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サイクル ロードレース コラム 2012年5月28日

ジロ・デ・イタリア2012 第21ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ひどく蒸し暑い午後に、ばら色のコースがフィナーレを迎えた。3週間前に北のデンマークから走り始めた198選手のうち、ミラノにたどり着いたのは157選手。白壁の美しきドゥオーモ広場で、全長約3500kmの——大小の移動を含めたら約6400kmになるが——長く厳しい戦いは締めくくられた。

別府史之(オリカ グリーンエッジ)も2年連続2度目のジロを走り終えた。第3ステージではチームメートのマシュー・ゴスをスプリント勝利へと導き、また自らも区間9位に入った。第4ステージではチームタイムトライアルで頼もしい牽引役を務め、第7ステージでは自らが逃げに乗り、そして大会最終盤の難関山岳はそれほど力まずに走った。

「去年走った経験を生かして、余裕を持って走ることができた。抜くところは抜いて、頑張るところは頑張って。その切り替えが上手くできたと感じている。昨夜のミーティングでは、『チームにとって重要だった1週目に、フミがものすごく良く働いてくれた』という言葉を監督からもらった。チームから好評価を得たことが、すごく嬉しかった」

別府自らが定めてきた2012シーズンの2大目標、つまりジロと五輪のうち、最初の1つ目は満足で終えることが出来た。次は約2ヵ月後に控える、ロンドン五輪だ。

「五輪に向けては、ここからさらにビルドアップしていく必要がある。今大会でしっかり距離が乗れているし、レース強度を味わったので、トレーニングでさらに積み上げていく。また病気がケガがあってはならないので、しっかりとした体調管理も必要だ。だからジロ後しばらくは、しっかり休養を取って疲労を抜いていきたい」

大会最後の28.2kmを、33分06秒・時速55.117kmのハイスピードで駆け抜けたのは、マルコ・ピノッティ(BMCレーシングチーム)だった。イタリア屈指のTTスペシャリストは、すでに2008年大会でもミラノ最終日のタイムトライアルを制した経験がある。ただし1年前のジロでは、本気で狙っていたそのミラノTTの2日前に、落車骨折という不運に見舞われていた。

「1年前の悔しさから、ようやく今日、立ち直ることが出来た。今年は1週間前の土曜日に落車したせいで、総合トップ10圏内を狙える状態ではなくなった。だから体調の回復に努め、脚をできるだけ休めて、今日のタイムトライアルに向けて備えることに決めたんだ。」

ピノッティの勝利はまた、今大会どうにもふるわなかった地元イタリアに、わずかな安堵感をもたらした。イタリア人の区間勝利は6回。山岳賞マリア・アッズーラには、マッテーオ・ラボッティーニ(ファルネーゼヴィーニ・セッライタリア)が輝いた。しかし総合1位〜3位までの最終表彰台に、イタリア人の姿はなかったのだ。「ジロが世界に大きく開かれた証拠だよ!」と国際派チームのBMCで走るピノッティは前向きに語ったが、イタリアメディアやティフォージは、簡単に割り切れなかったようだ。

夕方の涼しい空気がミラノを包み始めた頃、1日で、いや、この3週間でおそらく最も熱い戦いが始まった。表彰台をかける4人の男たちによる、わずかな秒差を巡る死闘。前ステージ終了時点で総合4位のトーマス・デヘント(ヴァカンソレイユ・DCM)と総合3位ミケーレ・スカルポーニ(ランプレ・ISD)は、27秒差で、表彰台の3番目の場所を奪い合う。そしてマリア・ローザを挟んで、31秒差で総合2位ライダー・ヘシェダル(ガーミン・バラクーダ)と総合首位ホアキン・ロドリゲス(カチューシャ チーム)が睨み合っていた。いずれの戦いも、大方の予想は「逆転」。そして予想は見事に的中する。

「デヘントにもしかしたら逆転されるかもしれないと思って、走っている間中ずっと怖かった」とヘシェダルにさえ言わしめた25歳は、何人ものTTスペシャリストを押しのけて区間5位・34分07秒で全力疾走を終えた。一方のスカルポーニは、ヒルクライマーとしては健闘の35分00秒。スカルポーニの27秒のリードは、デヘントの26秒のリードへと取って代わった。2011年ジロ王者はがっくりと肩を落とし、たった2日間で表彰台へと駆け上がったデヘントは、慌てて今朝ミラノへと駆けつけたベルギー人記者3人に取り囲まれた(ちなみに前夜までベルギー人記者はゼロ!)。

「ベルギー一周とはまるで違うよね!人も多いし、ストレスも多い。昨日ステルヴィオでの区間勝利のあと、ストレスから一気に解放されてリラックスした気分になったんだ。だから今朝だって『総合4位でもはや満足だ』と思っていたほどなんだ。でも本当に表彰台に登ることが出来てうれしいよ!キャリアで最高の成績だ」

2012年の目標は「ブエルタのトップ5入り」で、ジロには総合上位争いに加わる経験を積みにやってきた。しかし終わってみれば、1978年デムインク以来初めてのベルギー人ジロ表彰台。自他共にサプライズな好成績に、デヘントにはこんな質問が投げかけられた。「自らの新たな可能性を発見できた?」

「でもボクはあくまでもアタッカーで行きたい。これからも小さなレースでは、大逃げのスタイルを守って行くつもりだよ。でも、うん、今後のグランツールではできる限り総合上位を狙っていく。この3週間は本当にいい経験を積むことができた。優勝本命たちの走りを実際に間近で見ることで、総合争いのやり方を学ぶことが出来たからね」

一方でやはり周囲からはサプライズのように受け止められたが——過去のグランツール最高成績は2010年ツールの総合6位だった——、ヘシェダルの総合優勝は実際は入念に準備されたものだった。昨年11月の時点でチームマネージャーから「2012年ジロはお前向きのコースだ。チームのリーダーとして、総合を狙っていけ」との指示が出され、この5月に向けてハードなトレーニングを積んできたという。そしてこの日はコースを半分ほど走った時点でついに「仮想」マリア・ローザの座につき、ゴール前5kmで本人も「いける」と確信した。

全身ピンク色に包まれて、最後にミラノ市内を一周したロドリゲスは、それでも、ゴール前150mの最後のカーブまで信じることをやめなかった。しかし、まさにその最後のカーブ直前で、ヘシェダルの逆転優勝と、ロドリゲスの敗北が確定した。ヘシェダルのゴールタイムは34分15秒、一方のロドリゲスは35分02秒。……総合ではわずか16秒差で、ジロ・デ・イタリア史上初めてのカナダ人総合覇者が誕生した!

「なんと表現したらいいのか分からないよ。信じられない。夢が叶ったね。間違いなくボクのキャリア最高の瞬間だ。マリア・ローザを初めて着た日から、もしかしたらジロを勝つチャンスがあるかもしれない、と信じ始めた。ここ2日間くらいはものすごくハードで、夜もうまく眠れなかった。でもとにかく集中し続けた。何が起こるか分からないから、集中力と警戒心を切らさないよう心がけたんだ」

呆然としたような、青白い顔で表彰台に上ったヘシェダルは、カナダ国歌がドゥオーモ前広場に響き渡ると、ようやく美しい涙で瞳を潤ませた。第10ステージ後と、第15ステージ後の2度失ったマリア・ローザを、3度目は間違いなく自分のものにして見せた。

ロドリゲスにとっては3度目の、辛い経験だった。2010年ブエルタ、2011年ブエルタに続く、タイムトライアルでのリーダージャージ喪失。しかも大会半ばでの失態だった前回2回とは違って、今回は最終日だった。

「確かにボクは、ミスを犯したのだろう。第1週目から動きのあるレースを作って、ライバルたちを突き放していたら、状況は変わっていたかもしれない。もしも昨日デヘントの大逃げを許さなければ、結果も変わっていたはずだ。難関山岳にボーナスタイムがあれば良かったかって?たしかにボーナスタイムがあれば、もっと戦いはヒートアップしたかもしれないね。でもそれで最終結果が変わるとは思えない」

ロドリゲスの「幻」のボーナスタイム合計は40秒、ヘシェダルは20秒。つまり難関山岳ステージにボーナスタイムが設置されていれば、ロドリゲスが4秒リードで総合優勝を果たしていたことになる。ちなみに近年のツール・ド・フランスのように、ボーナスタイム制度自体が存在しなければ、逆にヘシェダルの総合リードは44秒に広がる。また個人TT2回とチームTTとでヘシェダルがロドリゲスにつけたリードは66秒だった。

こうして2012年ジロ・デ・イタリアはミラノで幕を閉じた。来年の大会には「フランスに突入してガリビエ登坂が組み込まれるのではない」か、というジロらしい大胆な噂をふりまきながら。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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