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アーチとの衝突でバスの冷房システムが壊れてしまったことなど、その後の混乱に比べれば、ちっぽけな災難だった。まずはバスがゴールライン上に立ち往生してしまったせいで、審判団は、急遽ゴールをラスト3km地点に移動すると発表した。「タイム救済ルール(ゴールから3km以内で落車・メカトラなどで遅れを喫した場合、当該選手には、アクシデントに見舞われた時点で属していた集団のタイムが与えられる)」を適応するために、計測機器が設置してあるからだ。
「ゴール前5km地点で、あと2kmでスプリントだ、と文字通り言われた」(カヴェンディッシュ)、「とにかく、ゴール地が変わった、というのは無線から聞こえてきたんですけれど」(新城)、「監督が無線でなにか必死に叫んでいたけれど、観客の声援やヘリコプターの轟音で、何を言っているのかまったく分からなかった」(マルセル・キッテル)、「そもそもイヤホンを外していたからね」(トマ・ヴォクレール)と、プロトン内の選手たちのゴール変更に対する認知度は様々だったようである。
ところがチームバスがなんとか試行錯誤の末にフィニッシュラインから退くと、一転、審判団は予定通りの場所でゴールを行うと宣言する。当然ではあるけれど、これがさらなる混乱を呼んだ。なんとなく2013年ジロ最終ステージの「中間スプリントポイントの場所が移動され、果たしてどこでスプリントしたらいいのか分からずに、3回もスプリントをしてしまったカヴェンディッシュ」状態のように、ストレスと不安に苛まれた選手たちは、とにかく前へ前へと詰め掛けた。そして、大集団落車――。
タイムトライアル世界チャンピオンのトニー・マルティン、ロード世界チャンピオンのフィリップ・ジルベール、昨マイヨ・ヴェールのペーター・サガン、昨フランス王者ナセル・ブアニ、グランツール5回総合制覇アルベルト・コンタドール、2010年ツール総合優勝アンディ・シュレクを筆頭に、無数の選手が地面に放り出された。幸いに転ばなかったとしても、落車の後方で脚止めを喰らったカヴェンディッシュのように、急なハンドル捌きでパンクしてしまったグライペルのように、勝負から放り出されてしまった選手だっていた。こうして主を失ったオメガファルマ・クイックステップでは、ニキ・テルプストラが飛び出しを仕掛け、マッテオ・トレンティンがスプリントへと打って出た。ロット・ベリソルでは、2番手スプリンターのユルゲン・ルーランツも加速してみせた。
しかし、まあ、本職のエーススプリンターには叶わなかった。ゴール地の変更→再変更を一切関知していなかったおかげで、キッテルはただフィニッシュラインに向かって心乱れず加速することができていたし、それが幸いして落車に巻き込まれないような好ポジションにつけていた。オメガファルマやロットのアシストたちが、背後のリーダーを気にしてゴール前ギリギリまで腹をくくれなかったのに対して、アルゴスのメンバーはためらわず全力をリーダーに捧げることができた。
「正直に言えば、今回スプリントには壮絶なバトルというのは存在しなかった。普通ならばまずチーム同士のバトルが行われて、熾烈な場所取りを繰り広げるものなんだ。でも今回、落車の後、誰もが顔を見合わせているばかりだった。どう動くべきか、誰もが思案に暮れていた。ボクは周りを見回した。カヴェンディッシュもグライペルもいなかったから、ボクらのチームがトレインを牽引することに決めた」(キッテル)
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