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サイクル ロードレース コラム 2012年5月18日

ジロ・デ・イタリア2012 第12ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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母国デンマークでは2日連続アタックを試みるも、いずれも失敗に終わった。そこから遠く1600kmほど南に下がった、イタリアの美しきリヴィエラから、ラルスイティング・バク(ロット・ベリソル)はついに地元ファンへ勝利の喜びを届けた。祖国フランスへと近づいて行くルートで、サンディ・カザール(FDJ・ビッグマット)はばら色の夢を見た。最終的には、ローラン・ジャラベール以来となる13年ぶりのフランス人リーダージャージにはわずか26秒足りなかったし、本来狙っていたはずの区間勝利も手に入らなかったけれど、「総合5位以内」という目標は少しだけ現実的になった。

うんざりするほど長かった前日に比べて、ステージ距離は100kmも短い。世界有数の景勝地チンクエ・テッレに程近く、ルートは起伏に富んでいる。スプリンター向きではなく、かといって土曜日から難関山岳にいよいよ突入する総合本命たちも、動いては来ないはずだ。つまり「今日は逃げ切りが決まるだろう」。考えることはみな同じだった。当然のようにスタート直後から激しい飛び出し合戦が巻き起こった。序盤30分は、なんと時速55kmの超ハイスピード!そして50kmほど走ったところで、ようやく、9人が貴重な「逃げ切り」切符をつかんだ。

バクに加えて、アメッツ・チュルーカ(エウスカルテル・エウスカディ)とヤン・バークランツ(レディオシャック・ニッサン)、さらに第8ステージで「暫定首位」を経験したアンドレイ・アマドール(モヴィスター チーム)は、純粋に区間を狙っていた。もちろん他の5選手だって、第一目標はステージ優勝。しかし、それぞれに別の思惑も持っていた。山岳賞争い2位につけていたミカル・ゴラス(オメガファルマ・クイックステップ)は、青ジャージを求めて。チームメートの山岳賞首位を守ろうと、ジャクソン・ロドリゲス(アンドローニジョカットリ)も自ずと仕事に駆り立てられた。フーガ賞(大逃げ賞)総合3位につけていたマルティン・ケイゼル(ヴァカンソレイユ・DCM)は、距離稼ぎを兼ねて。そしてこの日のスタート時点で、総合首位から4分01秒差のカザールと、4分16秒差のイヴァン・サンタロミータ(BMCレーシングチーム)は、マリア・ローザの可能性を探して。

そのピンクジャージに身を包んだホアキン・ロドリゲスとカチューシャ チームは、逃げが決まった当初こそ、状況の制御に努めたが……。ステージ中ほどであっさりと手綱を緩めた。3分→1分半と縮まったタイム差は、その後7分38秒まで軽々と広がった。カザールはヴァーチャル・マリア・ローザの座に立つ。

「でもサンタロミータの存在のせいで、全力で走ることはできなかった。さもなきゃゴールでやられてしまっただろうから」と、実際のカザールは少々複雑な状況を生きていた。しかもサンタロミータが中間スプリントを2位通過し、つまりボーナスタイム4秒を手に入れると、2人の関係は15秒差→11秒差へと変わった。その直後にはゴラスが3つ目の山頂を先頭通過して、まんまとマリア・アッズーラ獲得を決めたかと思うと、そのまま欲張って飛び出してしまった。とたんに先頭集団の協力関係は崩れた。背後では、リクイガス・キャノンデールの集団制御が始まっていた。

リクイガスの目的は、決して、エスケープの吸収ではなかった。ただステージ後半に危険なアップダウンが続くため——特に下りでは、道が細く曲がりくねっていた——、チームリーダーのイヴァン・バッソの安全をできるだけ確保しようと動いただけ。ただ総合3位につけるパオロ・ティラロンゴ(アスタナ プロチーム)が最終峠でアタックを仕掛けたときだけは……、確かにダミアーノ・クネゴ(ランプレ・ISD)も慌てて潰しにかかったけれど、むしろリクイガス最強の山男シルヴェスタ・シュミットが淡々と騒ぎ立てずに、しかしものすごい高速で火消しを行った。自ずと、エスケープ集団とのタイム差も縮まっていく。カザールも「やはり無理か」と途中で半ば諦めてしまったという。

最終盤の前方集団は、純粋にステージ優勝だけを狙う選手の集まりとなっていた。抜け駆けしたゴラスは最終峠の上りで捕まえられた。上りや下りを利用していくつか鋭いアタックが起こり、山岳ジャージ獲りを果たしたゴラスと、フーガ賞では44km差の2位に浮上したケイゼルは集団から置いていかれた。7人は極度に警戒し合い、お見合いし合い、化かし合い……。誰かが飛び出しては、誰かがすぐに反応した。

バクのアタックは、ただ1度だけだった。ただしゴール前1.8kmで見せた全力の加速に、瞬間、誰も反応しなかった。一呼吸おいて慌てて残る6人は後を追いかけるも、その一瞬がまさしく命取りとなった。バクはそのままフィニッシュラインまで全力で駆け抜けて、32歳にして初めての、嬉しいグランツール区間勝利をつかみ取った。

「キャリアでもぶっちぎりで最高の勝利だ。峠ではできる限り力を温存しようと努めたんだ。この作戦が上手く行ったね。ジロ・デ・イタリアでは去年、チームタイムトライアルで勝っているけれど(ブエルタでのチームTT制覇もあり)、個人での勝利は初めて。自分にも大きな勝利がつかめるはずだとずっと信じてきたし、そして今日、ついに夢が叶った」

ここまでの11日間、区間トップ10に1人も送り込むことが出来なかったロット・ベリソルも、ようやく悪夢から解き放たれた。一方ここまでジョフレ・スープが3位、アルノー・デマールが4位という成績を出しているFDJ・ビッグマットは、この日はカザールが区間2位に入った。カザールにとっては、また2位か……と、うんざりした気分だったろうか(ツールで過去6回区間2位を経験している、もちろん優勝も3回)。しかもフィニッシュラインでは、総合首位まであとわずか、26秒足りないだけだった(バクの立場、つまり11秒前にゴール+ボーナスタイム20秒でも、やはり7秒足りなかった)。それほど働かずして、ロドリゲスはマリア・ローザをまた1日確保した。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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