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サイクル ロードレース コラム 2012年7月2日

ツール・ド・フランス2012 第1ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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初エシャペ、初マイヨ・ア・ポワ

爽やかな気候に恵まれたリエージュの町から、参加全198選手が一斉に走り出していく。いよいよ本格的なツールの直接対決の幕開けだ。もちろんグランツールの第1ステージというのは、いつだってたくさんの意欲に満ちあふれているもの。なにしろ初めての逃げ、初めての峠、初めての中間スプリントとなにからなにまで初めて尽くしで、しかも扉は全員に大きく開かれている!

「今日のチームの第一目標はマイヨ・ア・ポワ。逃げの指示が出ています。もちろん、ボクも、逃げを狙います」

新城幸也(チーム ユーロップカー)は毅然とした表情でスタート前にこう語った。前夜のタイムトライアル時には、チームリーダーのトマ・ヴォクレールやピエール・ローランに、地元ファンからの意地悪なブーイングが降り注いだ。ゼネラルマネージャー、ベルノドーの疲れた表情が、数日前からの騒動の影響を物語っている。チームの健全な姿をアピールするためにも、選手たちの誇りを取り戻すためにも、チーム ユーロップカーは絶対にエスケープに乗る必要があった。

そして新城のチームメートのヨアン・ジェーヌが、第1ステージのスタートと同時に2012年ツール・ド・フランス最初の逃げ集団に滑り込んだ。一緒に飛び出したのはパブロ・ウルタスン(エウスカルテル・エウスカディ)、マキシム・ブエ(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)、ニコラ・エデ(コフィディスルクレディーアンリーニュ)、アントニー・ドゥラプラス(ソール・ソジャサン)、ミカエル・モルコフ(チーム サクソバンク・ティンコフバンク)の5人。リエージュ〜バストーニュ〜リエージュでおなじみの、緑に彩られたアップダウンの多い細く曲がりくねった道を、先頭で突き進んでいく。

ステージ中には5つの4級峠が待ち構えていた。山岳ポイントが与えられるのは上位通過1人だけ。初めての山岳では、モルコフが素早く先頭通過を果たす。さらに2つ目と4つ目の山岳でも頂目指して激しいスプリントを打ち、計3ptを懐に収めた。最後の峠=ゴールへと向かう激坂を待つことなく、平らな国デンマーク生まれトラック競技出身のモルコフが、2012年ツールの最初の山岳ジャージを確実なものとした。

緑を巡る激戦スタート

かわいらしい赤玉ジャージを数日間身にまとうための争いは、エスケープ内だけで決した。しかしキング・オブ・スプリンターの座を巡る争いは、後方プロトンをも巻き込んで、大々的な戦いが繰り広げられた。

前方ではユーロップカーのジェーヌが、第一目標の山岳賞こそ逃したものの、中間スプリントは先頭で仕留めた。ところが中間ポイントは上位通過者15人に与えられるため、エスケープ6人の通過後にも取るべきポイントは残されていた。つまりこの9枠を巡って、激しいミニスプリントが勃発。結果、マシュー・ゴス(オリカ グリーンエッジ)が小集団トップ通過=7位で9ptを獲得。続いてマーク・カヴェンディッシュ(スカイ プロサイクリング)、アンドレ・グライペル(ロット・ベリソル チーム)マーク・レンショー(ラボバンク サイクリングチーム)、ケニーロバート・ファンヒュンメル(ヴァカンソレイユ・DCM プロサイクリングチーム)、ペーター・サガン(リクイガス・キャノンデール)、ホセホアキン・ロハス(モヴィスターチーム)、ボルト・ボジッチ(アスタナ プロチーム)、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(スカイ プロサイクリング)が着順に入った。

ちなみにジェーヌも、上記の名だたるスプリンターたちも、ステージ終了後に緑色のジャージを手に入れることは叶わなかった。それでも初日から中間スプリントにあえて絡んできたのだ。すなわち上記の選手こそが、今後3週間、パリのシャンゼリゼでのマイヨ・ヴェールを目指してめくるめく戦いを展開して行くに違いない。

この中間スプリントを過ぎたころから、プロトンは徐々に追走モードへと切り替わっていく。マイヨ・ジョーヌ擁するレディオシャック・ニッサンはコントロールを強化。またスピードが上がると共に、集団内の緊張感が高まり、グランツール初日「名物」の集団落車も幾度か発生した。総合候補のアレハンドロ・バルベルデ(モヴィスターチーム)が巻き込まれ、一時は小さな分断にはまってしまうハプニングも。幸いにも2009年ブエルタ勝者は、集団復帰に成功。4年ぶりのツール挑戦を、第1ステージで棒にふらずに済んだ。

そして大会初めての逃げは、グランツールの大いなる伝統に則って、ゴール前8.5kmで終止符が打たれた。そのままツール・ド・フランスの伝統からは少々外れた——フィリップ・ジルベール(BMCレーシングチーム)に言わせるとむしろジロ・デ・イタリア風の——、激坂フィニッシュへと大急ぎで向かって行く。

ここにきて複数のチームが、ゴールまで続く2.4kmの上り坂を攻略しようと、1日中働いてきたレディオシャックから主導権を奪い取った。こういった類のゴールを得意とするジルベールとカデル・エヴァンス擁するBMC、春先のアルデンヌクラシックでも仕事に励んだロット・ベリソル チーム、そしてミラノ〜サンレモ勝者サイモン・ゲランスを支えるオリカ グリーンエッジ。さらには坂道に突入すると、残り1.9km地点で、前日のタイムトライアルで好調さを証明したシルヴァン・シャヴァネル(オメガファルマ・クイックステップ)がアタックを打った。

カニバルは誰だ!?

「ボクらチームはステージ中ずっと仕事をし続けてきた。ほかのチームはほとんど助けてくれなかった。だからこう思ったんだ。攻撃こそが最大の防御なり、って」

ゴール後にこう語ったマイヨ・ジョーヌのファビアン・カンチェラーラ(レディオシャック・ニッサン)は、わずか7秒差のシャヴァネルの攻撃に、たまらず、自らが飛び出した。2010年にツール・デ・フランドル最大の激坂カペル・ミュールで「瞬間移動」さながらの加速を見せた石畳クラシックハンターは、この日は、アルデンヌ巧者をほぼ全員まとめてあっという間に葬り去った!

「まったく自分でも自分がどうしちゃったのか分からないんだよ。昨日の勝利で、調子がいいことは感じていた。だけど昨日は6.4kmの平坦タイムトライアルで、今日は200km近くアップダウンの続く厳しいステージ。まったく状況が違うからね。今日は1日中ハードに走り続けてきた上に、最後の厳しい場面であの走りが見せられた。確かにボクはもう1勝上げる絶好のチャンスを、失ってしまったのかもしれない。でもこんな新しい体験のおかげで自信が強まったし、今後に向けてのモチベーションがさらにかきたてられた」

2007年大会の第3ステージではマイヨ・ジョーヌ姿で見事なアタックを成功させ、カニバル(人食い)とさえ呼ばれたカンチェッラーラは、今回は最終的には敗者となる。加速と同時に、サガンにぴったり張り付かれてしまったからだ。大会前に「区間勝利とマイヨ・ジョーヌとマイヨ・ヴェールを狙う」と欲張りな願をかけていた若者は、カンチェラーラの動きを事前に察知していたと言う。

「シャヴァネルが加速したとき、『ここでカウンターを仕掛けられるのは、カンチェラーラ1人しかいないはずだ』って分かっていた。しかも彼が勾配の最もキツイ部分で加速してくるだろうと予測していたんだよ。だからアタックを仕掛けたカンチェラーラの背中に、ためらわず飛びついた。本当はそのまま追い越せたらよかったんだけどね。とにかくあの段階では、彼のリズムについていけたことだけで成功だと思った」

先輩からのリレー交替の要求はきっぱりはねつけて、じっと力を温存し続けた。その後ボアッソンハーゲンの追いつきを許すものの、3人でのゴール前スプリントの行方は、火を見るよりも明らかだった。5月のツアー・オブ・カリフォルニアでスプリント5勝を、6月のツール・ド・スイスでやはり区間5勝を荒稼ぎしてきたサガンが、……いくら勝っても勝ってもまるで腹ペコがおさまらない様子の食べ盛りが、他人に簡単に勝ちを譲ってしまうわけはなかったからだ。

世界最大のレースに大それた野望を抱いて、しかし「ノープレッシャー」で乗り込んできた恐るべき22歳と6ヵ月は、初参加2日目にして、ツールの歴史に早くも名前を刻みつけた。1993年大会で21歳10ヶ月という若さで区間記録を上げたランス・アームストロングには及ばなかったけれど……。表彰台では本家カニバル(もちろん史上最大のチャンピオン、エディ・メルクス!)と握手をする幸運にも恵まれた。

「今後ボクも偉大なるグランツールレーサーになれるだろうって?え、へ、へ。それが本当だったら嬉しいな。でもそんなに先のことはまだ考えない。まずは区間勝利を上げられたことが本当に大切。そしてマイヨ・ヴェールにも大きく近づいたこともね」

負けると分かっていても最後まで諦めきれない性分、と自己分析するカンチェッラーラが、スプリント2位でマイヨ・ジョーヌを見事に守っただけでなく、マイヨ・ヴェールも独占した。ボアッソンハーゲンは3位。地元勝利を目指したジルベールは4位に甘んじ、大多数の総合本命たちはサガンと同タイムの先頭集団でステージを終えている。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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