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サイクル ロードレース コラム 2012年7月10日

ツール・ド・フランス2012 第9ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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Vivement le jour de repos!

ひどく蒸し蒸しした暑さの中で、178人の選手たちは、休養日前の最後の試練へと走り出した。アップダウンの多い、細く、曲がりくねった41.5kmの孤独な戦い。すでに10日間休みなく走り続けてきた選手たちにとっては、決して簡単な1時間弱ではなかった。

「いやー、きつかったです。アップダウンも多かったし、脚が上手く回らなくって。しかも道がくねくねしていたので、前方の地形が良く見えなくて上手くリズムが取れませんでしたね。でも、ボクは総合を狙って走っているわけではないので、取り戻すべきタイム差があるわけでもない。むしろ、この先の戦いにつなげるために、脚を回す日。そう割り切って、きちんと走り終えることだけに集中しました」

ただし疲れはほとんどない、と語る新城幸也は、58分38秒33の短くて長い1日を終えた。ゴール後は190kmの移動を経て、待ちに待った1回目の休養地マコンへとたどり着く。ゆっくり昼寝がしたいなぁ……と新城は笑顔を見せた。

たいていの選手が、新城同様、ゴール後にはほっとしたような笑顔になったものだ。ただし本気でステージ優勝を狙っていた選手たちは、走り終わってもすぐにリラックスできなかった。例えば第1ステージの落車で舟骨骨折し、以来大いに苦しみながらも今回のタイムトライアルのためだけに走り続けたトニー・マルティン(オメガファルマ・クイックステップ)は、53分40秒05の暫定トップタイムを出してもまるで喜べなかった。

「まったくいい1日にはならなかったね。最終盤はなんとかいいリズムに乗れたけど……。コースはボク向きだったから、ケガさえなければ勝てたと思うんだけど。今日は優勝は無理だと思うよ」

それから約3時間後に、マルティンの予言は当たることになる。

ピュアスペシャリストたちの敗北

タイムトライアル世界チャンピオンの記録を塗り替えたのは、誰もが予想していたように、五輪金メダリストだった。リエージュでのプロローグを最短時間で駆け抜けたファビアン・カンチェラーラ(レディオシャック・ニッサン)が、1分20秒近くも上回る52分21秒04で、暫定首位に躍り出る。

「山岳2連戦は厳しかったが、ただ『タイムトライアルステージを100%で迎えたい』とだけ考えて走った。そして今日は納得の行くいい走りができた。だから満足だ。これで休養日明けから、チームのために全力を尽くして働くことができる。もしかしたら他の選手に追い抜かれてしまうかもしれないけれど、自分の走りができたことが一番大切なんだ」

果たしてカンチェラーラの不安は的中したのだろうか?

フランスチャンピオンジャージ姿で快走を見せたシルヴァン・シャヴァネル(オメガファルマ・クイックステップ)は、しかし27秒足りなかった。若きティージェイ・ヴァンガーデレン(BMCレーシングチーム)は第1・第2中間計測地点でカンチェの記録を上回ったが、ゴールではわずか9秒差で暫定2位に甘んじた。幸いにも2日前に失ったマイヨ・ブランを取り戻すのには、十分なタイムだった。しかし本当の脅威は、スカイ プロサイクリングの「山岳アシスト」クリス・フルームだった。51分59秒60……マイヨ・ジョーヌ保守の日々と山岳2連戦で少々疲れていたとは言え、タイムトライアル世界選手権4回優勝のスーパースペシャリストの数字を、22秒も塗り替えてしまったのだ!

とは言っても昨年のブエルタ・ア・エスパーニャの47kmのタイムトライアルでは、絶好調マルティンとチームリーダーのブラドレー・ウィギンス(スカイ プロサイクリング)の間に割り入って、すでに区間2位の好成績を出している。ゴール後にはリーダージャージのマイヨ・ロホさえ身にまとった。だから決してサプライズではなかったのだが、それでも間違いなくセンセーショナルだった。

「確かにいい走りができた。でも、まだビッグネームたちがたくさん残ってる。特にウィギンスがいるからね」

フィニッシュラインを超えた直後にローラー台に飛び乗ったケニア出身の英国人は、さらりと笑顔でこう言ってのけた。

残るは2位争い?

あらゆる選手の予言や不安は、つまりは的中した。178人中最後にスタート台から滑り出したウィギンスが、まごうことなくトップタイムを叩き出した。

51分24秒50。フルームを35秒、そしてカンチェラーラを57秒も突き放して、ウィギンスは(意外なことに)初めてのツール区間勝利をもぎ取った!6月にコースをじっくり下見して、万全の体制で臨んだ成果だった。それにしても驚くべきは、かつての個人追抜トラック世界王者&五輪金メダリストは、ヒルクライム能力向上のために体重を10kg(80kg台から71kgへ)も絞ったというのに、独走能力を全く失っていないこと。

「トラックはボクを育ててくれた学校のようなもんだからね。少年時代から、追抜の練習として、何キロも同じポジションを崩さずに走り続ける練習をみっちり積んできたんだ。それに昨冬には風洞実験で、さらにタイムを向上させるための完璧なポジションを追い求めた。うん、今日のポジションは文句なし!」

そしてあらゆる関係者の杞憂も、半ば的中してしまったようだ。「もしかしたら、このタイムトライアルで2012年ツールが終わるのではないか……」という、恐ろしい不安だった。なにしろツールが誇る長い歴史の中で、この日のゴール地ブザンソンが舞台となったタイムトライアルが過去4回。そのうち実に3人が、パリにてマイヨ・ジョーヌを手にしているからだ!

スタート前に「失っていいのは3分まで」と考えていたヴィンチェンツォ・ニーバリ(リクイガス・キャノンデール)が、遅れを2分07秒で食い止められたのはむしろ上出来だったのかもしれない。一方で本来タイムトライアル巧者のはずのデニス・メンショフ(カチューシャ チーム)が2分08秒もタイムを失ったのは、少々残念だった。とにかくニーバリとメンショフは総合3位に乱入してきたフルーム(2分07秒差)に押されて、それぞれ総合4位(2分23秒差)と総合5位(3分02秒差)に後退。

しかし最大の失望は、カデル・エヴァンス(BMCレーシングチーム)だった。コース設定が起伏に富むものだったため、事前には「エヴァンス向き」と評判だったはずだ。いや、「クリテリウム・ドュ・ドーフィネのときよりは、惨めな結果にならないだろう」という表現の方が正しいだろうか。そのドーフィネでは53.5kmの平坦なタイムトライアルで、1分43秒を失ってた。当時は「エヴァンスは7月に向けて調整中なだけかもしれない。だからこの成績を見て、絶対に楽観視はしてはいけない」と、やはりマイヨ・ジョーヌ姿で区間を制したウィギンスは語っていた。

しかし7月の第2月曜日、走り出してわずか数キロで、両者の違いは明らかになった。その後41.5kmに渡ってタイム差はじわじわと開いて行き、決して縮まることはなかった。なんとも皮肉なことに、この日のディフェンディングチャンピオンが最大のライバルから失ったタイムは1分43秒!ドーフィネとまるで同タイムだ。これはすなわち、エヴァンスの総合順位は2番目のままで変わらないが、タイム差は10秒から1分53秒差に広がってしまったことを意味する。

「(エヴァンスとのタイム差には)とくに驚いたりしなかった。というか、一切何も予測や期待を持たずに今日のステージに臨んだから。どれくらいギャップをつけよう、とか、どれくらいの順位をとろう、とか考えないようにした。あるがままの出来事を、受け入れる。それだけさ。ボクがすでにツールを勝ったかって?それはないね。ツールはまだまだ長いんだ。何だって起こりえる。去年のボクは落車骨折でリタイアに追い込まれたし……」

計算どおりに、しかし「情熱に突き動かされて」、ウィギンスは今大会ここまであらゆる試みを成功させてきた。後半の11日間も、果たして全てをパーフェクトに進められるのか。ウィギンスが今シーズン制した3つのステージレースは、大会期間が最高が8日間。つまりこの先は、スカイ戦車にとって未知の領域となる。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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