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山頂まで残り4kmだった。バルデから16秒差の総合4位、ティボー・ピノが、弾かれたようにアタックを打った。フレンチクライマーに5分06秒のリードをつけている総合首位ニーバリは、すぐに張り付いた。
「ボクは誰の、どんな攻撃も過小評価したりしない。ブエルタでクリス・ホーナーに負けたのが、いい教訓だった。絶対に、ピノに、距離を開けられてはならないぞ、と思った。バルベルデはすぐに動かなかったけれど、ああいう場合、『穴』をあけちゃダメなんだ」(ニーバリ、公式記者会見より)
もちろんバルベルデもすぐに動いたし、なにより、総合6位ジャンクリストフ・ペローが総合トップ2と行動を共にしていた。……チームの後輩、バルデをひとり置き去りにして。これに関しては、休養日インタビューで、バルデは語っている。「長距離タイムトライアルを考えると、ボクよりも、ペローのほうが表彰台の可能性が高い(ペローは2009年国内タイムトライアルチャンピオン)。チームにとって最大の切り札は、ペローなんだよ」と。
こうして4選手が抜け出した。少し攻撃が落ち着くと、2011年ツール総合14位のアルノー・ジャネソンがメイン集団に馳せ参じ、後輩のピノ牽引に惜しみなく力を与えた。ちょっぴり苦手とする下りでは、21人のエスケープ集団の残党で、しかも、バレス峠で一番にアタックした張本人のジェレミー・ロワが、素晴らしい水先案内人を務めた。ちなみにバルデを引き離したついでに、バルベルデを追い落とそうと、山頂付近では欲張ったけれど……。
「チーム全体がパーフェクトな仕事をしてくれた。世界中どこを探しても、これ以上のチームメートなんか見つからないだろうね。今日のジャネソンは上りで最強だったし、ロワは下りでボクを待っていてくれた。しっかりと作戦を立ててステージに乗り込んできたし、それを上手く実行できた。ボクらがビッグチームだということを、証明することができた。ピレネーはあと2日ある。どうにか、バルベルデからタイムを奪いに行くよ」(ピノ、ゴール後TVインタビューより)
結局のところ、4選手はそろってフィニッシュラインにたどり着いた。そしてこの4人が、極めて順当に、総合の上から4つの場所に配置された。不動の総合首位ヴィンチェンツォ・ニーバリ、2位アレハンドロ・バルベルデ(4分37秒遅れ)に続いて、4位→3位ピノ(5分06秒)、6位→4位ペロー(6分08秒)と2人のフランス選手がジャンプアップ。もちろん、4人のタイム差に、一切の変動はない。
いわゆる「空白の一日」に苦しめられ、孤独な絶望感さえ味わったというバルデは、やはり下りでエスケープ組の先輩サミュエル・ドゥムランの助けを得て、ピノ集団から1分50秒遅れでステージを終えた。総合では6分40秒差の5位に後退。新人賞の純白ジャージも「普段は仲良しの」ピノに譲り渡した。ただし「今日の戦いには負けたが、まだ明日がある」(ゴール後TVインタビューより)と、いまだ白旗は上げていない。
総合3位から13位まではすべて変動した。クヴィアトコウスキーが7つ順番を上げて9位に飛び込み、モレマは3つ(10位)、ローランは2つ(12位)順番を下げた。そもそも休養日前に総合13位だった世界チャンピオンのルイ・コスタは、ツール序盤から患っていた気管支炎が悪化し、不出走だった。エースナンバー「1」をつけたチームリーダーのリタイアは、これにて7人目となった。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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