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一方でナヴァルダスカスは、下りで一気に20秒ほど稼ぐと、ゴール前5km地点でも20秒程度のリードを保っていた。タイム差がまるで縮まらないのを見て、複数チームがキャノンデールに協力し始めた。ラスト3kmでもいまだ20秒。いよいよオメガファルマ・クイックステップも、前線で猛烈に隊列を走らせた。そう、5日前は、このオメガ列車が、バウアーとの距離を一気に詰める働きをした。
ただし、この日は、トニー・マルティンの姿が先頭にはなかった。全長54kmの個人タイムトライアルステージを翌日に控えて、個人TT世界チャンピオンは、エネルギーを無駄遣いするわけにはいかなかったのだろう!
「自分が出せる限りのハイスピードで、走り続けた。ゴール前25mで吸収されませんように、って祈りながら」(ナヴァルダスカス、公式記者会見より)
幸いにも、ゴール前25mでは、ナヴァルダスカスはすでにウィニングポーズに入っていた。7秒差で追走をかわし、生まれて初めてのツール区間勝利を手に入れた。ガーミン・シャープにとっては今大会初の、祖国リトアニアにとっては史上初の、ツール・ド・フランス区間勝利だった。
追走が失敗したのは、後方で集団落車が発生したせいでもあった。ゴール前2.9km。濡れた路面と、ナーバスな雰囲気に、前から9番目の好位置につけていたサガンが足元を取られた。
「落車の原因はぼくなんだ。ぼくの後ろについていて転んでしまった選手には、本当に申し訳ないことをしてしまった。1日中プロトンの先頭につけていたのは、落車を避けるためでもあったはずなのに、その自分が地面に転がり落ちるなんてね」(サガン、ゴール後TVインタビューより)
3週目を大いにわかせたフランス期待の星、総合5位ロメン・バルデが巻き込まれたため、フィニッシュ地は喧騒に包まれた。総合3位ジャンクリストフ・ペローや7位バウク・モレマ、8位ローレンス・テンダム、9位レオポルド・ケーニッヒもそれぞれに脚止めを食らったが、もちろん「ラスト3kmで落車、メカトラブルなどの理由で遅れた場合、事故時に属していた集団と同じタイムを与える」という救済ルールが発動され、タイムの損失は一切なかった。つまり総合上位の順位変動もなかった。
「3kmアーチを、ほんの100mほど過ぎたところだったのが、不幸中の幸いだった。もしもアーチの100m手前で起こっていたら、果たしてどうなっていたことだろう!?チーム側の要請で、きっと審判団と長い長い会議を持たざるをえなかっただろうね」(ティエリー・グヴヌー、レース委員長、ミックスゾーンインタビューより)
ジャック・バウアーもまた、転んだ。チームメートの区間勝利から9分近く遅れて、フィニッシュラインを越えた。あの日がっくり肩を落としていたニュージーランド人は、ずぶ濡れになった上に、右腰をしこたま打ちつけ、あちこちに切り傷をつくりながらも、仲間の待つチームバスへと大きな笑顔で帰って行った。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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