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ツール・ド・フランスとは違って、初秋の沿道の観客はまばら。それでも「バモス!」ではなく、「アレ、アレ、アレ!」というフランス語の声援が、山道にこだました。瞳を潤ませながら、25歳の若者は頂上へと駆け上がる。今度こそ、一等賞を取った。憧れの選手モンクティエがキャリア晩年に輝いたブエルタで、初めてのグランツール区間勝利を、ついにつかみとったのだ。
「ボクのプロ初勝利は2011年のオーストリア一周だった。今日と同じようなパターンの勝利だったよ。ブエルタのクイーンステージを勝てたなんて、ボクにとって特別なものだ。もっとしょっちゅう勝てたら素敵なんだけど、でもボクはクライマーで、つまりスプリンターと同じだけのチャンスはないからね。この瞬間を、一生涯ずっと忘れないだろうな」(ジェニエ)
はるか後方では、フランスで生まれ育ったアイルランド人が、大きな賭けを打った。ポール・ド・バレスの上りでクリスアンケル・セレンセンが猛烈な牽引を行い、山頂付近でニコラス・ロッシュがするすると前方へ飛び出したのだ。前日に雨の中で失った3分半というタイムを、少しでも取り戻すためだった。ほんの少し先を走るエスケープ集団では、チームメートのオリバー・ザウグとラファエル・マイカが、リーダーを待っていた。
2011年前のジロ・ディ・ロンバルディアを制したザウグが、まずはタンデムの先頭を引き受けた。それから、1年前のブエルタでアルベルト・コンタドールの総合優勝のために献身的に働き、今春のジロ・デ・イタリアで最後まで新人賞を争ったラファエル・マイカが、後を引き継いだ。
「今日の計画は、ステー中にできる限りのオプションを持つこと。全てが計画通りに進んだ。1人になってからは、体のそこから力を振り絞った。他の選手に追いつかれないようにね」(ロッシュ)
ロッシュをすぐには追わなかったメイン集団だが、次第にティボー・ピノ擁するエフデジ・ポワン・エフエール――総合でロッシュと28秒差だった――がスピードを上げた。ゴールが近づくに連れて、マイヨ・ロホからヴィンチェンツォ・ニーバリを追い落としたいビッグネームたちが、次々と集団に揺さぶりをかけた。ダニエル・モレーノが攻撃的に走り、ホアキン・ロドリゲス本人もアタックを仕掛けた。近日おなじみ、クリストファー・ホーナーを支えるロベルト・キセロフスキーの、強烈な牽引も見られた。サムエル・サンチェスやリゴベルト・ウラン、アレハンドロ・バルベルデにニーバリと、小さな攻撃と吸収が、絶え間なく繰り返された。
サクソタンデムは、大波に飲み込まれてしまわぬように、必死で細い山道を逃げ続けた。そしてラスト2km、渾身の後押しを得たロッシュは、1人でフィニッシュラインを目指し始めた。ほんの3分ほど前に、VCラ・ポム・マルセイユの後輩が、笑顔で飛び込んだ山頂へ――。
「できれば1分はタイムを取り戻したかったけれど、たった13秒しか稼げなかった。でも、後悔はない」(ロッシュ)
幸いなことに、区間3位のボーナスタイム4秒(区間2位には、朝から逃げていたミケーレ・スカルポーニが飛び込んでいた)も、手に入れた。あれほど小さなぶつかり合いを繰り返したにも関わらず、結局のところ、総合1位ニーバリ、2位ホーナー、3位バルベルデ、4位ロドリゲス、5位ドメニコ・ポッツォヴィーボは、全員同タイムでゴールした。つまり上位5人の力関係は、全く変化はなかった。ロッシュは総合5位まで、6秒差に近づいた。
選手たちが長い長い1日を終えた後、ピレネーの山々は深い霧に包まれた。フランスでの激戦を終え、プロトンは当夜のうちにスペインへと舞い戻った。大会はいよいよ、クライマックスの最終週に突入する。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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