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ドロミテの谷間から天を見上げると、真っ白の厚い雲が、剣先のような尖った頂群をすっぽりと覆い隠していた。細かい雨は、標高が上がるに連れて、雪に変わっていく。肌を刺すような冷気が、休養日明けのプロトンを、否応なしに痛めつけた。2014年ジロの最標高地点、2758mのステルヴィオ峠は、気温は氷点下まで下った。そして山頂まで5kmほど手前で、レース無線が流れた。下りに入ったら、オーガナイザーのインレースオートバイが、赤旗を掲げて、プロトンの前方を走ること。アタックが巻き起こり、危険な状況が発生するのを避けるためであること――。
一部のチーム監督は「レースのニュートラリゼーション」だと理解した。ジロ・デ・イタリアのツイッター公式アカウントも、ニュートラリゼーションを告げた(後に誤報であったとツイートした)。多くの選手が山頂で脚を止め、防寒具を着込んだり、補給食を食べたり。これが、後の成績を、大きく左右した。
前日の休養日から、色々な憶測と議論が飛び交っていた。中止?短縮?それとも断行?ちょうど1年前は、まったく同じ道程が予定されていた第19ステージが、コース全体に降り続く大雪のせいで中止された。しかし今回は、雨と、霧と、ステルヴィオ山頂付近に細かい雪が降っていただけ。「道は十分に通行可能だ」と、開催委員長は予定通りにステージを行うと発表した。マリア・ローザ擁するオメガファルマ・クイックステップのゼネラルマネージャー、パトリック・ルフェヴェルは、不吉な予感を抱いたのだろうか。幾度もツイッターで毒を吐いた。
「マウロ・ヴェーニ(開催委員長)よ、恥を知れ」「果たしてこれが現代自転車レースだろうか?」「一体いつまで同僚たちが全てを受け入れてくれることやら」(ルフェヴェルのツイッターより)
こんな日だからこそ、とびきり勇敢な者たちは、大胆に仕掛けた。青ジャージ姿のジュリアン・アレドンドは、ガヴィア山頂へ向けて、必死でアタックを打った。標高2618mの山頂からの、25kmを超えるダウンヒルでは、さらなる抜け駆けが相次いだ。ほんの3日前に、僅差で区間勝利を逃したダリオ・カタルドも、もう1度チャンスをつかもうと前方へ飛び出した。エスケープ仲間はいつしか9人に増え、揃ってステルヴィオへと挑みかかった。そして山頂まで3km。体にたたきつける吹雪を振り払うように、カタルドが単独アタック。最標高地点「チーマ・コッピ」の先頭通過の栄光を手に入れると、そのまま、たったひとりで、やはり25km近い下りへと突っ込んで行った。
マリア・ローザ集団も、遅れて山頂へとやって来た。脚を止める選手がいた一方で、大急ぎで下っていく選手たちも存在した。雪雲の中から、ひとつの塊が、勢いよく谷間に姿を現した。ピエール・ローランとロメン・シカール、ライダー・ヘシェダル、マッテーオ・ラボッティーニ、そしてナイロ・キンタナとアシストのゴルカ・イサギーレインサウスティ!
「下りがニュートラルになるなんていう話は、ボクは一切知らなかったし、そんなオートバイは見なかった。それから、ある程度のスピードを保って、山から下り始めた。アタックしたわけじゃない。ただローランとヘシェダルについて行っただけなんだ。麓に着いたとき、初めて、ボクらが6人になっていたことに気がついた」(キンタナ)
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