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もちろん、バルベルデからわずか34秒差で総合3位につけたピノは、笑顔で背中を見送ったわけではない。やはり逃げ集団から脱落してきたマチュー・ラダニュに集団牽引を命じ、ライバルに決して20秒以上のリードは与えなかった。下り坂が完全に終わる前には、きっちりスペイン人を回収した。上りで一旦小さくなった集団も、再びボリュームを増し、ヴィンチェンツォ・ニーバリ擁するアスタナが集団制御権を取り戻した。淡々と、しかし高速で。
そのリズムを断ち切ったのが、クリストファー・ホーナーだ。ゴール前10.5km、オタカムの山道で、ランプレのアメリカ人は突如として集団前方へと躍り出た。しかも、このアタックが、マイヨ・ジョーヌ本人を動かした。2013年ブエルタで史上最年長グランツール覇者に輝いた当時41歳(現42歳)は、つまり、閉幕の3日前にニーバリからマイヨ・ロホをむしり取った張本人なのだから。ちなみに、この4月、練習中の交通事故で重傷を負い、「ようやく今日、かつての感覚を、取り戻せたような気がしていた」(ホーナー、ゴール後インタビューより)。
「ホーナーがそのまま区間勝利をさらい取ってしまうんじゃないかと、怖かった。だから、早すぎるかもしれないと思ったけど、ボク自身も飛び出した。それに、ホーナーには、ちょっとしたライバル意識があったからね」(ニーバリ、公式記者会見)
ヴィンチェンツォ・ニーバリは、そのまま10kmの勝利街道へと飛び立っていった。一心不乱にペダルを回し、もがくニエベの脇をすり抜け、もちろん誰にも後輪には張り付かせなかった。第2ステージに始まって、第10、第13ステージも勝ち取ったイタリア人は、オタカムの山の上へも最速で駆け上がった。あらゆるライバルから、いや、ツールに残る全164選手から改めてタイムを奪い取って、4度目の区間優勝に、通算16回目のマイヨ・ジョーヌ表彰式。メディアからは「(ランス・アームストロング風)ノーギフト」とか「(エディ・メルクスのあだ名カニバルをもじって)カニーバリ」なんて呼ばれた!
「最終盤は無線が上手く聞こえなくて、ニエベとのタイム差は分からなかったんだ。もう追いつけないかもしれない……と怖かった。とにかく、4勝もできたなんて、ファンタスティック。しかも総合タイム差もさらに開けた。今、ようやく、平静な気持だよ」(ニーバリ、公式記者会見より)
つまり区間優勝は、あらかじめ狙っていたわけだ。赤玉ジャージのことは、特に気にしていなかった。しかし118ptの山岳賞2位が勝利へ向かって突っ走り出したからには、首位149ptのラファル・マイカは、黙って指をくわえているわけにはいかなくなった。山頂フィニッシュポイント2倍ルールのせいで、ニーバリが区間優勝を果たした暁には計168ptとなる。暑さが好きなポーランド人が、首位を守ろうと思ったら、区間6位(=20pt)以上に入ることが絶対条件だ。だからゴール前8.5km、ひとりで飛び出した。
昨日の大逃げ勝利の後で脚はひどく疲れていた、と告白する24歳は、別次元の強さを見せるニーバリの後塵を拝むことすらできなかった。しかも後方からは、「ニーバリの両隣に並ぶ権利」を追い求める3人が、猛スピードで追いついてきた。ただ、うまくこのトリオにくっつくことで、マイカは勢いを失わずに済んだ。
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