、しかもテクニカルなフィニッシュだった。集団全体がナーバスになっていた。ボクも好ポジションから弾き飛ばされたこともあったけれど、ダリル・インペイやブレット・ランカスター、さらにフミ・ベップが一致団結して素晴らしい仕事をしてくれた。その後はトーマス・ヴァイクスがパワフルなリードアウトで、ここぞ、という理想的な場所へと引き上げてくれた。あとは決して振り返らずに、フィニッシュラインを目指した」

こんな風にゴール後に語ったマシュー・ゴスは、つまり、自分の後ろで何が起こっていたのかも良く分からなかったと言う。とにかく自分のために働いてくれたチームメイトたちに勝利でお返ししたい——なにしろツアー・オブ・ターキーで2位4回、ジロ第2ステージでも2位と、2位ばかりをコレクションしてきたのだから——と、ひたすらラインへ向かったのだ。亡き親友「WW」のためにスプリントを切ったタイラー・ファラーさえも退けて。

全ての仕事は報われた。2009年ジロでの区間勝利はリーダーの遅れをカバーする「アシスト役」としての成果だったが、今回は正真正銘のリーダーとしての成功だ。またオーストラリア初のワールドツアー所属チームが、初めてのグランツール参加のわずか3日目にして、嬉しい初勝利を計上したことになる。

そして、ゴスの後ろでは、ポイント賞ジャージを着込んだ世界チャンピオンが地面にたたきつけられていた。カヴェンディッシュの左側を走っていたロベルト・フェラーリが、ゴール前100mの極めて密接した状態にも関わらず、カヴェンディッシュの右斜め前へと急激な進路変更してしまう。その際にフェラーリの車体がカヴェンディッシュの前輪にぶつかり、バランスを崩したカヴェンディッシュはそのまま落車。カヴは2日連続のステージ優勝のチャンスを逃しただけでなく、赤ジャージを失い、さらに左肩と左ももを強打した。

痛々しい姿でのカヴは、172位でゴールラインを越えた。それでも、元チームメートで友達でもあるゴスを祝福に行く気遣いを忘れなかった!一方「無作法ではあったが、わざとではない」と主張するフェラーリには、審判団から降格処分が下された。UCIルール12.1.40の「スプリント時に他の選手を危険にさらした」「1回目の違反」が適応されて、スプリント時に所属していた集団の最下位=192位となった。

カヴェンディッシュ以外にも、たくさんの選手が落車に巻き込まれた。マリア・ローザのテイラー・フィニーもその1人だった。2日連続のアクシデント。前日は無事に切り抜けたが、この日は……表彰式が全て終わったあとに、ようやく救急車でゴールラインを越えた。幸いにも「3km救済ルール」が適応されたため、自力でゴールできなくとも完走とみなされ、ゴスと同タイムが与えられた。区間順位に関しては「自力フィニッシュが不可能だった場合は区間最下位」というUCIルール2.6.27が適応されたが、もちろん総合首位はしっかりと守っている。また「表彰式をやりたい」という本人のたっての願いで、改めてフィニーは表彰台へと上っている。気になる怪我の状態だが、レース終了直後の時点では「右足の小さな刺し傷と右ひじの打撲」としか発表されていない。

レース終了からわずか3時間足らずで、ジロ一行は慌しくビルンド空港から飛び立っていった。さようならデンマーク。目指すはイタリア、ベローナ。体を痛めた選手たちにとっては、幸いにも、早めの休養日がやってくる。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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