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「どうして転んでしまったのか分からない。エスケープに乗って、曲がりくねった道や街中を、1日中やりこなしてきた。前を走るデマルキとは十分な距離があった。走行スピードも同じだった。ストレスもなかった。一致団結して、ずっと一緒に走ってきた……。デマルキの後ろを走っていただけなのに、突然、僕のタイヤが滑った。どの程度の速度で走っていたのか分からないけれど、そのまま頭から落ちて……。がっかりしてる。力を尽くしてきたし、勝てるチャンスがあった。フラストレーションでいっぱいだよ」(ヘシェダル、大会公式リリースより)
急に2人きりになったデマルキとデュポンは、後ろを何度も振り返った。しかし、逃げの仲間が戻ってこないことを知ると、再び前を向いて走り始めた。ちょうどそこは、フィニッシュまで緩やかに続く、長い上り坂の始まりでもあった。そして、2013年クリテリウム・デュ・ドーフィネでリズール山頂を制したデマルキが、2010年ジロ・デ・イタリアでトナーレ山頂を勝ち取ったチョップを置き去りにして、独走を始めた。
6月のドーフィネでは3度逃げたが、山岳ジャージで満足するしかなかった。7月のツールでは、難関山岳ステージを中心に5度のロングエスケープを打ったが、敢闘賞以上の名誉はつかめなかった。とうとう、苦労が真に報われる日が、やって来た。
「どれほどアタックをかけたのか、思い出せないくらいだよ!もしかしたら、ここまでは、勝つための何かが僕にかけていたのかもしれない。でもきっと、初めてのブエルタ出場でついに区間勝利をあげる、というのが僕の運命だったのさ。満足してる。今日は全てがパーフェクトに進んだ」(デマルキ、大会公式リリースより)
初めてのグランツール勝利であり、プロ4年目にして2つ目の勝利だった。所属チームのキャノンデールにとっては、シーズン初めてのグランツール区間勝利だった。……2005年にロベルト・アマディオが立ち上げたこのイタリアのチームは、残念ながら、今シーズン限りで解散する。スポンサーのキャノンデールは、ヘシェダルのいるガーミンへと移り、デマルキは来季からはBMCで走る。
「BMCと契約したおかげで、落ち着いた気持ちで走ることができている。チームが変わっても、僕の仕事は変わらないだろう。リーダーのために働き、チームのために働く。そのために、僕はお給料をもらってるんだから」(デマルキ、大会公式リリースより)
背後では、再び立ち上がったヘシェダルが、チョップとデュポンを引き連れて猛烈に走り続けた。デマルキを捕らえることは不可能でも、少しでもメインプロトンからタイム差を稼いでおきたかった。区間勝者から1分34秒遅れでフィニッシュラインにたどり着いたカナダ人は、しかし、単に総合タイムを46秒縮めただけだった(総合7分13秒遅れ)。
メインプロトンは、モヴィスターの隊列に引かれて、静かに突き進んだ。ただゴールラインのほんの数百メートル手前で、ダニエル・マーティンがはじけるように飛び出すと、状況は一変した。フィリップ・ジルベールが後を追い、落車したフルームも加速し……!ほかの選手たちも慌てて駆け上がったが、小さな分断が出来た。2日前は中間ポイントのボーナスタイムで2秒を掠め取った英国人が、分断のおかげで新たに2秒を貯金した。つまりバルベルデには総合20秒差に、ナイロ・キンタナには5秒差に、コンタドールには2秒差に詰め寄った。総合順位には一切変動はなかった。
また、パニックの渦の中で、総合9位のワレン・バルギルが落車。激しく頭から落ちた後、歩いてフィニッシュラインを越えた。上りゴールではあったものの、「山頂」ゴールではなかったため、「ラスト3kmのタイム救済ルール」が適応された。
最初から最後まで、落車の多い1日だった。緑ジャージのジョン・デゲンコルブも、傷ついた体でステージを越えた。朝には完全体198人だったプロトンも、夕暮れ時には少し小さくなっていた。大会1週間目のこの日、3選手が戦線を離れた。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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