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ツール99回の歴史の中で、この地獄のような禿山で、マイヨ・ジョーヌを身にまとって区間勝利を手に入れたのは1970年大会のエディ・メルクスだけだった。まさに「カニバル(人食い)」のように、フルームも、容赦情けなく勝ちをとりに行った。ラスト1.2kmからの、栄光へのラストスパートだった。
「これまでのキャリアでもダントツで印象的な、そして最も大きな勝利だった。しかも今回は、ツール・ド・フランス100回大会だからね。242kmの果てに、こんなステージを勝てるなんて。沿道にはたくさんの観客が詰めかけ、チームは上りであらん限りの力をボクのために尽くしてくれた。とにかくボクにとっては大きな、とてつもなく大きな勝利だよ」(フルーム)
43年前のエディが、ゴール直後に酸欠で倒れ込んだように、この日のフィニッシュラインで右手を天高く突き上げたフルームは、あまりにも無我夢中で走ったものだから、息も絶え絶えで、酸素スプレーで慌てて呼吸を整えた。今大会2回目の区間優勝表彰式と、8回目のマイヨ・ジョーヌ表彰式、さらに2回目の山岳賞ジャージ授与式の間は、いまだに頭がくらくらとしたままだったそうだ。
置き去りにされたクインターナは、29秒遅れの2位で満足するしかなかった。ただしアレハンドロ・バルベルデの総合獲りに完全に失敗したモヴィスターにとって、若く無口な山男が新人賞ジャージを4日ぶりに取り戻せたのは、大いなる喜びに違いない。
「アタックするタイミングが早すぎた。力尽きてしまった。フルームに追いつかれた直後は、まだ区間勝利は行けるだろうと考えていた。でも、そんな夢想も一瞬で崩れ去ったね……。まだまだボクは勉強の途中だよ」(クインターナ)
1回目の休養日の2日前にフルームが圧倒的な力を見せ付け、「もはやツールは終わったのか?」と人々は嘆いたものだ。2回目の休養日前夜、この思いは確信に変わっている。総合2位モレッマとのタイム差は4分14秒。最終盤に脚が止まり、クロイツィゲルの助けを経てなんとか区間6位・1分40秒遅れでゴールしたコンタドールは、4分25秒と絶望的な遅れを喫している。もちろん、エル・ピストレロは、いまだ敗北宣言を出すつもりはない。
「とにかく『脱帽』だ。これ以上、他に何も言えることはない。フルームはすごく強い。ボクは今までずっと、総合優勝に向かって走ってきた。これが大目標だったんだでも毎日、様々な事態に直面しつつも、彼はさらなるタイム差を奪った。だけど、まだ終わりじゃない。ツールでは、パリまで、一体何が起こるか分からない」(コンタドール)
ところどころ雲に覆われた死の山から、181人の選手たちは、緑豊かな下界へと帰還した。2回目の休養日を終えたら、パリまであとわずか。その前に、選手にとってはひどく不安なことに、例年よりひときわ厳しいアルプス越えが待っている。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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