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30kmもの長い下りの最中には、エスケープ組からクリストフ・リブロンも戻って来て、ダブルリーダーの企てに力を貸した。イゾアール峠の裏側に入り、月面世界のような「カス・デゼルト」を脇目もふらず駆け抜けて、あらゆるライバルをまとめて後方に吹き飛ばした。――ただし、ニーバリを除いて!さすが現役ナンバーワンダウンヒラーと呼ばれる男。影のようにペローの背中にピタリと張り付いた。しかも超ハイスピードで下りながら、路上の小さな障害物を軽々と飛び越えるという、驚くべき器用さも披露した。
「でも、ボクだって上手く下れるんだ、って証明できたと思う。決して臆病者なんかじゃないってことをね」(ピノ、ゴールTVインタビューより)
バラバラになったメイン集団は、下りが終わると、一旦、ひとつになった。
ツール初登場リズールの道が上り始めると、またしてもAG2Rがテンポを上げた。ここではルクセンブルク人ベン・ガスタウアーが、フランス人リーダーのために全力を尽くした。ユーロップカーのフランス人、ピエール・ローランが数度の加速を試みたり、エフデジ ポワン エフエールがピノを牽引したり。しかし、またしても、ニーバリが……、ラスト4kmのアーチをくぐった瞬間、思い切り加速を切った。今度はペローが影のように、ニーバリの背中にピタリと張り付いた。
「ライバルたちからタイム差を奪おうと考えていた。特にアレハンドロ・バルベルデとの差をもっと開きたかった。マイカに追いつこうとして、飛び出したわけじゃないんだよ」(ニーバリ、公式記者会見より)
そう、最終峠では、再びマイカが先頭を走っていたのである。11人に小さくなったエスケープ集団の、麓でのリードは1分程度だった。真っ先にアタックを仕掛けたのはデマルキで、2日連続の敢闘賞「赤ゼッケン」でアルプスを抜け出すことになった。ロドリゲスは単身でマイカの追走を試みた。しかし、やはり結局のところは、山岳ジャージを回収できただけに過ぎなかった。しかも、ポイントだけ見れば、マイカと同点88ptで並んでいる。ただ「超級を1位通過した数」で上回ったおかげで(ロドリゲス1回、マイカ0回)、ロドリゲスが赤玉模様に再び染まった。
「今日の目標はとにかく逃げに乗って、出来る限り大量の山岳ポイントを収集することだった。チャンスがあれば、区間勝利だって狙っていた。最終峠はもちろん、全力で、山頂フィニッシュ勝利を取りに行ったよ。でも、決してボク向きの上りではなかった。ピレネーの山々のほうが、ボクの脚質に向いている。だから来週は、ジャージに向けて、区間勝利に向けて、さらに戦っていく」(ロドリゲス、ゴール後TVインタビューより)
リベンジを半分果たして、ロドリゲスには笑顔が戻った。リベンジを完全に果たして、拳を握り締めたのはマイカだった。ラスト8.5kmでひとり飛び立つと、後ろから激しく追い上げてくる人影を、24秒差で振り切った。24時間前に覚えた激しい怒りを、勝利へのモチベーションに昇華させた。3週間前に急にツールメンバーとして召集され、不本意ながらもジロ−ツールと連戦した意味を、ようやく見つけ出した。2011年2月にプロ入りして以来、初めて手にした勝利だった。
なにより、絶対的リーダー、アルベルト・コンタドールの落車リタイアで失意に暮れたチームに、明るい話題をもたらした。
「この勝利は全チームメートとアルベルトに捧げたい。だってボクら全員が、ひどく辛い時期を過ごしてきたから。でも今日、ボクたちは決して諦めやしないんだ、と証明できた」(マイカ、チームリリースより)
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