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サイクル ロードレース コラム 2012年7月12日

ツール・ド・フランス2012 第10ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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天晴れ!新城の大仕事

たとえちょっとした騒ぎは起こっても……、休養日のおかげで選手たちは体をゆっくりと休めて、頭を切り替えることができたようだ。マイヨ・ジョーヌに想像以上のタイム差をつけられてしまった総合ライバルたちは、それぞれに「アタックする」と頼もしく宣言。すでに総合上位入りを諦めた選手たちも、「別の目標、つまり区間勝利を狙いに行く」と力強く語った。スタート地は休み明け特有のにこやかでのんびりとした雰囲気に包まれたが——しかもようやく気持ちの良いお日様に恵まれて——、2012年ツール初めての難関山岳ステージの幕が開けると同時に、プロトンに残る175選手は激しいバトルへと突っ込んで行った。

スタート地マコンの名物料理にちなんで、色のカエルの人形をハンドルにくっつけて出走サイン台に現われたペーター・サガン(リクイガス・キャノンデール)が、エスケープのきっかけを作った。マイヨ・ヴェールの後方では幾度ものカウンターアタックが巻き起こり、大量25人の逃げ集団が出来上がる。しかも11人がツール区間勝利経験者で、4人がマイヨ・ジョーヌ経験者というビッグネーム揃い。また22チーム中16チームが前方に選手を送り込み、そのうち8チームが複数選手での逃げ参加だった。

「今日のボクは、逃げる係じゃなかったんです。逃げを潰したり、逃げと逃げをつないだで新しい逃げを生むような、そういう仕事を任されていたんです。でもいつの間にか、逃げに入っていた」

ゴール後にこんな風に語った新城幸也(チーム ユーロップカー)も、時速49.8kmもの高速アタック合戦をかいくぐって、首尾よく前集団に滑り込んだ。チームが2人抱えるリーダーのひとり、トマ・ヴォクレールと共に!

「集団内では誰もがトマを警戒していた。当然だよね。それにほかにも有力選手がたくさん紛れ込んでいた。そんな中で、ユキヤはすごい仕事をしてくれたね。集団牽引を長時間引き受けて、ときにはパンクしたトマを集団まで引き連れてくれた。チームリーダーはトマ。勝ちに行くのもトマ。この動かしようのない事実をしっかり理解して、ユキヤは犠牲になってくれたんだ」

逃げ集団についたチームカーを運転していた、ユーロップカー監督アンディ・フリカンジェは新城の仕事を高く評価する。実はビッグネームたちは互いに警戒し合い、またマシュー・ゴス(オリカ グリーンエッジ)やヨーヘニ・ウタロービッチ(FDJ・ビッグマット)、そしてもちろんサガンといった中間ポイント獲得を目指す選手たちは「引かない」と宣言さえしていたという。

「そのせいでタイム差がなかなか7分以上に開かなかったから、必死で引いたんですよ。グラン・コロンビエ峠の上りに入ってからも、それでも2kmくらい…は引けたかな?いやー、ものすごく疲れました!」

新城の仕事は、幸いにも、後々、見事に実を結んだ。「山に入る前の谷間と、山の入り口で、ユキヤは大仕事をしてくれたね」と、公式記者会見ではリーダーからお褒めの言葉も頂戴することになる。

痛みを越えて

例の中間ポイント通過直前に、ようやくタイム差は7分以上に開いた。逃げに潜り込んでいた3スプリンターだけがポイント収集に挑み、上記の順番でラインを無事に通過した。そしてツール初登坂、しかし6月序盤のクリテリウム・ドュ・ドーフィネでプロトンの大半の選手が走った経験を持つグラン・コロンビエで新城が上りで渾身の仕事を終えると、いよいよ、ヴォクレールが区間勝利へ向けての真剣勝負に取りかかる番だった。

集団内の強豪で、真っ先に加速を切ったのは2011年ジロ王者ミケーレ・スカルポーニ(ランプレ・ISD)だった。5月のジロでは最終日に表彰台から滑り落ちた。しかも総合上位入りの夢を抱いて乗り込んできた今ツールでは、すでに10分27秒も失っていた。スタート前は逃げに乗るつもりではなかったけれど——むしろ第11ステージに何かしようかな、と考えていたようだ——、一旦逃げに乗ってからは、区間勝利を念頭に走った。つまり平坦部分ではまったくリレー交替に協力せず、この山に向けて力をためていた。こんな山岳巧者の攻撃に、ついていけたのはツール区間2勝&マイヨ・ジョーヌ通算20日間ヴォクレール、ツール区間3勝ルイスレオン・サンチェス(ラボバンク サイクリングチーム)、そしてドゥリース・デーヴェニィンス(オメガファルマ・クイックステップ)だけ。エスケープ集団は一気に4人にまで絞りこまれた。

「スタート前の時点で、今日はどんなに逃げても、マイヨ・ジョーヌは取れないだろうと思っていた。でも、山岳賞の可能性があることは分かっていたんだ。だから、うん、マイヨ・ア・ポワを狙って行ったよ」

ヴォクレールは細心の注意を払いつつ、今大会初の「超級カテゴリー」グラン・コロンビエの山岳ポイントを取りに行った(先頭25pt)。スカルポーニの登坂能力、LLサンチェスのダウンヒル能力を恐れながら……。実際、逃げる4人は、それぞれに互いを極端なほどに危険視していた。「それでもボクが一番、監視されていたような気がするけどね」と語ったヴォクレール自身は、チャンスを読み取る能力と痛みに耐える能力においては、プロトン内でも群を抜く。また山頂通過の時点でタイム差は6分近くあり、後方でとんでもない戦いが勃発しない限りは逃げ切りほぼ確実と見られていただけに、なおのこと、区間勝利に向かって早めの警戒合戦が始まっていたのだ。

そんなギリギリの力比べをしているうちに、やはり区間3勝イェンス・フォイクト(レディオシャック・ニッサン)が、じわじわと後ろから迫ってきた。第8ステージでも逃げにトライした大ベテランは、グラン・コロンビエは無茶せずマイペースで上り、下りや谷間を利用してテンポを上げると、まるで衰えぬルーラー能力で……ゴール前9kmで4人を捕らえてしまった!しかも追いついたと同時に、お見合いしていた4人を置き去りにしてしまう。40歳と10ヶ月の大ベテランは、迷わず、ひたすら突進した。

慌ててヴォクレール「だけ」が追走に力を使った。しかしフォイクトに追いつくと同時に、今度はデーヴェニィンスにアタックを打たれてしまう。再びヴォクレールは行こうとするが、LLサンチェスとスカルポーニがただ何もせずに張り付いているのを見て、一旦は努力を放棄してしまった。

「彼ら2人は力を使いたがらなくて、ボクは『お前たちも行けよ』と怒鳴ったんだ。でも監督のフリカンジェから言われた。『トマ、お前が行け!自分を犠牲にしろ。後悔はだめだ。上手く行かなかったら、それはそれでしょうがない』って。あの言葉がなかったら、あのまま終わっていたかもしれない」

そしてゴール前1.6km、ヴォクレールは潔くアタックを打った。ライバルたちを一瞬で突き放すことはできたが、それでもLLサンチェスとスカルポーニがぎりぎり背後まで追い上げてきた。数日前よりは随分良くなっていたが、大会前に痛めたヒザが、ステージ最終盤には悲鳴を上げていた。

「下りでヒザが冷えてしまったせいで、痛みがぶり返していた。でも、周りの選手たちには気がつかれぬよう、慎重にふるまったんだ」

フィニッシュラインまで5m。ようやく勝利を確信することができた。しかも全身全霊を尽くしたせいで、両手を上げる体力すら残っていなかった。3つ目の区間勝利には、おなじみの黄色い衣装こそなかったけれど、赤玉ジャージと赤色のゼッケンがセットでついてきた。チームリーダーから15分04秒遅れでゴールにたどり着いた新城幸也は、満面の笑顔だった。

抜け出せた者、抜け出せなかった者

「これぞまさしくトマ・ヴォクレール、というやり方だったね。チームを率いるリーダーが、またしても素晴らしい模範を見せてくれた。彼こそ本物のボスだ」

チームユーロップカーのもう1人のリーダー、若きピエール・ローランも、ゴール後にヴォクレールを大絶賛する。このローランもまた、執念を見せた。スカイ プロサイクリングが敷く厳しい厳戒態勢をかいくぐって。

最初に反旗を翻したのは、第8ステージと同じ、またしてもユルゲン・ヴァンデンブロック(ロット・ベリソル チーム)だった。5分20秒差で総合9位につけていたVDBは、グラン・コロンビアの上りで2度のアタックを試みる。いずれもスカイのソルジャーたちに隊列へとすぐさま引き戻されたが、山頂間際では3度目のトライ。ローランもすかさず反応し、高速で下りへと突っ込んだ。ただしこの企ては、すぐさま中和されてしまう。プロトン随一のダウンヒラー、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(リクイガス・キャノンデール)が特攻をしかけたせいだ。

ニーバリも第8ステージの下りで、軽いジャブをかましていた。そしてこの日は約13kmという長いダウンヒルで、ライバルたちを煙に巻いた!しかもエスケープ集団からはとっくに脱落していたけれど、前方をテンポ良く走り続けていたサガンが、アシスト役にはせ参じる。マウンテンバイク出身で、下りへの恐怖心などまるで持ち合わせない22歳は、持てる力をリーダーのために尽くした。おおかげでニーバリはマイヨ・ジョーヌ集団から一時は1分ものリードを奪うことに成功する。しかし……。

「ニーバリが下りでアタックすることは、予測済みだった。だからパニックに陥ったりはしなかったさ。しかもゴールまではまだまだ遠かったから、逃げ切るのが難しいだろうとことは分かっていたんだ」

こう語ったように、後方ではウィギンスが冷静に部下たちに指示を飛ばした。下りでアシストの1人、マイケル・ロジャースがメカトラブルで後退するハプニングも起こったが、最終3級峠の上りで、2010年ブエルタ王者の回収を遂行した。

一方で最終峠の山頂間近では、またしてもローランとヴァンデンブロックがアタックを打った。休養日の記者会見でヴォクレールが「ローランは山岳ステージの最終盤にアタックすべきだね。すでに総合で10分遅れているから、おそらく、スカイも『2、3分くれてやっても構わないさ』と見逃してくれるはず。これでタイムを稼げる」と予言していた通り、ゴール前20kmでの飛び出しに、今度はスカイ隊列は特別な介入は行わなかった。むしろカデル・エヴァンス(BMCレーシングチーム)の攻撃に、目を光らせるほうを選んだようだ。

ヴォクレールが感激的な勝利を手にした2分44秒後に、ローランとヴァンデンブロックはフィニッシュラインを超えた。これはつまりウィギンス集団よりも32秒早いゴールであり、ヴァンデンブロックは総合成績を1つ上げて4分48秒差の8位に、ローランは25位から20位へとジャンプアップを成功させた。ウィギンスを筆頭とする総合トップ7には、一切の変更はなかった。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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