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これまでのツール区間2勝は、いずれも個人タイムトライアルでの勝利だった。つまり大逃げでは、初めてのツール区間勝利。もちろん山岳賞ジャージだって初めての経験だ。かつてドイツの領地だったこともあるミュールーズは、今大会5つ目のドイツ人ステージ優勝を迎え入れた。そしてマルティンの快挙から約6時間後、遠いブラジルの地で、ドイツサッカー代表が4つ目のワールドカップを天に突き上げた。
ドイツ人トニーが圧倒的強さを見せた2分45秒後には、フランス人トニーが歓喜の時を迎えた。聖人カレンダーによれば「聖アントニオの日」(つまり聖トニーの日でもある)は6月13日。1ヶ月前に終わっていたはずなのだが……。
「数日前から実は、可能性があるかもしれない、って考えていた。そして今朝、自由にエスケープに行っていい、ってチームマネージャーから言われた。だから逃げに乗るために、必死に喰らいついたよ。決して調子は良くなかった。ただ、これまでの自分の努力が、徐々に報われ始めているような気はしてた。あとはアスタナが許してくれるかどうか、それだけが問題だった」(トニー・ギャロパン、公式記者会見より)
ユーロップカーの5人と、3分27秒差で総合11位のギャロパンが滑り込んだエスケープには、複数の好選手が紛れ込んでいた。マルティンと並ぶ世界最強ルーラーとして知られるファビアン・カンチェラーラに、本来は総合トップ10入りを狙える実力を持つホアキン・ロドリゲスやダニエル・ナバーロ。また総合で6分07秒遅れ20位につけるティアゴ・マシャドや、10分23秒遅れブリース・フェイユーには、ギャロパンやローランと同じように、後方メインプロトンからタイムを稼ぐ理由があった。
そして、唯一の問題だった、アスタナの許可も、どうやら得られたようだ。黄色のヴィンチェンツォ・ニ―バリを支える水色軍団は、メインプロトン先頭で制御は続けるも、決して本気の追走モードには入らなかった。
「ここまでボクらチームはたくさん仕事をしてきた。でも、これ以上は、難しい状況だった。決して他のチームは手助けしてはくれなかったからね。だからマイヨ・ジョーヌを一旦返還することにした。自分たちでそう仕組んだようなもんだ。ちょっとほっとしているよ」(ヴィンチェンツォ・ニ―バリ、ゴール後TVインタビューより)
前を行くマルティンを捕らえることはできなくても、追走集団は決して力を落とさなかった。ユーロップカーのアシストたちは自己犠牲の精神で、ローランを引っ張り続けた。そのローランは「同じフランス人として、フランス人マイヨ・ジョーヌを後押ししてあげたかった」(ゴール後インタビューより)と、2011年トマ・ヴォクレール以来のフレンチイエロージャージ実現に向けて協力を惜しまなかった。
「ロット・ベリソルから1人で逃げに乗っていたボクを、まわりのフランス選手たちが助けてくれた。ユーロップカーの選手たちも、コフィディスの選手たちも……。エスケープ内では、フランス選手が真に団結し合っていることを、ひしひしと感じられた。本当にありがたかった」(ギャロパン、公式記者会見より)
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