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サイクル ロードレース コラム 2014年7月10日

「フルーム最強を科学する」VOL.2 山をも味方につける強靭なエンジンの持ち主!

ツール・ド・フランス by 櫻井 智野風
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低燃費機能がついた心臓

そんな活動範囲の大きなフルームの心臓ですが、レース中は高くなっても160拍程度にしか上がりません。大きな排気量のエンジンを積んでいる自動車を運転してみると、高速道路で速度を加速しようとした時も、踏み込んだアクセルに余裕を感じます。また最近の低燃費自動車には、停車中にエンジンをストップさせて燃料を節約する機能がついています。フルームの心臓は、まさに低燃費機能の付いた大きなエンジンと言えます。

一般成人の2倍以上 フルームの酸素摂取量

人は活動中には、筋肉を動かすためにエネルギーを必要とします。長い運動を持続する際、エネルギーを作り出すため、筋肉は酸素を必要とします。この酸素を送り込む経路が血液であり、その血液を流すためのポンプ作用が前述した心臓の拍動です。運動したことで心拍数が高くなるので、血液の流れが増加し、筋肉に送り込む酸素の量は増えます。しかし、その酸素を受け取る側の筋肉がしっかりと受け取るシステムを持っていないと、せっかく送り届けられた酸素は役に立つことが出来ずに、呼吸によって再び体外に排出されるのです。つまり、筋肉が取り込んだ酸素の量が大きければ大きいほど、持久的な能力が高いということになります。一般の20歳代男性が筋肉に取り込める酸素の最大量(最大酸素摂取量と呼びます)は、1分間に2リットル程度です。体格の差もありますが、これを体重1kgに換算すると35ml/分/kg程度の値となります。

それに比べ、フルームの最大酸素摂取量はなんと85〜90ml/分/kg。一般成人の2倍以上です。これはツール・ド・フランスに参加しているプロサイクリストの中でも大きな値であるとともに、他のスポーツ種目のアスリートと比べても、あまりお目にかかれない数値です。フルームの筋肉は、エネルギーを生み出すためのシステムも図抜けていることがわかります。

フルームが山にも平地にも強い理由

このように、馬力があり尚且つエコクルーズ機能がついているエンジン(心臓)を積み、潤沢に燃料を送り込める装備(大きな酸素摂取量)が整っている自動車・・・フルームの身体はまさにこの通りです。長く急な坂道も、大きな馬力のエンジン(心臓)を搭載しているため余裕をもって走行することができます。平地ではエコ機能をフル活用して、少ない燃料でスピーディーに疾走します。これがフルームの山道にも平地にも強い能力を生み出しているのでしょう。

フルームの強さは出生に秘密があった?

では、フルームの心臓や筋肉のシステムはどうして優れているのでしょうか?これは彼の生まれ育った地に秘密があるのかもしれません。フルームはイギリス人ですが、ケニアで生まれ、ケニア・南アフリカにて長い間生活をしていました。この高地での生活により、彼の心臓や筋肉は体内に取り込める酸素の量が少ない状態でも、パフォーマンスを低下させることなく動き続けられる能力を身につけたのでしょう。この能力は遺伝的な要素も考えられますが、後天的に生活環境や活動量により変化してきたと言っても良いのではないでしょうか。今年のジロ・デ・イタリア総合覇者のナイロ・キンタナをはじめ、コロンビア出身の選手が活躍している背景にも、地域的な生活環境、トレーニング環境が関係している可能性も考えられるのです。

代替画像

櫻井 智野風

1966年生。神奈川県出身。博士(運動生理学)。現在は桐蔭横浜大学スポーツ健康政策学部教授として指導と研究に取り組んでいる。スポーツ科学、スポーツ生理学を専門分野とし、主な著書に「不調の原因を解消する本」(2014/出版)、「ランニングのかがく」(2011/秀和システム)などがある。その他に日本陸上競技連盟の普及育成委員を務め、東京オリンピックに向けたジュニア世代の育成強化に力を注いでいる。自らも選手として活躍していた十種競技を中心に世界選手権や五輪などに出場する日本代表選手などを強化に関わっている。

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