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サイクル ロードレース コラム
まさに完全無欠。ワウト・ファンアールト、強さの根源「まだまだ僕に出来ないことはたくさんある」| ツール・ド・フランス 2022
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確かに、ゴール前15km地点では15秒、11km地点で10秒にまで小さくなったタイム差は、9km地点で再び19秒に開いた。2004年ブエルタ第11ステージで、同じくタイムトライアルスペシャリストのデイヴィッド・ザブリスキーが成功させた衝撃的な単独エスケープ勝利の、再現もありえるかもしれない……と、多くの関係者やファンたちが息を呑んだ。ただしあの日162kmを逃げ切りったザブは、メインプロトンに、いまだ1分11秒差も残していたのだが。
「残り5km地点で、疲れを感じた。最終盤のコース地形は厳しくて、小さな上りに苦しめられた。それに、プロトンも全速力で追いかけてきたからね。とにかくフィニッシュラインだけに集中し続けた。奇妙な感覚だった。フィニッシュラインの縞模様が目に入ると同時に、後ろからプロトンが近づいてくる音が聞こえたんだ」(マルティン)
マルティンのおかげで仕事をする必要のなかったオメガファルマ・クイックステップのチームメートたちは、最終盤に何度もプロトンの前方に上がっては、ブレーキ代わりの防護壁作りに奔走した。一方でガーミン・シャープやアルゴス・シマノは、必死の形相で前方へと突進を続けた。ラスト3kmで8秒差、2kmで9秒差、1kmで6秒差……と、1人vs194人のギリギリの綱引きは、文字通りフィニッシュ直前まで続いた。
無我夢中で突き進む現役タイムトライアル世界チャンピオンを、無常にも現実へと引き戻したのは、世界選手権で手強いライバルとなりそうなファビアン・カンチェラーラのロングスプリントだった。世界選で4度、五輪でも1度、タイムトライアルの世界王者に君臨してきたスパルタクスが、第4ステージの上りフィニッシュでも見せた強烈な加速で、秩序のない混沌たる世界に引導を渡した。僅か40m、マルティンは足りなかった。
「カンチェラーラが追いかけていなかったら、ボクらはマルティンに追いつけていなかっただろうね!」(ミカエル・モルコフ)
そしてフィニッシュラインでは、ミカエル・モルコフが大笑いした。マルティンやカンチェラーラとは種類こそ違うものの、やはり、かつては世界チャンピオンジャージを身にまとったことのあるエリートライダーだ(2009年トラック世界選手権でマディソン種目制覇。ガーミンのジャージで今大会参戦しているアレックス・ラスムッセンとペアを組んでいた)。ただしグランツールでの区間勝利は正真正銘の初体験である。
「すごく嬉しいし、信じられないほど誇らしい。デンマークジャージを着て勝てるなんて、本当にスペシャルだ。ブエルタでの区間を勝てたことは、間違いなくボクのキャリアにおける最高のハイライトになるだろう。こんなチャンスが来る日を、ずっと待ち望んできたんだ。ボクはただファビアンの背中にくっついて、それからあまりにも速くスプリントを仕掛けないよう、ただそれだけに腐心した。パーフェクトだった」(モロコフ)
前日に続いてマキシミリアーノ・リチェーゼが2位で終わり、カンチェラーラは3位で好調さを確かめた。総合順位に特別に変化はなく、ヴィンチェンツォ・ニーバリは3日連続4回目のマイヨ・ロホ表彰式に臨んだ。相変わらずニコラス・ロッシュが山岳賞と複合賞のジャージをしっかりと着込み、前夜勝者のマシューズが新たに緑色のポイント賞ジャージを与えられた。
敢闘賞は文句なしで……インターネット投票でも得票率91.4%とダントツ首位をさらいとったマルティンに与えられた。174.5kmをたった1人で逃げ続けて、最終的に区間7位だった。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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