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サイクル ロードレース コラム 2012年7月15日

ツール・ド・フランス2012 第13ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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いざ進め、祖国の子供たちよ!

強風と、激坂と、無数の小さなカーブと、そして総合を争う選手たちの強い意欲と。午前中にシャンゼリゼ大通で行われた新大統領就任後初めての革命記念日パレードから、話題をすっかりさらってしまうくらいに、興奮とスピードにあふれた午後となった。紺碧に輝く地中海と、陽気なバカンス客たちが、戦いに華を添えた。

キャトーズ・ジュイエ(7月14日)とは、フランス全国民にとって、特別な1日。だからこそスタート直後から、まるで打ち上げ花火のように、フランス選手たちがチャンスを狙いに行った。幾度かの飛び出しの末に、サミュエル・デュムラン(コフィディス ルクレディアンリーニュ)、マチュー・ラダニュ(FDJ・ビッグマット)、ジミー・アングルヴァン(ソール・ソジャサン)、マキシム・ブエ(アージェードゥゼール・ラ・モンディアル)、ジェローム・ピノー(オメガファルマ・クイックステップ)という5人のトリコロール軍たちが、前線へと突き進んだ。外人部隊のパブロ・ウルタスン(エウスカルテル・エウスカディ)、ミカエル・モルコフ(チーム サクソバンク・ティンコフバンク)、ロイ・クルフェルス(チーム アルゴス・シマノ)を引き連れて。

ジュルネ・ノワール(暗黒の1日)でもあった。前日にはアルプスの疲れを引きずりつつ、226kmの最長ステージを戦っていた。ゴール後は、夏季にはランスで一番大渋滞する高速道路A7の下道を通って、ひどい徐行でホテルまで帰りついた。朝はもちろん、時間通りにスタートラインに並ぶために、いつもよりも早起きを強いられた。そしてこの日も217kmの素晴らしく長いロングジャーニー……。

おそらく選手たちには、ちょっとだけ、ほっとするひと時が必要だったのだろう。プロトンは少しだけ減速し、エスケープの8人に自由時間を与えた。また連日集団コントロールに精を出してきたスカイ プロサイクリングの隊列も、わずかの間ではあったものの、義務から解放された。ブラドレー・ウィギンスの黄色いジャージ姿も、ちらちら、と垣間見える程度。

「ゴールスプリントに向けてオリカ グリーンエッジが1日中集団制御に努めてくれたから、その後ろで、少し静かにしていることができたんだ」

エヴァンス、あきらめない

それでも補給地点を過ぎて、海が近づいてくると共に、状況は徐々に騒がしくなっていく。一時は9分半もの大量リードを許された前方集団は、次第に余裕を失っていった。中間ポイントでは後方集団から、マイヨ・ヴェール争いトップ3が飛び出して、あいかわらず熾烈な戦いを披露した(リクイガス・キャノンデールのペーター・サガン、ロット・ベリソル チームのアンドレ・グライペル、オリカ グリーンエッジのマシュー・ゴスの順で通過)。さらには前後のタイム差が2分にまで縮まった時点で、先頭集団からモルコフが、単独でステージ勝利目指して飛び出した。フランス人を全て置き去りにして。

第1ステージから3日連続で逃げ、山岳ジャージを6日間着用したデンマーク人の果敢な再挑戦は、しかし、メイン集団の動きにかき消されてしまうことになる。なにしろカデル・エヴァンスを筆頭に、BMCレーシングチームが突如として集団前方に競りあがってきたのだ!

2日前はステージ半ばで果敢なアタックを見せるも、最終山岳で力尽きたディフェンディングチャンピオン。ウィギンスとのタイム差は3分19秒差にまで広がり、逆転総合優勝はもはや無理か……と考えていたのはどうやら外野だけだったようだ。南東へ向かって走っていたプロトンが、南西へと進路を転換する——内陸からの追い風が、右からの横風に変わる——、その直後の出来事だった。赤と黒のジャージ5人が猛烈な加速。集団を一気に細かく切れ切れにしてしまった。

この作戦で、アレハンドロ・バルベルデ(モヴィスターチーム)やリーヴァイ・ライプハイマー(オメガファルマ・ロット)といった「元」総合表彰台候補は、確かにあっという間に後方に吹き飛ばされた。しかし総合4位のエヴァンスが本当に置き去りにしたかった相手、つまり首位ウィギンスや2位クリス・フルーム(スカイ プロサイクリング)、3位ヴィンチェンツォ・ニーバリ(リクイガス・キャノンデール)等々はびくともせず。2009年ツールの、同じように風の強い海沿いのステージでは、ランス・アームストロングがチームメートのアルベルト・コンタドールを分断の罠にはめた。今回はそんなシナリオは再現されなかった。

エヴァンスはめげずに次の作戦に出た。ゴール前23km地点に立ちはだかる3級峠モン・サンクレール、つまりは「壁」と呼ばれる部類の短い激坂で、2010年フレーシュ・ワロンヌ勝者がするどい上りアタック!

やはり連日のように果敢な攻撃を続けるユルゲン・ヴァンデンブロック(ロット・ベリソルチーム)が、すぐに元チームメートの賭けに乗る。すると、アシストに手厚く保護されていたウィギンスが、あえて自力でライバル回収に向かう事態も発生。さらにエヴァンスは下りでも、イニシアチヴを取ろうと奮闘した。……しかし、そもそもこの短すぎる山で、スカイ軍の迎撃態勢を完全に崩してしまうことなど不可能だった。エヴァンスアタックの功績は、ただ、山頂付近でモルコフの逃げに強制的に終止符を打ったことだけだった。

3+3=6

いや、約50人の先頭集団に残ったスプリンターたちは、少なくともエヴァンスに心の中で感謝していたはずだい。なにしろ分断の試み+上りでの加速のおかげで、世界最強スプリンターのはずのマーク・カヴェンディッシュ(スカイ プロサイクリング)とマシュー・ゴスが、先頭から姿を消してしまったからである。

それにしても、本来ならば強風も小さな激坂もへっちゃらなはずのゴスが、この日は罠にはまった。上りをすいすいとこなせるサガンは、予定通りに、前方集団に入っていた。逆にスタート前には「今日はボクには厳しすぎる」と諦めかけていたグライペルが、奇妙なことに、勝負を争える位置にいた。

「朝のチームミーティングで、監督から『お前にもいけるはずだよ』と言われた。厳しいけれど、もしも、しがみ付くことさえできれば、あとはお前向きだ、ってね。実際はモン・サンクレールでは少し遅れてしまった。だけどチームメートたちの尽力のおかげで、再び前方集団に戻ることができたんだ」

ゴール後にこう語ったのはグライペル。しかもラスト16.5kmでアレクサンドル・ヴィノクロフ(アスタナ プロチーム)とミハエル・アルバジーニ(オリカ グリーンエッジ)が最後のチャンスを追い求めて飛び出したあと、ロット列車は2人の吸収のために、まるで力を出し惜しみせずに働いた。「あれだけ働いたんだ。チームは勝ちに値するさ」とグライペルは断言する。

「今日みたいな特殊なステージの場合、前から20番目に位置取りするよりも先頭を走ったほうが、安全には得策だったのさ。それに今ツールここまで、エドヴァルドはボクのために大いに尽くしてくれた。だから少しでもお返しできたら、と考えたんだよ」

アシストに働かせているばかりではなく、自分だってアシストのために働くのだ……とでも言いたいかのように、ウィギンスが、最終1km地点からエドヴァルド・ボアッソンハーゲンの牽引を始めた。なんとトラック競技で数々の世界タイトルを手にしてきた世界最高のルーラーが、マイヨ・ジョーヌ姿で、なんとも贅沢なスプリント発射台を務めた。

ただしロット列車の地味ながら堅実な仕事が、最終的には実を結んだ。ボアッソンハーゲンの背後から飛び出すと、4つ目の勝利を貪欲に追い求めてスプリントに加わったサガンを、グライペルがほんの僅差で打ち破って。

「チームのみんなの仕事を無駄にしないで済んで、本当に良かった」

こう語るグライペルは、これまで2回もそうしてきたように、ジャージの前面に描かれたロット・ベリソルのロゴを表彰台で誇らしげにアピールしてみせた。これにてサガンに並ぶ今ツール最多3勝目。ポイント賞ではゴスを追い抜き2位にジャンプアップ。ちなみに大会1週目には「マイヨ・ヴェールは狙っていない」と宣言していたグライペルだが、ここ数日の動きを見る限り、結局はジャージも追い求めることに決めたのだろうか?残り1週間、サガンとグライペルのポイント収集争いがますます過熱しそうだ!

またエヴァンスやウィギンスが様々に魅せた今ステージだが、最終的には、総合18位までに順位やタイムの変動はなかった。日本の新城幸也(チーム ユーロップカー)はステージ序盤で落車したものの、幸いにも擦り傷程度で済んだとのこと。それどころかステージ最終盤には、先頭集団内で総合9位ピエール・ローランのために大いに力を尽くした。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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