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実はティンコフ・サクソ以外にもう1つ、計画を変更したチームがあった。アスタナだ。エスケープ集団にティラロンゴが滑り込んだのは、本来の予定によれば、後々アルが追い付いてきた時にヘルプするため。ゴール前85kmでダリオ・カタルドが一瞬飛び出しにトライしたのも、前方待機が目的だった。
「朝の時点で、逃げに乗るよう指示された。区間を勝つためではなく、前にいるため。つまり最終峠でチームが動いた時に、すぐに助けに駆けつけられるように。最終盤の僕はそれができる場所に控えていた。でもチームカーが、無線で、連絡してきた。ステージを取りに行ってもいいぞ、って」(ティラロンゴ、公式記者会見より)
2010年はコンタドールの山岳アシストとして、また信頼できる先輩として、着実に任務を遂行した。昨ジロとブエルタでは13歳年下のアルのために献身を尽くし、それどころか、まるで保護者のように若き才能を見守ってきた。そんな「アシストの鏡」のようなティラロンゴが、ゴール前14km、自らのためにアタックを打った。
それでも、走りながら、注意深く無線に耳をそばだて続けたそうだ。後方で何が起こっているのかを、正確に把握するために。
「アルとランダがいい動きをしているのが、聞こえてきたよ」(ティラロンゴ、公式記者会見より) (インサウスティ、チーム公式HPより)
後ろ髪を引かれることなく、37歳の大ベテランは、安心してペダルを回した。むしろ、スラフテルに追いつけないかもしれないことのほうが、怖かったそうだ。すべては杞憂に終わる。残り8kmで獲物を捉えた。2時間近く孤独な逃亡を続けてきた哀れな男には、もはや敵と張り合う体力が残っていなかった。ラスト4.3km、ティラロンゴが特段スピードを上げたわけでもないのに、スラフテルはずるずると後退していった。
「僕らは信じられないようなレースをした。でも厳しかった。トムから『もう無理だ、勝てない』と無線で連絡があったから、僕も出来る限りの追走を試みた。結果は残念だったけどね。美しいチームワークだったさ」(ヘシェダル、ゴール後TVインタビューより)
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