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「あのときとは状況が違う。ゴールまでまだ80kmも残っていたし、逃げ集団との差は2分程度。まだ勝負がかかっていない状況で、少しスピードを緩めても何も影響が出るわけじゃないだろう?第6ステージは最終峠の麓で、真剣勝負の真っ最中だったんだから」(エヴァンス)
とにかく最後の2級峠「猫の鼻」では、エスケープグループの中から、青ジャージ姿のジュリアン・アレドンドが最後まで力を振り絞った。第8ステージの残り1.8kmで大逃げ勝利を逃した直後に、「2週目はポイント収集だけに集中、3週目の難関山岳で改めて区間勝利を狙いに行く」と宣言していたコロンビア人は、その言葉通り、山頂の1位通過にとことんこだわった。可能な限りの山岳ジャージポイントを積み重ねた(計24pt)。その直後にプロトンから飛び出してきた数人に追いつかれ(例のペッリツォッティ、アルベルト・ロサダ、そしてピエール・ローラン)、そのまた直後に、プロトンに飲み込まれていった。
これにてグルッポ・コンパット、集団はひとつに。そしてゴール前21km、フィニッシュラインへと誘う長い下り坂で。メインプロトンの中から、マイケル・ロジャースが飛び出した。これが、長く熾烈な戦いの後の、勝利へのアタックとなった。
「リベンジだった。あんなひどい目にあったけれど、それでも、ボクは選手を続けたいと願い続けてきた。最初の1週間は怒りだけだった。でも、怒っているだけじゃ、何も変えることなんか出来ないと思い直した。そこからは、ひたすら、トレーニングに打ち込んだんだ」(ロジャース)
2013年12月18日、ジャパンカップでの尿検体から、禁止薬物クレンブテロールの陽性反応が示された。UCI国際自転車競技連合より暫定の出場停止処分が下され、本人は大会直前に開催されたツアー・オブ・北京で、汚染肉を食べた可能性を主張した。さらに「使った金額は明かせないけれど」、身の潔白のためにあらゆる交渉を行った。そして4月23日、ついにUCIから発表が出された。レース出場のために訪れた中国で、汚染肉を摂取したことが、クレンブテロール陽性につながった可能性が高いこと。ロジャースへの罪はこれ以上は問わないこと。そしてジャパンカップの勝利は、正式に剥奪されてしまったまま――。
失った時間を、失った勝利を取り戻すように、ロジャースは渾身の力でペダルを漕いだ。2003年から3年連続でタイムトライアル世界チャンピオンに輝いてきたルーラーは、翌日の個人タイムトライアルなど考えずに、持てる力のありったけを注ぎ込んだ。後方のメインプロトンでは、ピンク色のジャージが先頭を引いた。いや、むしろ追走を抑えて、同じオーストラリアからやって来たかつてのチームメートに、花を持たせてくれたのかもしれない。34歳のジロ区間初勝利。イタリアンリヴィエラで、ロジャースは晴れた天を仰いだ。
エヴァンスを始めとする総合勢は、10秒遅れでゴールラインに飛び込んだ。シモン・ゲシェケがスプリントで区間2位、エンリーコ・バッタリンが3位に入り、つまりマリア・ローザのライバルたちがボーナスタイムを手にすることはなかった。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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