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サイクル ロードレース コラム 2012年7月14日

ツール・ド・フランス2012 第12ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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緊張と緩和

ツール一行の内部には、軽い疲労感が漂っていた。なにしろ短いけれど難関がぎゅっと濃縮されたアルプス難関ステージの翌日に、全長226kmの今大会最長ステージ。しかもリエージュの開幕からちょうど2週間目となり、そろそろ長旅の疲れも蓄積されてきたころ……。それでもツールに残る166人の選手たちは、勇気を奮い起こして、スタート直後から激しいアタック合戦へと飛び込んでいった。

ステージの最初の3分の1で1級峠を2つ乗り越えてしまえば、あとはゴール直前までたいした難所のないコース。だからこそ大急ぎで山を越えてしまおうと、数々のエスケープが企てられ、まずは19人の選手が前に行く切符をつかんだ。

一旦集団が出来上がってからも、スプリンターチームたちは追走を試みたし、なにより数々のカウンターアタックが続いた。しかし、もはや「13日の金曜日」(キリスト教では不吉な日とされているが、フランスでは宝くじなどが当たる幸運な日とも言われている)のチャンスは去ってしまったあとだった。とりわけ2005年7月14日に「フランス革命記念日勝利」を手にしたダヴィ・モンクティエ(コフィディス ルクレディアンリーニュ)が、得意の山で前方を追いかけたが、苦手の下りで落車。37歳のベテランは、人生最後のツールを、救急車に乗って終えることになってしまった。

またマイヨ・ジョーヌのブラドレー・ウィギンス擁するスカイ プロサイクリングも、一定の速いリズムを刻み続けた。総合を脅かす存在のいない前集団にはそれほど注意を払っていなかったのかもしれない。ただし2つの山では「もしも」の事態——落車やメカトラ、そしてライバルたちのアタック——を避けるために、きっちりと集団制御に努めたのだ。しかも2つ目のグラニエ峠の山頂間近では、ジェローム・コッペル(ソール・ソジャサン)のアタックに、なんとウィギンス本人が反応する衝撃的な一幕も!

「あれはアタックでもないし、ジャージをひけらかすためでもないよ。ただコッペルの加速を潰すためだった。チームの『ボーイズ』たちがずっとハードに仕事を続けて来てくれたから、ちょっと自分で動いただけ。コッペルは総合で12分ほど差だったし(11分27秒遅れ)、下りを全力で行かれたくなかった。ただそれだけなんだ」

結局、山をすっかり抜け出してしまうまでは、エスケープ集団は1分45秒程度のリードしか許されなかった。ようやく平地に入り、補給地点へとたどり着くと、プロトンは大幅な減速走行に切り替えた。みるみるタイム差は大量13分にまで開いた。その後しばらくは、プロトンは気持ちのよい陽光をのんびりと満喫することになる。

緑をめぐるあれこれ

2つ目の1級峠でエスケープ集団は一気に5人にまで小さくなった。つまりシリル・ゴチエ(チーム ユーロップカー)、ジャンクリストフ・ペロー(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)、ロベルト・キセロフスキー(アスタナ プロチーム)、デーヴィッド・ミラー(ガーミン・シャープ)、エゴイ・マルティネスデエステバン(エウスカルテル・エウスカディ)が、スカイ軍の特別の恩恵にあずかるった。

本当は何人かの「上れる」スプリンターたちが、マイヨ・ヴェール用のポイント獲得も兼ねて、今ステージの勝利を狙っていた。とりわけマシュー・ゴス(オリカ グリーンエッジ)は逃げ吸収→ゴールスプリントを目論んでいたし、ペーター・サガン(リクイガス・キャノンデール)は2つ目の峠の下りで飛び出しさえ試みた。しかし両者の野望は砕け散った。どんどん距離を開いていくエスケープ集団を、ただ後ろから見送るしかなかった。

もちろん指をくわえて眺めているだけではなかった。中間スプリントでは、多くのスプリンターが6位争いに打って出た。首位サガンからすでに163ptも離されていたケニーロバート・ファンヒュンメル(ヴァカンソレイユ・DCM プロサイクリングチーム)が真っ先に加速を切り、第1週目に「マイヨ・ヴェールは狙わない」と宣言していたアンドレ・グライペル(ロット・ベリソル チーム)さえもスピードを上げたほど。結局はゴスが先頭通過=6位通過を成功。マイヨ・ヴェール姿のサガンも「毎回チャンスがあるたびにコツコツ取って行かなきゃならない」との宣言通り、9位通過を果たす。

フィニッシュラインでも、やはり6位争いのスプリントは加熱した。ゴール前20kmに3級の小さな峠があり、加えてゴールは結構な上り基調。スカイを中心とした総合リーダーを抱えるチームたちが、やはり「もしも」の危険性を排除するために集団前方に押しかけたせいで、ますます闘いは燃え上がった!

「最終盤がハードだったせいで、ストレスは最大限にまで高まっていたんだ。そんなときに、あんなことが起こったもんだからね」

実際に通過したのは7位だったけれど、6位に格上げとなって、まんまと15ptを手にしたサガンは振り返る。ラスト数百メートルで飛び出したゴスとサガンは、一騎打ちを繰り広げた。そしてピュアスプリント力ではやはり一歩優位に立つゴスが、先にラインを越えた。背後からサガンの怒号を浴びせかけられながら。

「ビデオで見直してみたけれど、やっぱり、彼の走りは公正じゃなかった。目の前で突然に進路を変えられたものだから、つい怒鳴っちゃったんだよ。でもあれはダメ。彼がポイントを失ったのはボクのせいじゃない。彼自身のせいなんだよ!」

左から上がってきたサガンの前輪に、右側から左斜め前へと進路を切ったゴスの後輪とが軽く接触。大会審判団は「進路妨害」と判断し、「同集団内の最下位に降格」というルールに従ってゴスの降格処分が下された。……ゴスにとって幸いだったのは、集団がゴスとサガンの2人だけだったこと!8位以下の集団とは1秒差があったおかげで、ゴスはそれでも7位=13ptを確保することはできた。サガンが総計254ptであいかわらずマイヨ・ヴェール争いをリードし、2位のゴスが198ptで追いかける構図は変わらない。

英国チームに栄光あれ!

長い長いエスケープを経て、前方の5人は、ゴール前4kmまできてようやく区間勝負へのバトルへと突入した。アタックを警戒してチラチラと他選手を盗み見していたマルティネスデエステバンが、道が上り始めるタイミングで加速を切る。すぐに勢いが中和されると、続いてキセロフスキーが2度の攻撃を試みる。

「他の選手を行かせてしまわないように、全神経を集中した。アタックごとに潰して回るのは、ひどく骨が折れた。特にペローについていくのは、すごく辛かったよ。限界に近かった。でもゴール前50kmほどから、ずっとスプリントで勝とうと決めていた。だから踏ん張った」

こう語った通り、全てのアタックにミラーは反応した。ラスト2.7kmの上り坂での、ペローの鋭い加速にも必死でついていった。こうして勝負は、ついにミラーとペローの2人に絞り込まれた。最終ストレートでスプリントを最初に仕掛けたのはペローだった。ゴール前200m、ミラーの後ろから飛び出そうと試みるも……。

「スプリントはボクの得意分野じゃないんだ。それでも自分のチャンスを試しに行った。まあ結局は、スプリントでは一度もミラーを追い抜けなかったんだけどね。悪くないけど、やっぱりがっかりだ」

北京五輪マウンテンバイク銀メダリストは、またしても大切なチャンスを2位で終えたことに苦笑い。一方で母国開催のロンドン五輪ロード英国代表に選ばれているミラーは、興奮と誇らしさを隠せない。

「英国代表チームの5人中、4人が今ツールに参加していて、その4人全員がステージ優勝を上げたことになるね!本物のドリームチームだ!」

つまり第3ステージ勝者のマーク・カヴェンディッシュ、第7ステージ勝者のクリス・フルーム、そして第9ステージ勝者のウィギンス(いずれもスカイ プロサイクリング)に続いて、スコティッシュのミラーは今ツールにおける英国人4人目の勝者となった(ちなみに代表5人目はイアン・スタナード)。またミラーにとっては人生4度目のツール区間勝利で、ドーピングによる2年間の出場停止から明けた2006年以降では……実に初めての区間勝利となる。随分と時間はがかかったけれど、これぞクリーンなミラーにとってのルネッサンス(再生)だった。

「ボクは自分が元ドーピング選手だった過去を忘れない。自分のやったことがファンたちの心に暗い影を落としたことを、絶対に忘れない。ドーピングをしていた過去と、そしてクリーンな今があるおかげで、今のボクは自転車界を代表してアンチ・ドーピングの理念を訴えることができるんだと思う。それに奇遇なことに、今日7月13日は、トム・シンプソンの45回目の命日でもあるんだ。これは何かの印だと思う。すごくシンボリックな日になった」

ドーピングとアルコール摂取と疲労とで、やはり英国人のシンプソンが命を落としたのは、1967年ツールの、灼熱のモン・ヴァントゥーの山道だった。そして2012年、ベルギー生まれの英国人ウィギンスが、イギリスに初めてのツール総合優勝をもたらそうとマイヨ・ジョーヌ街道を突き進んでいる。そのウィギンスはサガンから1秒遅れの集団で、総合ライバルたちと一緒に1日を終えている。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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