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このブログについて

プロフィール写真【栗村修】
一般財団法人日本自転車普及協会
1971年神奈川県生まれ
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。豊富な経験を生かしたユニークな解説で多くの人たちをロードレースの世界に引き込む。現在は国内最大規模のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」の組織委員会委員長としてレース運営の仕事に就いている。 「栗村修の"輪"生相談」では、日頃のライドのお悩みからトレーニング方法、メンタル面の相談など、サイクリストからの様々な相談にお答えしております。栗村修に聞いてみたい、相談してみたいことを募集中。相談の投稿はこちらから。

2021年10月06日

【輪生相談】女性(若い世代の男性も)が楽しみづらいです

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こんなところで相談するのもどうかと思いますが、少しでもロード界の上の方の目に入っていただければと。
本当に女性(若い世代の男性も)が楽しみづらいです。
もっと幅広く楽しめる環境ならいいのに、お洒落な楽しみ方を男性達に馬鹿にされ、集団で嫌がらせされたり、車体マウントされ傷ついて辞めていく女性たちを今まで山ほど見てきました。
車体が100万以下だと乗る資格なし、サイクリングレベルなら乗る資格なし、女子ローディーは目立つからネットで虐めよう。が、「楽しく趣味としてロードを楽しんできた」私が10年で見てきた今も続く歴史です。
どうにか上の人たちから徐々に変えていって欲しいです。

(会社員 女性)

栗村さんからの回答

栗村さん

僕がロードバイクに乗り始めた1980年代に比べると、スポーツ自転車のマーケットは非常に大きくなりましたね。特に大きな変化が、質問者さんのような女性の参入です。昔は男性サイクリストがほとんどでしたからね。

新規参入者は自転車界にとってとても大切な存在ですが、その女性たちが楽しみづらいとなると、これは深刻な問題です。女性や若い世代の男性たちに対して、いわゆるマウンティングや嫌がらせをする男性がいる。ちょっと読むのが辛いご質問ですね、正直言って。

栗村さん「自転車は、とても多様で寛容な遊びなんです」

こういう行為が論外であることは言うまでもありませんが、根本的な原因は、つまるところ日本でのスポーツ自転車マーケットがまだまだ未成熟でニッチな趣味であることだと僕は思います。自転車に限らず、ニッチな分野では新規参入者に対してマウンティングをするひとが一定数出てきたりするものです。

じゃあ逆に、スポーツ自転車が成熟しているエリアはどこか。やはり本場ヨーロッパでしょう。欧州のスポーツ自転車事情を見ると、様々なレベルの老若男女が多様な価値観のなかで自転車を楽しんでいます。

質問者さんによると、日本の自転車界ではハイエンドじゃないロードバイクや、速さを追求しない乗り方が攻撃されるとのことですが、これは高校を辞めた僕が自転車留学をしたフランスではあまり見ない光景でした。あちこちに書いてきたことですが、当時のフランスのトップアマチュアはシマノの「105」で組んだロードバイクに乗っていたりしました。お金をかけている人でもせいぜい「アルテグラ」。最高峰のデュラエースを装着した自転車に乗っているのなんてプロくらいでしたね。

念のため補足しますが、高い機材がダメというわけじゃ全然ないですよ。速くない人がデュラエースの自転車に乗るのが恥ずかしいということでもありません。誰が何をどう使おうが個人の自由です。ただ、当時のフランスの速い人たちは105やアルテグラのバイクに乗って、とても美しいフォームで走り抜けていたということです。そして、むしろそれが最高にカッコよかったのです。

もう一つ言うと、フランスに限らず欧州に共通して言えるのは、速い人ほど安全にも気を使っていることです。レースばかり見ていると勘違いしがちですが、向こうのプロは、勝負がかかっていない雨のコーナーなどはそろりそろりと回ります。レースで自分勝手な危険な走りをすると怒鳴られたりもします。

翻って日本のホビーレースを見ると、どうでしょう。あきらかに危険なコーナーに突っ込んでいくあの感じは、日本特有のものだと思います。「どういう状況で落車するか」「落車したらどうなるか」を想像できないのも、結局、文化として未成熟だからかもしれません。

話が逸れたようですが、ケガのリスクがあることは女性を遠ざけるでしょうし、未成熟さの表れという点では機材マウンティングと同じですよね。

つまり、僕が言いたいのはこういうことです。成熟した格好いいサイクリストは、安全に走りますし、他人の楽しみ方に口を出したりはしません。高級な機材は素晴らしいですけれど、エントリークラスでも一向にかまわない。速いのはスゴイですが、遅くても全然OK。むしろ遅い方が安全です。成熟は寛容さにつながるんです。

ヨーロッパに行ってみてください。自転車は大好きだけどのんびりしか走れないおじさんやおばさんが山のようにいますから。でも、別に彼らは恥じたりなんかしないわけです。楽しみ方が多様だからです。たまに勘違いをしている方もいますが、ヨーロッパではみんながバリバリのレーサースタイルでエアロロードバイクに乗っているかというと、ぜんぜん逆なんですよ。

日本で機材マウンティングが目立つのは、スポーツ自転車が外来の趣味であるせいで、日本のロードバイク趣味が高い機材を当たり前に買うような熱心な愛好者たちがベースになっているからかもしれません。だから「〇〇〇であるべし」みたいな縛りがいっぱいあるわけです。機材は高くないといけない、毎月1000km以上乗らないといけない、速くないといけない、みたいな。

でも、ヨーロッパだとあくまでのんびりサイクリングがベースにあるんです。天気がいい週末に、(日本でいう)ママチャリで山の方にいってみよう、くらいの。そのベースの上に競技としてのロードレースが乗っているのであって、競技ありきじゃないんですね。日本は逆さまになっちゃっているんです。

質問者さんは、たぶんマイペースで自転車を楽しまれているんでしょう。それは正しいんです。世界的には、とても正しい。

だから、もしマウンティングをしてくる人がいても、気にせずやり過ごしてください。質問者さんのほうが本当の自転車の楽しみ方を知っているのですから。自転車は、とても多様で寛容な遊びなんです。

文:栗村 修・佐藤 喬

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