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サイクル ロードレース コラム 2012年7月13日

ツール・ド・フランス2012 第11ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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騒がしく1日は始まって

「すごく長い上りと、すごく長い下りしかないステージ。しかも距離がとんでもなく短いから……、おそらく激しい動きが見られるだろうね!」。スカイ プロサイクリングのベルンハルト・アイゼルは、スタート地でこう予言した。「でも、ボクらチームはいつも通りの仕事をするだけさ」

確かに動きの多いステージだった。まずはスタートと同時にとてつもなく多くの選手が激しいアタック合戦へと飛び込んだ。14.5km地点から上り始める超級マドレーヌ峠の麓では、エスケープ集団はなんと30人ほどにまで膨れ上がった。しかも、まんまと逃げ出した集団は、いつまでたっても離合集散を止めなかった。

登坂距離が25.3kmと飛び切り長いマドレーヌ峠の山頂間近では、ピーター・ベリトス(オメガファルマ・クイックステップ)と、前日失った山岳ジャージを取り返したいフレデリック・ケシアコフ(アスタナ プロチーム)の2人が飛び出した。下り距離が19kmとやはり長い下りを終えると、再び22人の大集団に戻った。続くクロワ・ド・フェール峠の22.4kmの長い上りでは、クリストフ・ケルヌがリーダーのローランのために強烈な牽引を行い、集団は7人にまで数を減らした。下りではまたしても出戻り組みを迎え入れて……。

5.7kmの短い2級モラール峠での上りではローラン、ロベルト・キセロフスキー(アスタナ プロチーム)、ヴァシル・キリエンカ(モヴィスター チーム)の3人に絞り込まれた。下りのカーブでローランが落車し、一旦は遅れを取ったが、無事に他の2人に合流。ついでにクリスアンケル・セレンセン(チーム サクソバンク・ティンコフバンク)の復帰も迎え入れた。

こうしてあらゆるセレクションをかいくぐり、勝ち残った4選手が、最終峠ラ・トゥスィールへの上りへと先頭で飛び込んだ。マイヨ・ジョーヌ集団とのタイム差は3分半。山頂までの逃げ切りが見えてきた。

衝撃走る!

前方の騒がしさとは対照的に、後方ではマイヨ・ジョーヌのブラドレー・ウィギンス(スカイ プロサイクリング)擁するスカイ列車が、退屈なほどにきっちりと管理していた。単に自分たちのスピードに付いて来れない選手を、後ろからどんどん足切りしていくだけ。

ところがクロワ・ド・フェール峠の上りで、メイン集団に騒ぎが飛び火する。きっかけは、新人賞マイヨ・ブラン姿のティージェイ・ヴァンガーデレン(BMCレーシングチーム)が、目立たぬようにすぅーっと前に出たこと。そのまま、飛び出しを見逃されたこと。

すると、続いて、なんとカデル・エヴァンス(BMCレーシングチーム)が飛び出した!開幕前の「守る立場」から、すっかり「追う立場」にまわった2011年ツール・ド・フランス総合勝者は、すぐさま前で待っていたヴァンガーデレンと合流。さらにはエスケープ集団に送り込んでいた山岳アシストのアマエル・モワナールも呼び戻して、果敢に前方へと突き進んだ。ゴールまでいまだ65km近く残っていたというのに。

「驚いたね。いや、エヴァンスのアタックに驚いたんじゃなくて、あれほどゴールまで遠い時点でアタックをかけたことに驚いたんだ。しかもポートとロジャースとで、厳しいテンポを刻んでいる真っ最中だったからね」

ゴール後にこう語ったウィギンスは、さすがに1分53秒差・総合2位の飛び出しに、さらなる加速命令を下さざるを得なかった。山岳護衛トリオの1人、マイケル・ロジャースが厳しい牽引を行う。

勢い良く一気に20秒ほどのリードを奪ったエヴァンスだが……、徐々にヴァンガーデレンのスピードにさえついて行けなくなってしまう。61km地点では最後の力を振り絞って再加速を切るも、その直後にマイヨ・ジョーヌ集団に飲み込まれて行った。ディフェンディングチャンピオンの捨て身の挑戦は、わずか15分ほどで幕を閉じた。

その後メイン集団の強豪たちは、最終峠まで動きを見せなかった。前方集団では様々な動きが見られたモラール峠は——道幅の狭い急な下り坂は、特攻向きだと言われていたが——、来るべきバトルに向けた静かなる準備の場となった。

ヒルクライマーの証明

最終峠の上りに入っても、あいかわらず前方集団は加速ごっこが続いていた。しかしゴール前10km、ついにローランが大きな一撃を決めた。昨大会でラルプ・デュエズを制したヒルクライマーが、今年もアルプス最難関ステージで強烈な山の脚を見せた。

「コースが発表された6ヶ月前から、このステージに狙いをつけていたんだ。そのために全てを犠牲にしてトレーニングに励んできた。あらゆるシナリオを想定して臨んだ。自分の限界まで突き進んだ。脚も、頭も、もはや何も感じなくなってしまうほどに。本気でこのステージが欲しくて、欲しくてたまらなかった」

昨年の新人賞は、今大会は総合争いに食い込むことを期待されていたし、自らも期待していた。しかし開幕前にチームに関するいわれのない噂が流れたせいで、観客からブーイングを浴びせかけられ、「もう家に帰りたい」と悩んだという。さらに第6ステージの集団落車で大きくタイムを失い、期待されていた総合上位争いからもあっさり脱落してしまった。それでも、諦めない走りを続けてきた。

「今年はいずれにせよタイムトライアルが長いから、ボク向きのコースではなかったんだ。それでも、総合上位を狙おうと本気で考えていた。だってこの1年を無駄にしたくなかったし、毎日前線でトップ選手たちと張り合う経験を積みたかったから。そしてこの経験が、きっと未来につながると思ったからなんだ」

こう語るローランにとっては、2年連続2回目のアルプス難関山頂フィニッシュ制覇。そしてチームユーロップカーにとっては、前日のトマ・ヴォクレールに続く2日連続のステージ優勝。今回の逃げ切り勝利のおかげで、ローランは総合20位から総合9位へと一気にジャンプアップを成功させた!この先のピレネーでも「未来のための経験作り」を続けていくはずだから、さらに順位を上げるチャンスが訪れるかもしれない。ユーロップカーの監督アンディ・フリカンジェは、「総合5位入りも可能だ」と自信を見せている。

集中砲火

ローランが夢中で勝利を追い求めた背後では、スカイ軍が、かつてないほどの矢面に立たされた。ラ・トゥスィール最終峠に入ると共にロジャースが仕事を終え、リッチー・ポート(スカイ プロサイクリング)が先導役を務めていた。そんな時だった。

ゴール前13km。ここまで密かに総合13位につけていたヤネス・ブライコヴィッチ(アスタナ プロチーム)が、突如としてアタックを仕掛けた。呼応するように、連日攻撃を続けているユルゲン・ヴァンデンブロック(ロット・ベリソル チーム)と第8ステージ覇者ティボー・ピノ(FDJ・ビッグマット)も、タンデム戦法でチャンスを狙いに行く。……さらには、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(リクイガス・キャノンデール)さえも、思い切った飛び出しを仕掛けた!

これにはたまらず、クリス・フルーム(スカイ プロサイクリング)が猛スピードで追いかける。ウィギンスから総合2分23秒遅れの、そしてフルーム自身から16秒遅れのニーバリを潰しにかかった。おかげでマイヨ・ジョーヌ集団は急激に小さくなり、ニーバリを引き止めることもできたが、もう1人のスカイアシスト、ポートも一緒に置き去りにされてしまった。そして再び、ゴール前10kmで、ニーバリのアタックが投下される。

「ニーバリは本当に強いところを見せ付けたね。すごいアタックだった」

前日のちょっとした騒動を受けて(ニーバリを見下した、とか、そうじゃない、とか)、ウィギンスはきちんと言葉に出して、ライバルに敬意を表した。いや、ある意味では、むしろ感謝の意を伝えたかったのかもしれない。もちろん2度目の攻撃は極めて鋭く、意を付かれただけでなく、ブライコヴィッチ、VDB、ピノに追いついたニーバリに一時30秒近いリードを与えてしまった。そのせいでフルームと並んで大将自らも追走の脚を使う羽目になった。しかし急加速の影響で、エヴァンスがたまらず千切れた。ウィギンスに総合で最も近かった男が、自ら崩れ落ちていってしまったのだ。

「これまでで一番難しいステージだった。だからゴールが近づくにつれて、残り距離が少なくなっていくにつれて、ホッとする気持ちが大きくなって行ったんだ。それに、エヴァンスが落ちたからね。想像以上のタイム差をつけることができたよ」

まあ、ウィギンスが安心してしまうにはまだまだ早すぎたのだが、ともかく「最大のライバル」と謳われてきたディフェンディングチャンピオンからは、ラスト5.5kmだけで1分27秒を奪い取った。エヴァンスは総合では3分19秒遅れとなり、2位から4位に後退。連覇の夢は大きく遠ざかった。

2度目のアタックからニーバリが回収された直後に、ウィギンス最大の危機が訪れる。おそらく2012年ツールのベストクライマーであり、指折りのタイムトライアリストでもあり、なにより……ウィギンスの山岳アシストを務めるフルームが、切れ味鋭い飛び出しを見せてしまったからだ!しかも肝心のウィギンスは、ぽつんと孤立した状態で後方に取り残された。

「自分自身の走りに集中していたし、単に自分のリズムで上りたいと思っていただけなんだ。でも、何か混乱が生じたようだった。雑音が多すぎて無線が良く聞き取れなくなっていたから、ボクは耳から外していた。だから誰がフルームを呼び戻したのか分からないのさ」

リーダーを危険にさらしてまで自らの利を取りに行くつもりはなかった、と語るフルームは慌てて企てを中止。ウィギンスの復帰を助けた。ただし、抑え切れない意欲は、ゴールスプリントへと向けられた。T・ピノと2位を争い、結局は3位に甘んじることになるが、ウィギンスやニーバリから小さな2秒を奪い取ることに成功した。

ついに総合ではウィギンスとフルームのスカイ軍が上位2位を独占した。ニーバリはいよいよ2分23秒差の総合3位へと喰い込んだ。エヴァンスがかろうじて4位に留まっている一方で、デニス・メンショフ(カチューシャ チーム)が4位→16位(16分20秒遅れ)と大きく順位を落とした。また序盤からのエスケープに乗ったフレデリック・ケシアコフ(アスタナ プロチーム)が、わずか1日で大切な山岳賞ジャージを取り戻した。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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